酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「百年文庫 巡」ノヴァーリス/ベッケル/ゴーチエ

 ポプラ社百年文庫ナンバー54のテーマは、「巡」。
 3篇の物語に共通していることは、輪廻とでも云いますか、盛者必衰とでもいいますか、世の中の移り変わりですね。
 およそ地上の生命に永遠に不変のものなどありません。
 ましてや、その生命が作った社会などは簡単に崩壊してしまうものです。
 しかし、もしも何事も死滅するものではなく、すべては常に存在していると考えたらどうでしょうか。
 ひとたび存在したものを、無に帰することはできないとしたら?
 昨日の私は、今の私と同じように、時間と空間を超越した場所に、存在していると考えることはできませんか。
 そんな話がありました。3番目に。
 なんと1852年に発表された作品なんですね。日本では江戸時代ですよ。
 まったく哲学的なものの進歩のレベルが違うのですね。
 今回の百年文庫は、少々当たりでした。珍しいことです。

「アトランティス物語」ノヴァーリス(1772~1801)
 この話は表面上別に面白くもなんともありません。読み流しました。
 年老いた国王が治める、とても華やかで住民が幸せな国がありました。住民の心配事はただひとつ、王女の結婚だけ。王妃は早くに亡くなり、国王の親類は王女だけで、王女はとても慈しんで育てられましたが、大事にされすぎて、逆に結婚の相手が見つかりません。国王の老い先を考えると・・・ そんなとき、王女は偶然立ち寄った郊外の鄙びた家屋敷の青年と恋に落ち、1年間も行方不明になってしまいます。
 表面上はなんてことない童話。しかし、ラストでぼそっとアトランティス滅亡と淡々と書かれているところがブラック。

「枯葉」ベッケル(1836~1870)
 これは意味深。ほんとのところはどういうことなんだろね。
 一人の人物(?)が、ボーッとしているときに、飛んできた枯葉たちが喋っているのが聞こえるのです。
 その枯葉同士の会話の内容に、どうやら自殺したらしい少女の話が出るのですが、それが不気味。
 枯葉が喋るという擬人法はこの時代は珍しいのかどうかわかりませんが、他にも意味があるような気がする話です。
 この枯葉の話を聞いている人は亡くなった少女の恋人だったのかと考えましたが、どうも違う。
 だとすると、かの少女のように命を断つことを考えている自殺志願者だったのでしょうか?

「ポンペイ夜話」ゴーチエ(1811~1872)
 本書の見どころはこれでしょうね。色々と調べると似たような話もあるようですが、これが時代の古さからいってオリジナルじゃないでしょうか。1852年にこんなのが書けるなんて、いったいどういう文化してんですかね、フランスは。すごいよ。
 現代でも通用するファンタジーです。
 今からおよそ2千年前の紀元79年8月24日、ヴェスヴィオ山の噴火によって一瞬で死の都と化したポンペイ。
 ナポリ近郊にあったその街の遺構を見学に、3人のフランス人の学生が旅行にやってきました。
 3人のうちのひとりオクタヴィヤンは、博物館であるものに強く興味を引かれます。それは、溶岩に包まれることによって乳房の輪郭などが艶めかしく浮き出た女性の押し型でした。この女性はどんな人だったのだろうと想像すると胸が高鳴ったのです。その日の夜。突然不思議な感覚に襲われたオクタヴィヤンは、2千年前の壊滅する前のポンペイにタイムスリップします。
 そしてあの押し型の女性と出会うのです。彼女の名はアッリア・マルチェッラ。時の皇帝ティトゥス帝から解放された奴隷ディオメデスの娘でした。理解しようとせずにこの不思議に身を委ねる決心をしたオクタヴィヤンと彼女は、一夜をともにしようとするのですが・・・
 素晴らしい。時間と空間を超越したファンタジーの原典というだけでなく、存在の無と有に対する意識がすごい。
 同じ時代に日本の江戸時代の物書きが考えつくようなレベルではまったくありません。


「信仰は神をつくり、愛は女をつくり、誰からも愛されなくなったとき、はじめて人はほんとうに死ぬのです」


 
 
 
 
 
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2017/07/17 (Mon) 21:27 | REPLY |   

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