「スパイラル ハゲタカ外伝」真山仁

 「レッドゾーン」と「グリード」のサイドストーリーというか、東大阪の町工場「マジテック」とTAM(ターンアラウンドマネージャー)として専務に就任した芝野健夫の企業再生の物語。ほぼ舞台は大阪のみで進みます。
 別にレッドゾーンもグリードも覚えていなくても、大丈夫ですね。
 グリードはね、私もさすがに覚えていますよ、2008年のリーマン・ショックに題材をとった金融サスペンスでしたね。
 ジョージ・ソロスに「ポンドは高すぎる」とコケにされて一日に公定歩合を2回変更した末、大敗北を喫して世界に大恥を晒し、それ以来引きこもりニート化したイギリス金融界が、リーマン・ショックに乗じてソロリソロリと石橋を叩きながら憎きウォール街に忍び寄ったのはいいのですが、危うく開けてはならぬパンドラの箱をシティに持ち帰る危機に瀕しましたな(爆笑)
 グリードは面白かった(・∀・) 真山仁の小説の書き方が巧くなったことを実感させる作品でした。
 レッドゾーンは、上海の買収王賀一華が日本最大の自動車メーカーであるアカマ自動車にTBOを仕掛ける話でしたが、細かいところまでは覚えていません。
 本作を読んでいれば、今までのハゲタカシリーズの流れや登場人物は自然に思い出せます。
 でも私の場合、鷲津の創業したホライズン・キャピタルの新しい経営陣のことはまったく覚えていませんでした。
 ホライズンとえいば、鷲津と彼の彼女のドイツ人と、死んだアメリカのボンボンでしょ。ところがもう彼らはいません。
 本作でマジテックを買収しにやってくる社長のナオミ・トミナガって誰でしたっけ?
 出たんだよね、どっかで? まったく記憶にないですなあ、残念ながら。
 まあでも、忘れてしまったものは仕方ない。
 そんなことは関係なく、シリーズから独立して楽しく読める作品になっていると思います。

 少しあらすじ。
 1980年代の船場、鷲津と藤村の大昔の出会いや芝野の銀行員時代はともかく、本編のスタートは、本作の主人公である企業再生家・芝野健夫が、2年半の間懸命にその再生に尽力した家電メーカー曙電機のCROから、東大阪の町工場「マジテック」に転職するところから始まります。大企業から町工場へ、その背景には芝野がUTB銀行の船場支店時代から世話になったなにわのエジソンこと藤村登喜男マジテック社長の突然の死がありました。
 藤村は持ち前の器用さと柔軟な発想を武器に、電気電子機器関係で数々の発明品を創り出し、時には海外からも注文がくるという“天才”でした。
 大黒柱である藤村亡き後、当然ながらマジテックは苦境に立たされます。
 従業員は、社長の浅子、次男の望、熟練工の桶本、桶本の後を継ぐ元ひきこもりの田代の4人。
 売上は3億円、借金は2億4千万円。不況で激烈な下請けいじめが続く中、ここに芝野が専務取締役として入社したのです。
 しかし、日本で有数の事業再生家がきたといって、状況はすぐに改善するわけではありません。
 ましてや大企業の水に慣れてしまった芝野にとって、大阪の町工場の社会は異世界でした。
 しかし、マジテックにはなにわの天才藤村が残した遺産がありました。
 難病患者用の自立支援機器や、次世代クリーンディーゼルへのヒント、そしてどこにも負けない金型製造技術・・・
 そして、ロボット工学者久万田五郎ら、藤村を慕った技術者たちが、マジテックを救おうと立ち上がるのです。
 一瞬、芝野率いる新生マジテックは、大型案件の受注など、起死回生を遂げたかに見えました。
 が・・・2008年9月、世界を震撼させた大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻倒産によるリーマン・ショックが発生。
 UTB銀行時代に芝野が首を切って現在は大阪の信用組合に籍をおく不良金融マン村尾は、芝野憎しの想いからマジテック瓦解の金融工作を開始し、そこに目をつけたアメリカのノンバンクは不気味に立ち回り、ついにハゲタカファンド、鷲津なき後のホライズンキャピタルまでが、大阪の町工場に過ぎないが様々な特許を持った宝の山であるマジテックに食いつこうと忍び寄ってくるのです・・・
 危うし、マジテック!!

 藤村の長男で血を受け継いだ技術屋でありながら跡を継ごうとしなかった朝人と、望、浅子、芝野が一堂に会した会話は、どれだったかは忘れましたが、どこかで同じシーンを読んだ覚えがあります。
 巻末に書かれているように、レッドゾーン、グリードに登場したマジテック関連の出来事を主題にして大幅に加筆修正したのが、本作なのです。
 大阪の信組や外資などが入り乱れる金融劇も面白いですが、読んでいるうちに気づかされるのは、この小説は日本の中小企業の生き様にずばりスポットを当てたものであるということです。
 ものづくり大国と言われるこの国を支えているのは中小零細企業であり、彼らのたゆまぬ努力と我慢強さが、日本経済を下支えしているのです。彼らこそ日本工業の宝なのですね。
 景気が良いといっても大企業だけでは、いずれこの国はものづくり大国の地位を捨て去ることになるでしょう。
 そして、こうした恵まれぬけれども確かな技術を持った日本の町工場を外資は常に狙っているのです。
 規模や相手は違いますけども、村上ファンドが最近、大阪の黒田電気に何やらしておるでしょう。あれを思い出しました。
 頑張れ! 日本の町工場!


 
 
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