「夜の国のクーパー」伊坂幸太郎
久しぶりに読みました、伊坂幸太郎。
あまり好きな作家ではありません。この人が作品に織り交ぜてくるウンチクは正直うっとうしいですし、“オシャレに小説仕上げてみました”感がどうも苦手だなあ、と思っています。
でも現実社会でもそうですが、たまに嫌いで仕方ないやつに無性に会いたくなるのは人間のサガでしょ。
私なんて飲み屋で偶然嫌いな奴に遭遇したりすると、感動に打ち震えるときがありますね。
そういう時は、どうにか間違って私の頭にビールでもこぼしてくれないものかと祈りますね。
でも嫌いという感情は実はそんなに悪いものでもないらしいです。無関心に比べると嫌われる人間は偉いんだとか。
好き→嫌い→無関心という関係が対人関係にはあるのでしょうか。
すると、伊坂幸太郎という作家はやはりどこかで私を惹きつけているということなのかもしれません。
それに本作の新聞広告に『しゃべる猫がうんぬん』と確か書かれているのを見たもんですから。
にゃんこが喋る(・∀・)のか、じゃあ読んでみようと、猫好きな私は思ってしまったわけでして。
伊坂作品を順番を追って読んでいるわけではないので、本作の登場人物が他作品とリンクしているのかどうかわかりません。特に、仙台の港から舟で釣りに出て迷い込んでしまった、妻が浮気している公務員のおっさん。
このおっさんの胸の上に乗ったにゃんこのトムが語るストーリーが本作の大部分ですし、ラストではおっさんが活躍するのでこのおっさんの素性が別の作品で明らかになっているのなら、本作も違った見方が出来るのかもしれません。ただ、作者あとがきによると本作完成までに2年半近くかかったと書かれていますからまったく関係ないのかもしれません。ちなみにこのおっさんは我々の世界の住人です。トムは違います。
猫のトム(僕と云うからオスでしょう)が住んでいる町は8年間続いた戦争に負け、敵である鉄国の兵隊が進駐してきました。兵隊は猫ではありません、人間です。でも、この町の猫は人間の喋っている言葉が自分たちが喋っている言葉と同じように理解できます。その逆にこの町の人間は猫の喋っている言葉がわかりません。
鉄国の兵隊は進駐してきたその日に、この町の国王を鉄砲で撃ち殺しました。
この町の住人は鉄砲なんて初めて見た武器でしたし、ちなみに兵隊が乗ってきた馬という動物も初めて見ました。
兵隊は、動揺する住民に対し自宅から出ないよう忠告します。しかし、そうは云われてもうちでおとなしくしている場合ではありません。監視の目を盗んだ住民はこの町の長老の家に寄って今後どうするべきかの話し合うのです。そしてその話の中で、クーパーの兵士はこの町の人たちが困ったときには助けに戻ってくる、という秘話が語られました。クーパーの兵士とは何か?これはちょっとややこしい。簡単に云えば、この町の境を出てずっと西北に進むと杉の林があります。一年に一体、その中の杉が怪物になって襲い掛かってくるのです。クーパーとは杉の化物のことです。そしてこのクーパーを倒すために毎年選抜されるのが“クーパーの兵士”だったのです。だった、というのも実は10年前にクーパーの兵士を率いていた複眼隊長(帽子に複数の目が描かれているためこう呼ばれる)が完全にクーパーの発生の根絶に成功したのです。しかし、クーパーと戦い、その体液がかかると体が透明になるといわれています。かつてのクーパーの兵士の生き残りが透明になりながらもこの町の危機を救いに来てくれる……住人はそう思わないではいられませんでした。
結論から云うと、これは寓話なのかもしれませんね。
『信じるかどうかは自由だが、どんなものでも疑わず鵜呑みにすると痛い目に遭う。必ず疑う心を持てよ、そしてどっちの側にも立つな、一番大事なのはどの意見も同じくらい疑うことだ』
という途中で語られているこの言葉そのものの物語であるかもしれないし、それが現代社会へのメタファーであるのかもしれません。あるいは昨今巷で騒がれている小さいおじさんの件も絡んでいるのかもしれません。
ラストの仕掛けは真面目に読んでいれば誰もがどこかで気付くものでしょうし、たいしたことありません。
ちょっとした問題はやはり仙台の釣りのおっさんが他作品にも登場しているかどうかでしょうね。
それがないのなら、本作の正体はファンタジックな寓話ということでいいかと私は思います。
しばらくして記憶に残っているのは、にゃんこのトムが毛繕いしている姿だけでしょう。
猫の生態の描き方は巧かったと思いますよ。
あまり好きな作家ではありません。この人が作品に織り交ぜてくるウンチクは正直うっとうしいですし、“オシャレに小説仕上げてみました”感がどうも苦手だなあ、と思っています。
でも現実社会でもそうですが、たまに嫌いで仕方ないやつに無性に会いたくなるのは人間のサガでしょ。
私なんて飲み屋で偶然嫌いな奴に遭遇したりすると、感動に打ち震えるときがありますね。
そういう時は、どうにか間違って私の頭にビールでもこぼしてくれないものかと祈りますね。
