酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「サイコパス」中野信子

 怖い。ぞっとした。これ読むと気軽に人と付き合えないわ。
 サイコパス。
 多くの方が一度は聞いたことがある単語ではないでしょうか。
 ハンニバル・レクター博士を連想する方もいらっしゃるでしょう。
 実際、元々は「サイコパス」とは連続殺人犯などの反社会的な人格を説明するために開発された診断上の概念で、日本では「精神病質」と訳されてきました。精神医学の分野では「反社会性パーソナリティ障害」という診断基準に含まれます。
 しかし、必ずしもサイコパス=犯罪予備軍ではないのです。
 サイコパスの誰もが殺人犯になるわけではないのです。
 リスクに直面して不安や恐怖を感じず、感情が希薄で、共感性が低く、平気で嘘をつくなどがサイコパスという個体の特徴ですが、実業家や弁護士、外科医など社会的地位の高い人に多いとも言われています。
 不安や恐怖を感じることがないのでハイリスクハイリターン的な勝負をするため経済的に成功を収めた方もたくさんいます。一方で莫大な借金を抱えて破滅する方もいます。サイコパスは人のわずかな表情から感情を読み取ることが巧みなので人を騙すことに長け、誰もを引きつける弁舌の才能があります。政治家にも多いことでしょう。ジョン・F・ケネディやビル・クリントン、スティーブ・ジョブズもサイコパスだったのではないかと言われています。織田信長もそうだったと、著者がテレビで言っているのを観たことがあります。意外なところでは、あの聖人マザー・テレサも。
 今ワイドショーでバタバタしている某神戸市義も私はクサイと思う。
 驚くべきことに、程度はともかくとして、なんと100人に1人はサイコパスである可能性が高いそうです。
 これは、そのへんにいるということだよ。私やあなたの周りにきっといる。サイコパスは社会を成す一員なのです。
 言うことがコロコロ変わり、やたら威張り散らし、会社という共同体からどこか浮いているような閑職の男性上司がいませんか。高い確率でその方はサイコパスです。サイコパスは女性よりも男性の方が圧倒的に多いそうです。

 サイコパスの特徴のひとつとして、まばたきが少ない、そして心拍数が少ないことが挙げられます。
 心拍数が少ないということは、びっくりしないということなんですね。だから感情が冷たい。
 サイコパス特有の脳の器質的な研究も進み、扁桃体など大脳辺縁系の異常や扁桃体と前頭前皮質の連携が一般人と比べて弱いことが明らかになり、このことが共感性の弱さや道徳観の低さに関係していると言われています。
 普通の人ならば犯罪を犯すことにためらいがありますが、サイコパスはそういう不安を抱きません。
 理性的には善悪の区別がつくのに、情動のレベルでは犯罪行為が道徳的に間違っていることがわかりません。
 例を上げるならば、ある集落に殺人者の集団が襲ってきて、集落のみんなが一箇所に固まって隠れているとします。そのとき赤ちゃんが泣いてしまった、さあ大変! このとき普通の人ならばなんとか赤ちゃんを黙らす方法を考えてみんなが助かる方法を模索しますが、サイコパスなら躊躇なく赤ちゃんを殺します。

 サイコパスの脳に器質的な異常があるということは、けっして遺伝の影響も無視できません。
 だから将来的に遺伝情報で誰がサイコパスであるかわかるようになれば、とんでもない差別社会が生まれるでしょう。なんせ100人に1人の確率で存在するのですから。
 このことは言い換えれば、生物の進化学的にサイコパスという個体が排除されることなく残ってきたということです。
 つまり、人類の進化のうえでサイコパスは有用だったということですね。
 読んでて納得したけど同時にぞっとしたのは、人類の歴史は常に戦争がつきまとっていたということです。
 戦場において隣の味方が殺されても動じることなく、敵兵を殺戮できる殺人マシーン。
 サイコパスならば、時代によっては凡人の到達できぬ英雄であったはずなのです。
 しかし現代になって、大きな戦争はなくなりつつあり、中世と比べて人を殺す機会は格段に減っています。道徳のレベルが向上しているからです。
 このことは、サイコパスにとっては生き辛く、彼らが“異体”として浮かび上がってきた原因ではないかと思われるのですね。
 私も息をするように嘘をつく人間なのですが、嘘つきや人格破綻はともかく、フワフワ好きの私的には動物が虐待されても心の痛みを感じないというのが、震えるほど恐ろしいわ。絶対に隣にいたくない。

 と言いつつ私も実はサイコパスだったりしてと最終章の簡単なサイコパスチェックを試してみました。たとえ自分がサイコパスであっても効果的な治療方法は今のところ確立されておりませんので、あしからず。小説家などの職業が向いているようなので、そっちの方面でおとなしく頑張ってください。


 

 
 
 
 
 
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