酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「遙かなる未踏峰」ジェフリー・アーチャー

 エヴェレストに消えた伝説の登山家ジョージ・マロリーの半生を追った青春冒険小説。
 著者は同じイギリス人“ジョンブル”ジェフリー・アーチャー。
 上下巻のボリュームがありながら、厚さをまったく感じさせないテンポのよい文章と展開はさすが。

 エドモンド・ヒラリー卿とシェルパのテムジンがエヴェレスト公式初登頂を成し遂げたのは1953年。
 それより約30年もさかのぼる1924年6月8日に、ジョージ・マロリーは人類として初めて最高峰の頂きに到達していたのか?現代の我々の街冬のファッションにも劣るような、ろくな防寒着もないままに?
 最近、この世界登山史上最大の謎が気になって仕方ありませんでした。
 それでこれまでに「エヴェレスト初登頂の謎」トム・ホルツェル著、「そして謎は残った」ヨッヘン・ヘムレブ著と、謎の真相に迫る本を読んできたわけですが、謎のロマンの大きさに比して、関連本の数があまりにも少ないのですよ。
 本作の冒頭にも出てきますが、1999年5月1日にエヴェレスト北東陵26760フィート(約8156メートル)で75年ぶりに行方不明になっていたマロリーの遺体がほぼミイラ状態で発見されました。所持品も検分されました。
 登頂に成功すればそこに置いてくるとされていた最愛の妻ルースの写真は、そこにありませんでした。
 しかし、彼がエヴェレスト初登頂に成功したのか失敗したのかわかりません。
 もっとも登攀のパートナーであったアンドルー“サンディ”アーヴィンの遺体が発見されれば何らかの進展はあるでしょうが・・・1975年に中国登山隊の一員がアーヴィンと思われる西洋人の遺体を27230フィートで発見しましたが、この中国人はまもなく雪崩に巻き込まれて死亡したために、はっきりとした場所はわからないままになってしまいました。
 アーヴィンはコダックのカメラを持っていただろうと推測されています。
 登頂に成功していたならば撮影しているでしょうし、厳寒で乾燥しているためにフィルムが保全されている可能性があります。
 しかし2017年現在、彼の遺体は発見されることもなく、エヴェレスト初登頂者が覆る気配は微塵もありません。
 確かに、生きて帰ってきてこそ登頂に成功したと云えるという意見もわかります。
 しかし、20世紀初頭の貧弱な装備でですよ、エヴェレスト登頂付近に届いているというだけで凄いことなのですが、確かに最愛の家族の元には帰ってきませんでしたけどもしもマロリーが人類で初めて地球の最高峰に到達していたのならば、彼を初登頂者として認めるべきだと思いますね。
 物理的に確度の高い証拠が見つかればね。教科書書き変えでいいよ。
 そうしなければ離れ離れになったままのマロリーとルースが報われないですよ。
 そういう思いがふつふつと沸き起こるのを止められないのが、本作「遙かなる未踏峰」でした。
 ドキュメンタリー二作を読んで、実話を土台にした小説である本作を読んだ順番は正しかったと思われます。
 ノスタルジー度がだいぶ増しますから。

 1892年の6歳の頃から、登山に天賦の才能を発揮した学生時代、そして最愛の妻であるルースとの出会いと結婚、第一次世界大戦への参戦と負傷、エヴェレスト委員会との確執、7人のシェルパを雪崩で失った1922年のエヴェレスト遠征の失敗、そして最後の挑戦となった38歳のエヴェレスト遠征までを、実話を核にした情感豊かな内容で仕上げています。まさにマロリーの人生そのもの。ひょっとしたら登山シーンよりも彼の生活のほうが青春小説として内容に味があったかもしれません。
 時間にルーズでおっちょこちょいであったのは、伏線になっていましたね。
 周辺の人物や遠征隊のメンバーも、実名のまま登場しています。
 王立地理学会の事務局長アーサー・ヒンクスも極めて保守的で堅物な地のままの性格で出ています。
 ただ地質学者で最期にマロリーとアーヴィンの姿を見た人物であるオデールや医師のソマーヴィルとケンブリッジのアルパインクラブで出会ったというのは、フィクションだと思います。
 実際にはマロリーは3回の遠征(1921,1922,1924)に参加していますが、本作では2回(22,24)になっていますし、シェルパのニーマという人物も私が読んだドキュメンタリーには出てきませんでした。
 しかし最後の挑戦となってしまった1924年の遠征に参加するかどうかの葛藤などは、家族との関係や経済状態においても真実に近いものであったと思いました。さすが同国人だけあって背景が上手に書けてるなあと。
 圧巻は映画のラストシーンのような、マロリーとアーヴィンの登頂後の帰路の場面。雪に落ちて笑うところ。
 専門の山岳用語などは使われていないのですが、逆に私のような素人には想像しやすく読みやすかったと思います。
 感動的だったね。
 もちろん本作はフィクションなんですが、やはりマロリーはてっぺんに登ったのだろうと確信しました。
 彼にとっては、生きて帰ったとしてもこれが最後の挑戦だったのです。
 彼ならば止まらなかったと思いますよ。


 
 

 
 
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