でも嫌いという感情は実はそんなに悪いものでもないらしいです。無関心に比べると嫌われる人間は偉いんだとか。
好き→嫌い→無関心という関係が対人関係にはあるのでしょうか。
すると、伊坂幸太郎という作家はやはりどこかで私を惹きつけているということなのかもしれません。
それに本作の新聞広告に『しゃべる猫がうんぬん』と確か書かれているのを見たもんですから。
にゃんこが喋る(・∀・)のか、じゃあ読んでみようと、猫好きな私は思ってしまったわけでして。
伊坂作品を順番を追って読んでいるわけではないので、本作の登場人物が他作品とリンクしているのかどうかわかりません。特に、仙台の港から舟で釣りに出て迷い込んでしまった、妻が浮気している公務員のおっさん。
このおっさんの胸の上に乗ったにゃんこのトムが語るストーリーが本作の大部分ですし、ラストではおっさんが活躍するのでこのおっさんの素性が別の作品で明らかになっているのなら、本作も違った見方が出来るのかもしれません。ただ、作者あとがきによると本作完成までに2年半近くかかったと書かれていますからまったく関係ないのかもしれません。ちなみにこのおっさんは我々の世界の住人です。トムは違います。
猫のトム(僕と云うからオスでしょう)が住んでいる町は8年間続いた戦争に負け、敵である鉄国の兵隊が進駐してきました。兵隊は猫ではありません、人間です。でも、この町の猫は人間の喋っている言葉が自分たちが喋っている言葉と同じように理解できます。その逆にこの町の人間は猫の喋っている言葉がわかりません。
鉄国の兵隊は進駐してきたその日に、この町の国王を鉄砲で撃ち殺しました。
この町の住人は鉄砲なんて初めて見た武器でしたし、ちなみに兵隊が乗ってきた馬という動物も初めて見ました。
兵隊は、動揺する住民に対し自宅から出ないよう忠告します。しかし、そうは云われてもうちでおとなしくしている場合ではありません。監視の目を盗んだ住民はこの町の長老の家に寄って今後どうするべきかの話し合うのです。そしてその話の中で、クーパーの兵士はこの町の人たちが困ったときには助けに戻ってくる、という秘話が語られました。クーパーの兵士とは何か?これはちょっとややこしい。簡単に云えば、この町の境を出てずっと西北に進むと杉の林があります。一年に一体、その中の杉が怪物になって襲い掛かってくるのです。クーパーとは杉の化物のことです。そしてこのクーパーを倒すために毎年選抜されるのが“クーパーの兵士”だったのです。だった、というのも実は10年前にクーパーの兵士を率いていた複眼隊長(帽子に複数の目が描かれているためこう呼ばれる)が完全にクーパーの発生の根絶に成功したのです。しかし、クーパーと戦い、その体液がかかると体が透明になるといわれています。かつてのクーパーの兵士の生き残りが透明になりながらもこの町の危機を救いに来てくれる……住人はそう思わないではいられませんでした。
結論から云うと、これは寓話なのかもしれませんね。
『信じるかどうかは自由だが、どんなものでも疑わず鵜呑みにすると痛い目に遭う。必ず疑う心を持てよ、そしてどっちの側にも立つな、一番大事なのはどの意見も同じくらい疑うことだ』
という途中で語られているこの言葉そのものの物語であるかもしれないし、それが現代社会へのメタファーであるのかもしれません。あるいは昨今巷で騒がれている小さいおじさんの件も絡んでいるのかもしれません。
ラストの仕掛けは真面目に読んでいれば誰もがどこかで気付くものでしょうし、たいしたことありません。
ちょっとした問題はやはり仙台の釣りのおっさんが他作品にも登場しているかどうかでしょうね。
それがないのなら、本作の正体はファンタジックな寓話ということでいいかと私は思います。
しばらくして記憶に残っているのは、にゃんこのトムが毛繕いしている姿だけでしょう。
猫の生態の描き方は巧かったと思いますよ。
- 関連記事
-
- 「スカイ・クロラ」森博嗣 (2015/01/06)
- 「リップステイン」長沢樹 (2014/09/09)
- 「ノックス・マシン」法月綸太郎 (2014/03/03)
- 「もしもし、還る。」白河三兎 (2013/11/19)
- 「名前探しの放課後」辻村深月 (2012/11/08)
- 「迷宮百年の睡魔」森博嗣 (2012/08/20)
- 「女王の百年密室」森博嗣 (2012/08/11)
- 「夜の国のクーパー」伊坂幸太郎 (2012/07/14)
- 「凍りのくじら」辻村深月 (2012/07/12)
- 「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾 (2012/05/14)
- 「折れた竜骨」米澤穂信 (2011/11/27)
- 「ダークゾーン」貴志祐介 (2011/07/28)
- 「完全なる首長竜の日」乾緑郎 (2011/04/18)
- 「リピート」乾くるみ (2010/11/24)
- 「オーデュボンの祈り」伊坂幸太郎 (2010/10/22)
スポンサーサイト