酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「東京都三多摩原人」久住昌之

 人気ドラマ「孤独のグルメ」原作者の久住さんによる“三多摩紀行”。
 みたま。初めて聞きました。
 著者の造語かと思ったら、ちゃんと文字変換されるということは、こういう呼び方がほんとにあるのですね。
 三多摩とは、東京都の23区と島嶼部を除いた市町村部分のことで、地名としては消滅した北多摩郡、南多摩郡、現在もある西多摩郡のことです。地方民である私にも聞き覚えがあるのは、八王子とか町田とか、多摩湖とか高尾山とか、あのあたり。
 実は、三多摩は明治26年(1893)まで、神奈川県でした。
 どうして東京都に移管されたかというと、東京の水源確保というのが基本的な理由だったようです。
 ちなみに東多摩郡(今は杉並区、中野区)というのもあったそうですが、こちらは明治5年に東京都に編入されています。
 意外な歴史の事実ですね。
 なんでも三多摩には、2万5千年前の旧石器時代から人が住んでおり、発見された石器には長野や静岡のものが含まれているそうですよ。あんがい当時とあまり景色が変わらなかったりしてねえ。

 久住さんは、生まれも育ちも三多摩の三鷹市。現在も住んでいらっしゃいます。
 ですから、まあ、ホームタウンですわな。
 それでも新たな発見が色々あるようで、自分の足でテクテクと三多摩中を歩いていきます。
 多摩湖、秩父多摩甲斐国立公園、武蔵陵(昭和天皇陵墓)、高尾山とか、府中、ドブ川のほとり、多摩動物園、奥多摩の旅館、昔の同級生がやっている飯屋、老父がタバコの空き箱でみすぼらしい小銭入れを作っている実家、などなどを、ラーメンや立ち食いそばを食べたり昼からビール飲んだりしながら、一心不乱に歩いて感想を述べている、それが本書。
 ハゲオヤジの三多摩紀行。ね。
 自分のことを東京人とは思っていないそうで、三多摩原人と自称していらっしゃいます。
 昔から、東京というのは新宿から向こうの23区で、自分が東京人であるという意識は低かったそうです。
 久住さんに言わせれば、ユーミンも八王子出身で多魔美卒の完全な三多摩人で東京人ではない、ということになります。
 もっとも、久住さんは本書刊行時(平成26年)で55歳ですが、子供のときはほんと三鷹市のあたりは小田舎だったそうで、謙遜なのか僻みなのかあるいは誇りなのか、このへんの感覚は私にはちょっとわかりませんねえ。
 おそらく誇りじゃないかと思います。それくらい三多摩が好きなんでしょう。
 「孤独のグルメ」で観ましたが、釣り堀に付設した食堂の回があったでしょう、「兄ちゃんひとつ教えとこうか」の回ですよ。あんな気取らない地味でちょっと廃れたような店が大好きなんですね、この方。

 私は「孤独のグルメ」を観るまでこの方は知らなかったのですが、原作者としてではなく、番組の終わりの「ぶらっと久住」というロケのあった料理店に実際に久住さんが訪ねるコーナーを観て、このハゲの親父が気になりました。
 昼からお酒をいただくことに照れがあるらしく、「おいしい麦のジュースですね」とか「この井戸水最高」とか言ってて、面白いんですよ。井之頭五郎と違って、あまり量は食べません、少食です。
 そういや今週観た「孤独のグルメ」は、ミャンマー料理店で五郎ちゃん、久しぶりに豪快に食べてたなあ。
 どっちかというと、小綺麗な店よりも、焼肉店とかで人間発電所みたいに燃えて食いまくってる回のほうが面白いように思いますが、あのあたり久住さんの地が出てるんじゃないですかね。
 五郎のセリフは、久住さんが自分で考えて演出しているそうですから。
 やっぱセンスありますよね、ただのハゲオヤジではありません。
 本書を読んでも、とても文章がうまくて、プロットもしっかりしています。
 思ってた通りの方でした。
 まるごと久住さんがわかる本です。


 
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