「座礁 巨大銀行が震えた日」江上剛

 「本当にこれは問題のない融資ですか。本当に皆さんはそう思っていますか」
 渡瀬は役員たちを強く見つめた。頭の中が熱くなってきた。
 「こんな融資を私は教えられたことはありません。きちんと資金使途を確認して、担保を取って、融資して、そして返済される。融資はもっと厳格なものです。生きて使われ、きちんと返済されてこそ融資だとあなた方が私たちに教えてくれたのではありませんか。それなのに資金がどう使われたのかもわからない融資が本当の融資ですか」


 1997年に発覚した第一勧業銀行(現みずほ銀行)による総会屋事件の内幕を描いた金融サスペンス。
 銀行の名前をはじめ実在した人物の名前は変えられていますが、ほぼ実話のドキュメントです。迫真です。
 なぜなら、作者である江上剛こそ本作の主人公である渡瀬正彦その人なのですから。
 彼は、事件発覚当時の広報部次長であり、銀行の門番としてマスコミに対応したばかりか、序列を超越して会長や頭取に物申したり、東京地検の強制捜査で激震が走った銀行内部の混乱収拾に尽力しました。
 頭取会長経験者を含む経営幹部の11人が逮捕され、一人が自ら命を絶ったほどの事件です。
 第一勧銀が潰れるんじゃないかと言われたほどです。
 事件の概要は「会長はなぜ自殺したか」読売新聞社会部に詳しいです。本作と対で読んで+アルファです。
 自殺した宮崎邦次相談役は、ここでは川本矢一という質実そのままのキャラクターで登場しています。
 また、「黒幕 巨大企業とマスコミがすがった裏社会の案内人」伊藤博敏も関連しています。
 その本の石原俊介が、本作で渡瀬に東京地検特捜部の強制捜査の執行日(1997年5月20日)を教えたりなど、混乱の中で重要な情報をもたらした川室謙三という人物として描かれています。
 まあ、当事者だからこそ書けたことがある代わりに、当事者であるからこそ書けなかったこともあるのは事実でしょうね。
 東京地検特捜部の家宅捜索の模様は、迫力がありましたけども。
 あれなんて、実際にその場で立ち会ったからこその緊迫感がありましたよ。小説家の想像だけではこうはいきません。
 都市銀行が家宅捜索を受けるのは初めてだったそうですから、ブルいますよね。
 日頃威張ってる部長が「おい、お前! こっちへこい」と係官に別室に連れ込まれたりして、やっぱ地検は警察とは違うなあ、迫力が。女子行員のロッカーの私物をぶちまけたり、シュレッダーで刻まれた文書を元通りにしろと命じたり。挙げ句の果てに、押収物件の山のようなダンボールを積みこむのを手伝わせたり(笑) 警察だったら、銀行マンに対してはもちっと丁寧じゃないですかねえ。
 でもまあ、この事件が機というわけではないですが、銀行に対するイメージは今ではあまりいいものではありませんね。
 半沢直樹でもありましたけども、資本主義社会で必要不可欠なバンカーという崇高であるべき存在が、何かいつでもブラックやグレーなものに変わってしまうのが当たり前のように思えます。
 第一勧銀の場合は、1971年にふたつの銀行が合併した後のたすき掛け人事(人事の公平化)なんかも原因でしょうけども、問題先送り体質といいましょうか、突っ込んでものを言える体質がなかったんでしょうね。連綿と続いた事なかれ主義が、呪縛を生んだ。そりゃまあ、暴力は怖いですけどね。か弱い一般市民に対しては高圧的であるのに、反社に対しては言いなりで金を出すじゃあ、言い訳は聞けませんよね。

 少し導入。
 1996年7月。大洋産業銀行広報部次長である渡瀬正彦の元に、ひとりの新聞記者がやってきた。
 この男は、驚くべきものを持っていた。それは太陽産業銀行が総会屋に融資したことを示す、不動産登記簿謄本だった。
 驚いた渡瀬が総務部長である川田大に事情を聞こうとすると、普段は優しい川田が「きみに説明する必要はない。きみが知る必要もない」と拒絶した。
 融資が発覚すれば、大洋産業銀行は総会屋という反社会的勢力と取引しているとして世間の大きな糾弾を受けることは間違いない。連日マスコミに追求され、銀行の信用は完全に失墜する。
 渡瀬が独自に調査したところ、総会屋である富士倉雄一の弟に75億円もの巨額の融資がなされていた。
 しかも、担保さえまともではない。融資の返済は延滞している。とても正常な融資と言えないものだった。
 なぜこのような融資がなされたのか。誰もが口をつぐむ今、取引の詳細は不明である。
 そしてそこには、大洋産業銀行が発足して以来の反社会的人物との禁断の関係、初代頭取、会長の時代から連綿と続く呪縛の歴史が隠されていたのである・・・


 
 
 
 
 
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