酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「死因不明社会」海堂尊

途中まで読んでいてふと思い出したのですが、知り合いの放射線技師に警察が運んできた遺体をⅩ線スキャンしたという話を聞いたことがあります。14,5年前のことです。
そのときは、そんなこともあるのかと聞き流したような気がしますが、今考えてみるにそれはPMI(死後画像診断)というものだったのですね。
14,5年前ということ、それにその地区の状況(山奥の県立病院)を考慮すれば、それは先進的で画期的なことだったかもしれません。
PMIは本書で熱心に語られるAI(Autopsy imaging)=(死亡時画像病理診断)のプロトタイプです。

海堂尊という人はご存じ「チームバチスタの栄光」で一躍脚光を浴びた医療作家で、現役の病理医です。
本書を読んでみると、あたかもAIの問題を社会に認知させるために小説を書いたのだ、と言っているようにも見受けられます。
これだけ熱心にAIの導入を説いているところをみると、あながち本当のことなのかもしれません。
げんに「チームバチスタの栄光」ではAIが事件の謎を解く鍵となりましたし、その言葉自体知らない方ばかりだったと思います。テレビドラマにもなって、認知度も上がったんじゃないでしょうか。
どうして、AI(死亡時画像病理診断)しなければならないのか。
著者はそれを死因確定、医療監査、公衆衛生的なデータ集積、これを私の言葉に変えればつまり殺人事件を見逃さないように、医療事故を見逃さない体制を作れるように、人体内画像データ収集により医学が発展するようにという解剖が社会に必要とされる理由を述べながら、遺体を侵襲しないので家族の同意が得られやすい、そして一体25万ほどかかる解剖のコストが5万円程度で済むなどの極めて実用的な根拠を提示しています。
日本の解剖率はわずかに2%、年間108万人の中で解剖されるのは3万人強ほどらしいです。
つまり死亡診断書にしろ死体検案書にしろ確実な「死因」が不明なのですね。
著者曰く、これではいかん、死因の特定は人間の最後の基本的人権の範疇でもあると言うわけです。
そして破たんしかけている日本の解剖状況の発展的変化を阻害しているのは、思考停止した官僚と硬直した一部アカディミズム集団であると断じています。
今は2011年、この本が書かれてから4年経ちました。
著者をはじめ死亡時医学検索推進派を取り巻く状況はどうなっているのでしょうか。
問題を提起した以上は現状説明の著作が待たれるところですし、最新のノンフィクション「ゴーゴーAI」にどういったことが書かれているのか楽しみでもあり怖くもあります。

関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

まだコメントはありません

Leave a comment