「盤上の向日葵」柚月裕子
間違いなく、今年読んだ小説の中でベスト3に入ると思います。
直木賞の選考に本作が入るのならば、かなりの確率で受賞が見込まれるのではないですか。
「孤狼の血」なんて霞むね、本作の前では。
よくぞ挑戦したと思います。
「将棋」をテーマにした、殺人事件ミステリー。
将棋を知らない方でも知っている方でも平等に楽しく読めるでしょう。
東名重慶という真剣師(賭け将棋を仕事にしている)が出て来るのですが、明らかにモデルは実在した小池重明という真剣師であることは明らかで、私は昔に小池重明の本を読んだことがあったので、なおさら面白かった。
あくまでも物語のアクセントですが、棋譜にもかなり踏み込んでいて、そのなかに実際に小池重明の棋譜が使われていたように思います。2一歩ね。苦し紛れのような歩。私の記憶に間違いがなければ、おそらく小池重明と当時ノリノリのプロ棋士である森鶏二の対戦のときの棋譜ではなかったかな。すっと鳥肌立ちました。
そのことでも、作者がいかに本作に力を注いでいたかがわかりますが、本作がすごいのは、将棋だけではないこと。
地べたを這いずり回るような刑事に捜査もそうですし、物語全体に流れる何も言えない文学的な暗い雰囲気など、いろいろな要素がバランスよく詰め込まれて整頓されていることが、本作の完成度を高めている所以だと思います。
人物描写も完璧に近いのではないですか、脇役までね。大河的な流れもあるしね。
本当に久しぶりに、物語の世界にのめり込みました。
簡単にあらすじ。
平成6年8月。
埼玉県大宮市の北へ15キロにある天木山の山中で、白骨化した男性の遺体が見つかった。
死後3年は経過していると思われる遺体の身元は不明で、不思議なことにその胸には将棋の駒が抱かれていた。
さらに奇妙なことに、大宮北署に立った捜査本部の調べでは、その駒は、江戸時代から大正にかけて活躍した名工・初代菊水月の作で、最高の素材と技術が駆使された数百万はする最高級品であることがわかった。
高価な駒をなぜ遺体と一緒に埋めたのか?
事件解決の大きなカギは、遺体の身元はもちろん、遺留品の将棋の駒の由縁である。
かつてプロ棋士の登竜門である奨励会に所属しており志半ばで去った大宮北署の新米刑事である佐野直也は捜査本部に配属され、埼玉県警捜査一課の優秀な刑事でありながら一癖も二癖もあるベテラン石破剛志を組み、謎の駒の由縁を追う。
やがてその捜査は紆余曲折を経ながら、東大を出た後外資系企業に就職して独立、ITベンチャー会社を立ち上げて巨利を得ながら、将棋のアマ名人戦で二連覇して特例でプロ編入試験に合格、現在壬生六冠と棋界最高峰である竜昇戦を戦っている上条桂介6段へとつながっていく。
長野県諏訪市で育ち、幼いころに母親を亡くして父親の暴力と空腹に耐えながら生きてきた少年時代。
東京大学に合格しながら、裏社会と繋がりのある伝説の真剣師・東名重慶と交際した将棋への情熱。
異端の棋士と呼ばれる彼の隠された過去と、日本に七組しかない最高峰の将棋の駒が埼玉の山中に身元不明の遺体と一緒に葬られた事件がリンクするとき、禁断の秘密が明かされる・・・
どうして平成6年だったんだろ。
奨励会の規則が変わったからでしょうか。これだけがわからないですね。
この作家は、“ちょっと過去”を舞台にしがちですね。
ちょっと残念だったのは、ラストだなあ。
あれだけの仕事をしてきたコンビが最後にミス・・・
駅のホームで任意同行するときは、もうちょっと気を使いませんか?
まあでも、稀有の面白さであったことに変わりはありません。
著名作家の量産品ではなく、目がギラギラしているこれからの作家の本気度が感じられる作品でした。
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