酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「ふたつの星とタイムマシン」畑野智美

 「タイムマシンでは、行けない明日」が良かったので、同じようにタイトルにタイムマシンが入っている本作を読んでみました。それぞれ単発のSF短編集かと思ってましたが、登場人物や話の筋がぼんやりと繋がってくる連作作品集でした。
 しかも!
 なんと、「タイムマシンでは、行けない明日」にも繋がっているという、まさかの展開にビックリ。
 まあ、色々捉え方はあると思いますが、後ほど。

「過去ミライ」
 東北の大学でタイムマシンの研究をしている平沼教授の物理学研究室。2016年、部屋に出入りしている20歳の西村美歩は、偶然の出来事から、この研究室に本物のタイムマシンが置かれていることを知ってしまった。
 彼女は5年前に戻ってやり直したいことがあった。中学を卒業した後の春休みから付き合っている、彼氏のあゆむ君が、美歩と付き合う前に他の女の子と付き合っていたことが許せないのだ。ぜひとも、中学3年生の私を見つけ出し、誰よりも先にあゆむ君に告白するように言いたい。

「熱いイシ」
 大学3年のときから付き合って10年、フミと広文は2年前に念願だったカフェをオープンした。しかし、次第に広文はカフェの仕事よりも趣味の骨董集めに熱中するようになり、ふたりの会話はすれ違いはじめる。広文の実家がたいそうな資産家であることも、フミの中に鬱屈した気持ちを抱かせたままだ。そんなとき、常連客の田中くんが、“アツイイシ”という不思議な鉱石を持ってきた。この石を握りしめて質問を受けると、質問に対する気持ちの強さで石の色が変わるというのだが・・・

「自由ジカン」
 中学2年生の大道は、クラスでも目立たない普通女子だ。しかし、それもこの夏休みが終わるまで・・・
 彼女には子供の頃から、物を動かせる念力と、時間を自由に操れる不思議な力があった。
 彼女は自分をテレビで売り込み、超能力アイドルとしてデビューしようと試みる。

「瞬間イドウ」
 「ここ、どこ?」 目を開けたら、さっきとは違う場所にいた。OL歴10年の32歳経理部・一ノ瀬は、会社の給湯室でお茶を入れていたはずが、突然、万里の長城に瞬間移動したのだった。はじめは慣れなかったが、しだいに彼女は瞬間移動できるコツをつかみ、あらゆる外国に出没するようになり・・・

「友達バッジ」
 小学校3年生のサトシと哲は、いじめられっ子コンビだ。友情の証としてふたりだけのピンバッジを身につけ、いつも河原の秘密基地で遊んでいる。同級生に見つかれば、ふたりとも蹴られたり殴られたりするが、ひとりでやれれるよりマシだ。
 ある日、サトシは向かいのアパートに住んでいる田中くんから、不思議な力を持った缶バッジをもらう。これを身につければ、誰とでも友達になれるという。

「恋人ロボット」
 西村美歩の彼氏であるあゆむ君目線。東京に遊びに来ていた美歩が仙台に帰り、夏休み明けの大学で、彼は不思議な光景を目にする。それまでまったく女に縁のなかった部活の先輩や友人たちが、みんな彼女を連れているのだ。
 それは人間にそっくりなロボットだった。5年前に発売された家事用ロボットが進化し、ソフトを入れれば携帯やパソコンの役目も果たし、今では初期費用こそ高いものの、維持費は携帯電話と変わらないという。
 あゆむ君は仙台の美歩のところに行くお金で、ロボットを一台買ってしまう。

「惚れグスリ」
 小さなデザイン事務所に同期で入社して6年半、田中くんは、長谷川さんのことが好きで好きでたまらない。
 誘えば飲みにいったりご飯を食べにいったりするのだが、その先へは進めなかった。
 長谷川さんには、踏み込めない部分があった。おそらく、彼女の地元である種子島に関係があるのではないかと思っている。最近の長谷川さんはつとにキレイになってきた。焦る田中くんは、いつものカフェで思わず「惚れグスリでもないかなあ」とつぶやくと、なんとカフェのオーナーの広文が「惚れグスリならある」という。

 まあ、どことなくほんわかとした味付けの薄い7篇の作品でしたが、気になるのはやはり、「タイムマシンでは、行けない明日」との関連ですね。
 この世界、ロボットが進化して普及していたり、超能力があったりと、私たちの宇宙とはちょっと違うようです。
 しかし、平沼昇一教授は長谷川さんの事故を防ごうと過去にきたまま帰れなくなった丹羽光二その人でしょうし、最終話の長谷川さんの話といい、この世界は「タイムマシンでは、行けない明日」と同じとみて間違いないでしょう。
 問題は、作者がどこまでそのことを意図していたかということですね。
 当初、特に最初の「過去ミライ」を読んで、私が考えたのは、本作が「タイムマシンでは~」の原点になったということでした。これから話が膨らんでいったのだろうな、と。長編にするために。
 ところが、最終話の「惚れグスリ」を読む限り、どうみても作者の頭の中で同時進行として「タイムマシンでは~」の構想があったとしか思えませんねえ。辻褄が合いすぎるんだもの。ただ単に、ここの話をつなげたものではないはずです。
 こっちを先に読んだほうが良かったか?
 まあ、いいか、それは。
 それは置いといて、この作者の男女の会話、西村美歩とあゆむ君なんかは読んでいて楽しいです。
 次は、SF抜きの、作者の専門分野であろう、青春小説を読んでみようと思います。


 
 
 
 
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