酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「暗手」馳星周

 本当に久しぶりの馳節が炸裂するブラック・ノワール。
 小難しいことは置いといて、やっぱ馳星周はこうじゃなきゃという作品。
 銃の引き金にかけた指は躊躇なく引く!!

 すっかり忘却の彼方にありましたが、本作は「夜光虫」の19年ぶりの続編だそうです。
 間違いなく読んでるはずですが、まったく記憶にございません。
 物語も佳境に入った頃、たまさかフラッシュバックしていた主人公の過去の話がそろそろ詳細に振り返られるかと思いきや、まったく姿を現さないので、「おかしい」と思って調べたら過去作の続編だったということが明らかになったのでした。
 よくあることですね\(^o^)/
 まあ仕方ない、関係なく面白かったですが、やはり順番としては「夜光虫」を読んでおいたほうがよかったね。
 主人公の加倉昭彦は日本のプロ野球のエースピッチャーだったみたいですが、故障して台湾球界に渡り、そこで八百長に手を染めることになり、自分を陥れた連中を殺しに殺しまくったのです。
 そのとき、自分を慕ってくれていた人間の妻に横恋慕していました、その女性は麗芬といいます。
 台湾で黒社会から命を狙われることになった加倉は、整形で顔を変え、戸籍を買い取って名前を変え、日本人であったという痕跡を完璧に消し去ってフィリピンに脱出、やがてインドネシアでスポーツ賭博に手を染めて、ヨーロッパに渡りました。
 そしてイタリアで数々の偽名を駆使し、現在は「暗手(アンショウ)」という呼び名で黒社会の何でも屋をしています。
 彼の過去は誰も知りません。彼自身も自分の本名を忘れて暮らしています。
 余分なものの一切ないシンプルな部屋に、麗芬の写真が飾られている以外には・・・

 便宜的に主人公を加倉と呼びますが、本作で彼が請け負った仕事、それはセリアAを舞台にした八百長でした。
 依頼主は、中国大陸からヨーロッパまで手広く稼ぐサッカー賭博の帝王・王天。
 ターゲットはセリアA残留が目標のプロビンチャチームに所属している、日本人GK大森怜央。
 大森は、将来は日本代表入りも噂される優秀な若手ゴールキーパーで、チームのヒーローになっていました。
 しかし運の悪いことに、黒社会から目をつけられてしまったのです。
 サッカー賭博は失点に絡みやすいGKやディフェンダーが標的にされることが多いのです。
 日本人貿易商を装った加倉は偶然のふりをして、大森に接触し、たちまち信頼を勝ち取ります。
 そして大森のタイプである女性をあてがい、その女性にのめり込ませることによって、八百長の闇の世界へと導いていくのです。かつて自分がそうであったように・・・
 大金が動くサッカー賭博はシーズン終了間際が勝負です。残留がかかった試合で、大森にわざと失点をさせてチームを負けさせる、それが加倉の仕事で、1年にわたる息の長い仕掛けが必要でした。しかし思わぬイレギュラーが起こり、鉄面皮であった「暗手」の冷え切った心が揺れ動くことになります。
 なぜなら弟の活躍を観るために日本からやってきた大森の姉が、麗芬にそっくりな雰囲気を持つ女性だったのです。
 生きる意味などまったくなく、むしろ殺して欲しいと潜在意識で思っていた加倉は、彼女と出逢うことで変わり始めるのです。
 二度と麗芬を裏切りたくない加倉、しかし、組織を裏切れば容赦のない死が待っています。
 そしてかつて台湾で自分を狙っていた史上最強の殺し屋、馬兵が王天に雇われて加倉の仕事を監視するようになり、彼はますますジレンマを抱え込むことになるのです。

 確かに久しぶりの馳節ですが、以前より話がわかりやすくなっているというか、読みやすいです。
 以前も中国黒社会の面々が登場しましたが、福建派、上海派とか台湾とか関係が複雑でわかりにくかったです。
 今回も様々な中華系が出てくるのですが、舞台が西欧だからかな、すっきりとわかりやすい。
 誰が敵でどう揉めているのか、理解がしやすいのですね。
 サッカー賭博をテーマにしたのも、珍しくてよかった。
 私はサッカーファンなので、サッカーで賭博をするってのが現実味がなかったというか仕組みの想像がつかなかったのですが、なるほどこういうふうにやるのだな、と。
 PKをわざと与えるとか、絶対にできないことじゃない、ありえるわな。
 現実に、セリアAでも過去には問題になりましたしね。怖いですね。
 ラストも予想外。
 前ならば加倉は死んでいたと思います。馳星周も年取ったんだね、と思いました。
 続編を熱望しますね。19年後はやめていただきたいですが。


 
 
 

 
 
 
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