酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「アメリカに喧嘩を売る国」古谷経衝

 フィリピン。2016年5月に誕生したロドリゴ・ロア・ドゥテルテ大統領。
 徹底した反米姿勢と歯に衣着せぬ過激な物言いで、いまや世界のメディアが彼の一挙手一投足を追っています。
 フィリピンの大統領がこれほど注目されることは、マルコス政権のときでもなかったんじゃないでしょうか。
 果たして、彼はフィリピンのトランプなのか、ただのポピュリストなのか、色物なのか、それとも本物なのか。
 ドゥテルテとフィリピンの真の実相は、我々が「フィリピンは遅れた未開の国だから」という蔑視の視点を持っている限り、見えてこないと著者は云います。
 フィリピンの過去、現在、未来。
 悲劇的な過去を持つこの国の歴史を紐解きながら、ドゥテルテ大統領誕生の現地を見、アジアの成長センターとしての未来を予測します。

 ドゥテルテの何が凄いって、麻薬撲滅作戦の過激さでしょうね。
 大統領に就任した2016年7月1日からの5ヶ月間で、6千人以上の違法薬物の容疑者を射殺、処刑しています。
 なんと、裁判抜きです。現場で殺しているということでしょうね。
 震え上がったヤクの売人が数十万人も警察の自首してきたというのだから、なんとも。
 殺した6千人の内訳ですが、警察に射殺されたのが2102人、自警団の処刑されたのが3933人だそうです。
 警察はまだしも、自警団てなんだよ。
 絶対に、便乗殺人があるだろうね。
 欧米諸国は非難していますが、ドゥテルテ大統領は居直っています。
 彼は大統領になる前に、ミンダナオ島のダバオ市(フィリピン第3の都市)で30年間にわたり市政に携わっていましたが、徹底的なNO犯罪、NO汚職、NO薬物作戦を続け、殺人都市、犯罪都市と揶揄された街を今では東南アジア有数の安全な街にしたのです。著者も実際に訪れてリポートしていますが、信じられないことにタクシーはすべてメーター、売春街もなく、薬物どころか酒や煙草もなかなか見つからないそうです。
 実はドゥテルテ自身も犯罪者をその場で処刑したそうですけどね。
 今もダバオにある彼の自宅は、想像していたよりずっと質素だそうです。
 そのへんに、彼が90%を超える支持率を誇る所以がありそうですね。
 ただの暴れん坊ではありません。クリーンなんだな。
 犯罪者の処刑は超法規的にすぎるでしょうが(裁判所の意味がなくなる)、フィリピンの国情を考えると、悠長なことは言っていられないというのも理解できます。
 とにかく荒療治でいかないと、いまさら国が変わっていかないでしょうからね。

 まあ、勉強にはなりました。読みやすいし。でも、歴史のとこ長過ぎるんではないかな。
 著者の言う“日米戦争”にこだわりはあるのでしょうが、冗長でただの戦史概論になっています。
 受け売りなのに間違ってるしね、レイテで「祥鳳」は沈んでいませんよ。それを言うなら「瑞鳳」でしょうが。
 そりゃフィリピンが太平洋戦争に巻き込まれて悲劇的な被害を受けたことは重大だけれども、これほどページを割く必要性があったとは思えません、それだったら、ドゥテルテのことをもっと書いてほしかったわ。年齢さえ書いてないんだからさ。
 16世紀にスペインの植民地になってからアメリカ、日本にも搾取され、アジアで最も長い植民地支配を受けた悲劇の歴史を土台にしてドゥテルテの反米発言の背景にするつもりが、日米戦争の段が長すぎてわけがわからなくなっています。
 パターン死の行軍を書くならば、遭難した日本兵がフィリピンゲリラに両足を牛に縛られて八つ裂きにされた事件も書かなくてはね(「ルソンの碑 陸軍水上特攻隊の最期」儀同保)」)。
 そして、ドゥテルテ大統領についての謎に、もっと踏む込んでほしかったです。
 あれだけマフィアを撲滅しながら、どうして報復されなかったのか?
 今まで無事ですんでいるのが不思議でしょう。
 その他にも、中国に対して本当のところはどうなのか、とか。
 4千人近くヤク中を処刑している自警団なる組織についても、もっと現地で調査するべきでしたね。
 繰り返すけど絶対に、便乗殺人があるよ。あいつ嫌いだからついでに殺ったみたいな。
 そういうことをきちっと調べないで、何がパターン死の行軍なんだと思いますね。


 
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