「英国東洋艦隊を撃滅せよ」須藤朔・馬場利幸・下川一ほか

 大英帝国皇太子の名を冠する巨大戦艦を撃沈せよ!
 腹に抱いた1・2トンの魚雷を叩きこめ!
 真珠湾奇襲攻撃に成功した機動部隊の連中に負けてはならない。
 血を分けた家族よりも強い絆で結ばれたペアの7人が今、日の丸の鉢巻を締める。

 海軍航空隊の魂・中攻隊炎の戦記集。

 一式陸攻・九六式陸攻の戦記集です。全五篇。
 いずれも著者は歴戦の強者の中攻乗りであり、非常に読み応えのある戦記が揃っています。
 内容がすこぶる濃いですな。
 米軍からワンショットライターと揶揄された日本の中攻ですが、日支事変から太平洋戦争緒戦までは大活躍していました。
 山本五十六が熱烈に希望した機種らしいです。
 終戦後、降伏使を乗せて最後の飛行任務をしたのも一式陸攻です。
 良くも悪くも日本海軍航空隊を体現した機体だと思いますね、私は。

「英国東洋艦隊を撃滅せよ」須藤朔(鹿屋空飛行士)
 著者は英戦艦レパルスを雷撃撃沈した鹿屋空第1中隊先任小隊長。戦前は「A作業」と呼ばれた太平洋の隠密偵察作業に従事していたが、昭和16年8月31日に鹿屋空配属。新型双発機として配備された一式陸攻に習熟する過程が面白い。
 開戦1週間前、英国東洋艦隊撃滅のためにサイゴンに派遣された鹿屋空一式陸攻隊だが、考えてみれば、一式陸攻で敵艦を雷撃したことはそれまでなかったのである。中国大陸奥地への爆撃が中攻の主戦場であり、ここ1年位実魚雷雷撃訓練をした中攻機でさえなかったはずだと書いている。魚雷の実装も急遽間に合った感があり、英艦隊が日本海軍搭乗員の技量や雷撃機の性能を過小評価していたとはいえ、よくぞまあ、わずかに3機の損害で世界最強を誇る4万トン級戦艦を撃沈したものだと思う。この事実はチャーチルをして真っ青にし、全世界に衝撃を与えた。

「わが愛機T318号の奇蹟」馬場利幸(高雄空操縦員)
 昭和17年2月。陸軍部隊を支援しながらパリックパパンまで進撃した高雄空中攻隊。著者の操縦する一式陸攻T318号は、スラバヤ湾艦船攻撃後、直掩戦闘機が分離したスキを突かれてP40戦闘機に襲撃され、右エンジンはストップし銃手は重傷を負ってしまう。そして機体はオランダ官憲の駐在する小島浅瀬に不時着した。搭乗員らは重傷の銃手を抱え、原住民の協力を得てカヌーにより小島からの脱出を謀る。

「果てしなき渡洋爆撃」下川一(木更津空搭乗整備員)
 著者は昭和13年9月まで先任下士官として爆撃出撃回数216回、空中戦34回を誇る支那事変における中攻隊歴戦の搭乗整備員。制式採用されたばかりの九六式陸攻で初の渡洋爆撃を経験した。当時の九六式陸攻は大量生産体制に移るはるか前で、形がバラバラだったばかりか燃料タンクと電気系統に致命的な欠陥を抱えていたという。
 著者は機長に内緒で欠陥燃料タンクを燃えないように改造する。しかし、試験飛行をする間もなく出撃を迎えてしまった。
 初の渡洋爆撃。大村基地からの出陣だ。運よくエンジンは快調であったものの、手元には大陸奥地の地図はなく、雑誌「キング」の付録についていたペラペラな大陸地図を用いての航法であった。信じられないほどお粗末なかぎりである。
 しかも援護機のつかない中交隊は、敵戦闘に終始襲撃され、考えも及ばなかった激戦に巻き込まれてしまう。

「ソロモン空爆記」近藤暢享(鹿屋空操縦員)
 著者は開戦以来仏印をふり出しにインドネシア、タイ、マレーシアからセイロン、そして地獄のソロモンと転戦した歴戦の中攻パイロット。鹿屋空先任搭乗員。ガダルカナル島を巡る激戦に刀折れ矢尽きた四空に代わって昭和17年9月、ソロモンにやってきた鹿屋空(751空)は、当初ニューギニアへの哨戒と爆撃を任務としていたが、ついにガ島爆撃の命が下る。
 10月13日の戦艦隊による効果的な艦砲射撃のあった翌日、意気揚々と輸送船団攻撃に向かうものの襲撃され著者機は火災発生、左エンジンがストップするも奇跡的に生還。その後も、デング熱と下痢に倒れるが数少ない頼れる操縦員ということで、ガーゼと綿花でつくったオムツをつけて病院から車で運ばれ、3人がかりで操縦席まで抱え上げられて出撃した。
 かつて中国戦線、太平洋戦争の初期に栄光ある海軍搭乗員として胸を張って行動した当時、だれがオムツをしてまで戦争することを予想したであろうか? と著者は述懐する。

「わが青春火だるま陸攻隊に生きる」中野孝雄(千歳空搭乗整備員)
 著者は日支事変での功績で功六級金鵄勲章を受章した貴重な歴戦の搭乗整備員。太平洋戦争開戦時、ルオット基地からウェーキ島を爆撃した。昭和17年10月、千歳空がラバウル進出を予定した時期に、著者機は敵機動部隊接近の報を受け哨戒に出たものの、航路を見失い洋上に不時着。始終巨大なサメが接触してくる中、8人の搭乗員はゴムボートの乗って72時間漂流する。もうダメかというとき、日本の輸送船「那岐山丸」に発見され救出された。
 終戦時には三沢基地の掌整備長として、中攻落下傘部隊などによるマリアナ諸島のB29に対する特攻作戦「剣作戦」の機体整備に尽力したが、出撃前に終戦。抗戦を主張する若手士官による軽挙妄動を防ぐため、信頼する下士官に命じて点検整備と見せかけ、機体の気化管導気孔からエンジン内部に砂の投入を命じた。こうすれば滑走中にエンジンは焼損停止するからである。


 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (94)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (15)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (15)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (27)
SF・FT・ホラー短編集 (14)
海外SF・FT・ホラー (18)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (31)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (33)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (20)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (13)
文学アンソロジー (55)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (153)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (38)
アンダーグラウンド (47)
事件・事故 (40)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (25)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示