「それまでの明日」原尞
正体不明の依頼人。
彼に会ったのは、初対面のあの日が最初で最後だった――
直木賞史上に残る衝撃作「私が殺した少女」を著した原尞が
14年ぶりに奇跡の復活
非常にうれしい驚きでした。
まさか、生きている間に原尞の新作が読めるとは思わなかったですから。
寡作寡作というのは本人も嘆いていた通りでしたが、さすがに10年も新作が出ないと待つ気も失せるものです。
よく書けたなあ、というか、よく書く気になったものです。
主人公の沢崎も50歳になっています。
警察や清和会の人間もうっすらと記憶に残っている程度です。
なぜ苗字は沢崎なのに渡辺探偵事務所なのかという基本的な設定すら忘れていました。
ああそういえば、ハスキーボイスの電話サービスの女性がいたわ、とか思い出したり……
まあ、細かいことはいいんです。
和製レイモンド・チャンドラーが復活したんですから。
簡単にあらすじ。
西新宿のはずれのうらぶれた通りにある渡辺探偵事務所をひとりの紳士が訪れた。
親友の渡辺が死んで17.8年。沢崎も探偵歴30年のベテランになったが、依頼人としては今まで見たこともないような初老の紳士である。しかし彼の依頼は、いささか沢崎をして違和感を感じるものだった。
意外にも依頼人は金融会社の新宿支店長で、融資の内定している赤坂の料亭の女将の私生活を調査してほしいという。
さっそく調査を開始した沢崎だったが、とたんに対象の料亭の女将はすでに死亡していることがわかり肩透かしを喰らう。
そして、以後の方針を尋ねるべく訪れた依頼人が支店長を勤める新宿支店で強盗未遂事件に遭遇する。
さらに支店長だった依頼人は事件の前に支店を出たまま行方不明になっていたことがわかった。
事件後、沢崎の周辺を伺いだした暴力団の黒い影。
強盗未遂事件で沢崎と同じように人質となり、機転で犯人を投降させた謎の青年・海津一樹は何者か。
いったい沢崎は、どのような陰謀に巻き込まれようとしているのか……
これほど雰囲気のあるハードボイルドを書ける人はもういないんじゃないでしょうか。
ちょっとした交番の警官との会話とかでも妙に味がある。
全体的に薄暗いトーンで落ち着いているのですが、いきなり銀行強盗に巻き込まれたりと、ジェットコースター的な展開で引き込まれますし、何より物語そのものがミステリー構成になっているので先が気になって飽きません。
難を言えば登場人物が多いせいと複雑に筋が絡み合うので事の真相が掴みづらい、という感もあるにはあります。
たとえば、依頼人がなぜ望月の名を騙ったのかとか、父を探していた海津はいったいどういう役目だったのか、ということなどが挙げられます。ふたつともあまり意味はないようですね。とくに望月の名を騙ったのはまったく意味がないですね。海津という青年もよく起業できたなあと思えるくらい気色悪いキャラでしたね。結局、ふたつとも物語をミステリーにするためのちょっと強引なトッピングだったというわけです。
いまだに携帯電話を持っていない沢崎ですが、当初このことに違和感がありました。
しかし、よく考えてみれば、探偵がスマホを持つことにデメリットはありますね。
その中に証拠が残れば、いざスマホを奪われればそれで探偵失格ですよね。
現実はともかく、冒険小説の主人公たる探偵はスマホに頼ってはいけませんわ。
きっと沢崎も同じ理由でいまだに電話サービスという化石のような会社に頼っているのでしょうが……
部屋の合鍵の隠し場所の上には、ゴキブリのおもちゃを置くこと。これは大変、勉強になりました。
原尞の存在を知らず、本作をきっかけに最初から沢崎シリーズを読んでみようかと思っている方がいるならば、正直、めちゃくちゃ羨ましいです。
彼に会ったのは、初対面のあの日が最初で最後だった――
直木賞史上に残る衝撃作「私が殺した少女」を著した原尞が
14年ぶりに奇跡の復活
非常にうれしい驚きでした。
まさか、生きている間に原尞の新作が読めるとは思わなかったですから。
寡作寡作というのは本人も嘆いていた通りでしたが、さすがに10年も新作が出ないと待つ気も失せるものです。
よく書けたなあ、というか、よく書く気になったものです。
主人公の沢崎も50歳になっています。
警察や清和会の人間もうっすらと記憶に残っている程度です。
なぜ苗字は沢崎なのに渡辺探偵事務所なのかという基本的な設定すら忘れていました。
ああそういえば、ハスキーボイスの電話サービスの女性がいたわ、とか思い出したり……
まあ、細かいことはいいんです。
和製レイモンド・チャンドラーが復活したんですから。
簡単にあらすじ。
西新宿のはずれのうらぶれた通りにある渡辺探偵事務所をひとりの紳士が訪れた。
親友の渡辺が死んで17.8年。沢崎も探偵歴30年のベテランになったが、依頼人としては今まで見たこともないような初老の紳士である。しかし彼の依頼は、いささか沢崎をして違和感を感じるものだった。
意外にも依頼人は金融会社の新宿支店長で、融資の内定している赤坂の料亭の女将の私生活を調査してほしいという。
さっそく調査を開始した沢崎だったが、とたんに対象の料亭の女将はすでに死亡していることがわかり肩透かしを喰らう。
そして、以後の方針を尋ねるべく訪れた依頼人が支店長を勤める新宿支店で強盗未遂事件に遭遇する。
さらに支店長だった依頼人は事件の前に支店を出たまま行方不明になっていたことがわかった。
事件後、沢崎の周辺を伺いだした暴力団の黒い影。
強盗未遂事件で沢崎と同じように人質となり、機転で犯人を投降させた謎の青年・海津一樹は何者か。
いったい沢崎は、どのような陰謀に巻き込まれようとしているのか……
これほど雰囲気のあるハードボイルドを書ける人はもういないんじゃないでしょうか。
ちょっとした交番の警官との会話とかでも妙に味がある。
全体的に薄暗いトーンで落ち着いているのですが、いきなり銀行強盗に巻き込まれたりと、ジェットコースター的な展開で引き込まれますし、何より物語そのものがミステリー構成になっているので先が気になって飽きません。
難を言えば登場人物が多いせいと複雑に筋が絡み合うので事の真相が掴みづらい、という感もあるにはあります。
たとえば、依頼人がなぜ望月の名を騙ったのかとか、父を探していた海津はいったいどういう役目だったのか、ということなどが挙げられます。ふたつともあまり意味はないようですね。とくに望月の名を騙ったのはまったく意味がないですね。海津という青年もよく起業できたなあと思えるくらい気色悪いキャラでしたね。結局、ふたつとも物語をミステリーにするためのちょっと強引なトッピングだったというわけです。
いまだに携帯電話を持っていない沢崎ですが、当初このことに違和感がありました。
しかし、よく考えてみれば、探偵がスマホを持つことにデメリットはありますね。
その中に証拠が残れば、いざスマホを奪われればそれで探偵失格ですよね。
現実はともかく、冒険小説の主人公たる探偵はスマホに頼ってはいけませんわ。
きっと沢崎も同じ理由でいまだに電話サービスという化石のような会社に頼っているのでしょうが……
部屋の合鍵の隠し場所の上には、ゴキブリのおもちゃを置くこと。これは大変、勉強になりました。
原尞の存在を知らず、本作をきっかけに最初から沢崎シリーズを読んでみようかと思っている方がいるならば、正直、めちゃくちゃ羨ましいです。
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