酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「明治維新の正体」鈴木荘一

 独自の観点により、徳川から明治へという幕末維新の政局を解き明かした新史観本。
 最近流行っている“新史観”ですが、本書は読んでおいて損はありません。
 幕末の歴史に興味のある方ならば是非とも目を通しておきたい一冊であると思います。

 私はどちらかというと司馬史観と言うのかな言わないのかな、新政府側に肩入れした本や逆に時代のあだ花となった新撰組の本などに影響を受けてきたので、本書を読んで新鮮だと感じましたし、目を開く思いがしました。
 もちろん、小説として書かれた坂本龍馬や西郷隆盛などの活躍をそのまま信じ切っていたわけではないのですが、本書でいうところの「戊辰戦争に勝った薩長新政府が自分たちに都合のよい幕末維新史を書いて学校で教えた」と言われてみると、ああそういう観点もありかもな、私もまた洗脳されていたのかなと思う次第です。
 もっとも、100年以上昔のことを己の好きなように解釈して飲み屋で大ボラを吹くのは私も同じなのですが、著者の述べるところはすべて事実を土台にしており、妄想ではありませんから説得力があります。
 実際に、知らなかったことがたくさんありましたね。
 けっこうたくさんの幕末に関する本を読んできたのに、これだけ知らないことがあったのかと驚きました。
 わざと事実を省かれた、隠された本を読んできたのかと疑うくらいです。
 たとえば京都で発生していた攘夷派によるテロですね、こんな凄惨でむごたらしいものとは思いませんでした。
 とても国家のために高い理想を掲げている人物のすることではありません。
 朝廷の裏話も多く披露されています。
 咸臨丸がアメリカに渡ったときの模様がこれだけ詳しく紹介されている本も初めて読みましたし、日米外交史はもとよりイギリスやロシア、フランス、オランダなどとの国家存亡のかかった幕末外交もわかりやすく説かれています。
 イギリス公使パークス、通訳士アーネスト・サトウ、死の商人グラバーがこれだけ内政に干渉していたとは驚きました。
 アーネスト・サトウにおいてはお前スパイじゃないのかとまで思いましたし、維新の回天には大英帝国の陰謀は色濃く反映されているのは間違いないと思います。
 その上で、著者は坂本龍馬を「薩摩藩や長州藩や土佐藩を合力させて幕府と戦わせ、南北戦争で使用された最新鋭小銃を密輸入して売り込み、日本人同士を殺し合わせて高利潤を貪ろうとした」と断罪しています。
 武力倒幕派の首領たる西郷隆盛がいかに横暴であったかというのが本書のテーマでもあるのですが、本書に書かれたとおり赤報隊の相楽総三を使い捨てに殺した西郷ならば、坂本龍馬暗殺の黒幕くらいにはなったでしょうね。
 もっとも本書には、「坂本龍馬ごとき」の暗殺の顛末など一顧だにされていませんが・・・
 確かに坂本龍馬については、司馬遼太郎によって幕末のスーパースターに祭り上げられた可能性も否定できませんから。
 
 一方、もうひとつのテーマといいますか本書の骨子でもある徳川慶喜についてはどうでしょうか。
 確かに、最大の政治決断である大政奉還をした意義は歴史上とてつもなく大きいことです。
 その決断こそが明治維新を成就させた功績であることは、彼が明治41年に明治天皇から勲一等旭日大綬章を授与されたことからも明らかです。日本の歴史を変えましたから。
 ただし、それで本当によかったのですかね?
 彼が大政奉還によって目指していたものは、上下二院制のイギリス型議会制度です。
 当時の日本が、天皇制や公家、武家制度など古からのしがらみを遺しながら近代化を図るには、イギリスを手本として天皇を国家元首とし、大君を政治上の指導者とし、一万石以上の大名を世襲の上院議員にすれば、イギリス型公議政体へ移行できると考えたのですね。これが後進国であった日本が世界の列強に食い物のされずに未来へ生き残る道であると。
 徳川慶喜が英邁であったということに異議はありません。その通りの傑物でしょう。
 しかし結果的には、長州の陸軍といわれるバカを生んで太平洋戦争で国家滅亡の危機に瀕することになりました。
 どこで彼が失敗したかというと、どうしても鳥羽伏見のときに大阪から脱出して江戸に逃げたことを見逃すわけにはいきません。本書では、側近の神保修理の絶対的尊王論に組み伏せられ錦の御旗に抗うことを避けたと書かれていますが、本書で唯一解せないのはそこです。理由としては弱いと思います。大阪城に篭って彼自身が作り上げた精強たるフランス式陸軍の指揮をとると意気込んでいた慶喜がなぜ逃げたのか? その点についてだけは本書の解釈では弱すぎると思いますね。
 そこだけ残念。
 それ以外は十分楽しめました。特に序盤は最高だったと思います。


 
 
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