酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「さらさら流る」柚木麻子

  自分はそんなにも愚かだったのだろうか。
 あの男を信じたことは、こんな罰がふさわしいほどの過ちなのだろうか。
 そして、彼は菫のことをそんなにも憎んでいるのだろうか。
 どうしても信じたくなかった。真相は別にあるはずだ。それを確かめたい、と思う。


 恋人に撮られたヌード写真が流出し、社会的にも精神的にも追い詰められた女性の再生を描く問題小説。

 あらすじ。
 大手コーヒーチェーンの広報部宣伝課の花形社員である28歳の井出菫は、ネットで調べ物をしていたとき、偶然に自分のヌード写真がいかがわしいサイトに投稿されているのを見つけた。
 その写真は、22歳のとき、当時付き合っていた彼氏に強制されて撮影されたものだった。
 直後に菫は泣いて懇願し、写真を削除してもらったはずだった。
 それなのに、どうしてこんなところにあの時の写真が貼られているのか。
 掲示板には、被写体である菫の体を面白半分に揶揄するコメントも多数書き込まれ、菫は茫然自失した。
 6年前に意を決して別れた彼氏の名前は、垂井光晴。
 同じ大学の同級生で、東京名所探求会というサークル仲間だった。
 世田谷の実家から通い、女子校育ち、推薦入学、二次会には参加しない、家族の予定を優先する、天然で恵まれた容姿の割にどこか異性から遠巻きに見られていた菫を、飲み会の帰りに東京の暗渠をたどりながら数時間かけて家まで送り届けてくれたことがきっかけで、ふたりは付き合うようになった。
 「暗渠」とは、蓋をしたり埋設した川や水路のことで、1964年の東京オリンピックの前に街の景観を整えるためにたくさんの川が暗渠にされたのだ。
 恵まれた環境で育った菫に対して、実の母親を失い義理の母に冷遇されて育った光晴。
 環境のせいばかりではない、しかしそれをが埋めることのできない溝となって4年付き合った後に二人は別れた。
 今にして思えば、付き合っている最中、いや付き合い始める前、もっと前、暗渠を辿って我が家に足を踏み入れた最初の瞬間から、家族と友達に守られ、ぬくぬくと暮らしている菫を妬み、嫌悪し、いつしか陥れてやろうと機会をうかがっていたのではないか。
 しかしそれならば、なぜ別れて6年も経った今頃になって、こんな復讐を思い立ったのだろうか・・・

 はい。
 ヌード写真のネット流失ねえ。
 それが周辺の内輪で広まったものでなければ、現実的に考えれば、自分を知っている人の目に触れる可能性はかなり低いと思われます。素人が撮ったものであれば画像の質も悪いですし、絶対に本人であると言い切ることもできません。
 いかがわしいサイトなんて、そんなにみんながみんな覗いているわけではありませんから。
 動画ではなくて写真ならばなおさらでしょう。
 だから、いうほど気にしなくていいと思うのですが、貼られた本人はそう冷静には考えられないでしょう。
 むしろ、誰がどういう目的で貼ったのかが気色悪い点だと思います。精神を病みますね。
 本作の場合は、リベンジポルノとは違う過程だったわけですけども、写真を消したと言いながらずっと保存していたわけですから、男の側の責任というか、形を変えたリベンジポルノであると云えるかと思います。
 撮らせた女のほうも悪い、とは私は思わないなあ。
 そのときの流れがあるわけですからね、隠し撮りもできますし、レイプに近い状況だってあるわけですから。
 それがネットに流失し、拡散してしまう状況を持っていたほうが悪いと私は考えます。
 結果的には、1億総AV俳優時代と言われているくらいですから、誰かに見つかったらどうしようとびくびくしながら暮らすよりも、しかるべきところに相談して対処してもらい、人権の修復をはかったうえで、正々堂々と生きればいいと思いますよ。
 予防としては、写真を撮らすなというより、バカとは付き合うなということですね。


 
 

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