「雪炎」馳星周

 2011年12月、北海道道南市。東日本大震災から9ヶ月。
 鵡川原発は停止し、再稼働の目途は立たない。
 道南市は、鵡川原発で経済が成り立っていた街である。原発なしでは金が回らない。
 道南市は今、真綿で首を絞められるようにじわじわと死につつあった。
 そんなときのこと。
 来年の市長選に、札幌に事務所を構える著名な人権派の弁護士が出馬することが決定したという。
 選挙公約は、道南市から原発をなくすことである。彼の名前は小島大介。道南市は故郷だった。
 誰もが原発を嫌っていながら、なくなれば困ると思っている。しかし子どもたちの将来を考えれば原発は必要なのか?
 それを原発の街である道南市で問い、全国に運動を広げたいと小島は思っていた。
 元公安警察官で、6年前に警察をやめて故郷で農家をはじめ、隠遁生活をしている和泉伸は、同級生だった小島から選挙を手伝ってくれるように頼まれる。様々な問題が発生するであろう選挙戦を裏で支えてもらいたいという。
 元公安が、同級生とはいえ天敵の“アカ”の弁護士と手を組むなど前代未聞である。
 しかし、同じ同級生で地元商工会議所で青年部長をしている武田や、20年前の恋人で離婚して道南に帰ってきた神戸碧の誘い、そして小島の事務所で見かけた平野友香という女子大生が和泉が警官をやめることになった一件に関わっていたことから、和泉は小島の選挙運動を手伝うようになる。
 ところが・・・原発にたかって生きてきた地元の暴力団、そして原発推進派の国会議員と繋がっている地元警察上層部は様々な妨害を仕掛けてきたのだ。反原発という多くの国民の意志を潰したい、原発そのものが悪魔とされた3・11以降の流れに歯止めをかけたい勢力にとって、原発のこれからを問う道南市の市長選は決して落とすことができないばかりか、接戦さえ許されない戦場であったのである。
 そして、事件は起こった。和泉の元恋人で小島の選挙を熱心に応援していた神戸碧が殺されたのだ・・・

 はい。
 直木賞候補になった「アンタッチャブル」よりかは、面白いです。というか、私はこちらが好き。
 それでも、以前の馳星周の書いたものに比べると、ずいぶん丸い。カドがとれている印象。
 主人公が普通っぽいというか、元公安だというので凄腕のスパイもどきかと思いきや、貧乏なただのおっさんですから。
 逆に言えば、感情移入できるいうことですが、ならばヤクザは叩きのめしたいよね、せっかく感情移入したのに叩きのめされるんじゃなくて(笑)
 ハードボイルドなんだけど、ハードではないという小説ですね。弱いし、ボケてます。
 原発を絡めているので社会小説かと思いきや、そこまで深いものはありませんし。この小説のジャンルはなんだろね。
 少し意外性があったのは、神戸碧(佐藤碧)を誰が殺したのかというミステリーがずっと続くことですね。
 よく考えればすぐ犯人はわかるだろうし、誰が男だったかなんてバレバレなんですけどね。
 でも、この方の小説としては、新鮮な展開だったかもしれません。乗せられましたから。
 原発の有り無しについては、あえて何も言わずにおきましょう。いろいろだからね。
 ただ、警察というのは正義の味方ではなくて権力の味方であるというのはある程度知っていましたが、捜査一課や四課の幹部はノンキャリが多いのに、どうして二課をキャリアが牛耳りたがるのか、それは選挙などを二課が扱っているからであるというのは、刮目しましたね。確かに、そう言われればそうだなあ。
 あっさりと終わってしまいましたが、振り返るとどす黒い小説であったなあと思うわけです。
 チェレンコフの光は目の覚めるような青らしいですが、原発をどす黒くたらしめているのは、他ならぬ人間のどす黒さなのでしょうね。原発は本来なら、人類にとって希望の光であったはずです。


 
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