酒の肴は一冊の本。旅の友も一冊の本。活字中毒者の書評と読書感想文。

「三の隣は五号室」長嶋有

 芥川賞作家・長嶋有の第52回(2016年度)谷崎潤一郎賞受賞作。
 私、この方の本を初めて読みました。
 なるほど、こんなに淡々と日常を切り取りながらも、奥深いものを書くのかと感心した次第です。
 1966年から2016年まで、ボロアパートの一室に暮らした歴代の住人が織りなすヒューマンドラマです。
 ひとつなんとも謎が解きにくいミステリーがありましたが、それの推測は後ほど。

 場所は横浜。
 古い木造モルタル2階建ての第一藤岡荘。
 1階は2室。2階は3室。2階も真ん中が、物語の舞台となる五号室です。
 6畳と4畳半の和室、台所と風呂、トイレがありますが、真ん中にある4畳半が奥の6畳、隣の台所、そして玄関と三方障子で囲まれているという、変な間取り。6畳と台所も障子で繋がっています。台所からドアで玄関にも出られます。
 1966年、建てられたばっかりのこの藤岡荘五号室には、大家の息子である藤岡一平が住んでいました。
 大学を卒業した彼が部屋を出ると、次に五号室唯一の出産をした二瓶敏雄・文子の若夫婦(70~82)、謎の住人・三輪密人(82~83)、単身赴任で猫好きの四元志郎(83~84)、無線オタクの五十嵐五郎(84~85)、都内のクリーニング屋を畳んだ老夫婦の六原睦郎・豊子夫妻(85~88)、失恋した七瀬奈々(88~91)、大学生の八屋リエ(91~95)、同じく大学生の九重久美子、五号室リフォーム後初めての住人である十畑保(99~03)、不思議な縁で奇妙な同居生活を送った霜月未苗と桃子(04~08)、イラン人のアリー・ダヴァーズダ(09~12)、そして最後の住人となった諸木十三(12~16)まで、歴代13世帯の物語。
 ボロ屋根に響く雨の音であるとか、水道の蛇口、ガスホース、障子の穴など、五号室を通じてまるで大河小説のように、縁もゆかりもない人たちが時を越えてつながっていく、そんな小説です。
 まったくそこはかとない話ながら、その時代時代の風俗ですね、テレビや流行については驚くほど精緻。
 作者は1972年生まれということで、まあ、一通りわかるにしても、キムタクのドラマまでネタにできるとは・・・
 人は変わるのですが、部屋は変わらない。まったく異なるドラマでありながら舞台は同じ。
 まさしく人生ではなく“部屋生”の物語とでもいうべき、心がストンと落ち着くような小説でした。
 現実の社会でも繰り返されていることですから、ある意味登場人物は私でもありななたでもあるのです。

 でもこの小説で一番気になるのは、前述したミステリーのこと。
 すなわち、最後の住人である諸木十三に届いたビデオテープと添え書き、そして一枚の写真です。
 何の目的で誰が送ったのか、写真の人物は誰か、というのが謎なのですね。
 これね・・・
 しばらく真剣に考えてみたんですけど、はっきりとはわからないですねー。
 とりあえず、送り主は30年前に諸木のタクシーに乗った黒眼鏡の男、そして三輪密人の二通りが浮かびましたが・・・
 つまり、「あのとき盛り上がった映画を送ります、どうぞお元気で」というメモの意味は、おまえのことは忘れてないぞ、5号室に入居したことも知っているという、あの時の黒眼鏡の男による“脅し”口封じですね、そういう可能性もあるかと。
 もうひとつは、三輪密人自身が送ったという説。彼は射殺されたと書かれていますが、いつ殺されたかまでは書かれていません。ひょっとしたら5号室の夢を見た翌日、誰がいるかもわからないかつての住処にそれを送り、その後射殺されたのかもしれません。5号室に初めてビデオデッキを持ち込んだのは三輪です。さらにその“ブツ”は小さいことが黒眼鏡と部下の会話で諸木は確認しています。三輪は、ブツをビデオテープに仕込んで殺される前に郵送した可能性もあるのではないかと・・・さも友人のようなメモを添えて、ね。こっちのほうが黒眼鏡説よりは確率が高いんじゃないかなあ。
 でも、ひとつ解せないというか、こじつけでも説明がつかないのは、古い写真の件です。
 あれは誰なんだろう。三輪本人は被写体となるようなことをする人間ではないですし。
 かといって、5号室で誰かが写真を撮ったという記述は本文の中にはなかったと思うんですよね。
 謎です。
 誰かアイディアのある方、コメントしていただけたら嬉しいです。


 
 
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