「アルピニズムと死」山野井泰史

 眼球が凍った、という言葉はさすがに私も初めて聞きました((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
 世界的に有名なロッククライマーである著者は同じくクライマーで9歳年上の奥さんとふたりで、2002年10月、ギャチュン・カン(7896M)北壁に挑んだのですが、登頂に成功するも帰途で嵐に遭遇。恐ろしいまでに冷えたヒマラヤの7千メートルの夜。
 指は次々と石のように硬くなり、目が一時的に見えなくなる中、手探りで雪壁を降下しました。
 寒気と脱水で、奥さんはほとんどの指を失い、著者も右足すべての指、手は掌から2センチを残して薬指と小指を切断しました。
 しかし、生きて還ってきました。
 そして不自由になりながらも、現役でまだ見ぬどこかの山頂を目指しているのです。
 10歳で初めて本格的な山登りを南アルプス北岳で経験してから40年。若かりし頃、山の仲間から「あいつが一番死ぬ確率が高い」と噂されながら、2800回以上登りに出掛け、多くの仲間が次々と山で命を落としていく中、ついぞ還らぬ時のなかった著者。
 生きていることが不思議なほどの激しい登山を繰り返しながら、なぜ今まで死ななかったのか。
 生還者の綴る、アルピニズムと死。そして生。

 なぜ、著者が生き残ったのか、それは運もあるでしょうが、それだけではありません。
 抜粋すれば、胸の奥に見え隠れする狂的な熱を抑えながら、自分の能力を超えないように計算高く慎重に山を選び、状況を見極めることを実践してきた、と書いてありますね。
 つまり、臆病こそ勇者であり生還者である素質なのです。
 もちろん、素人から見れば、信じられないような危険な挑戦をしているように思えます。
 実際、ロッククライミングという言葉すらない1970年代中学生のときから山に打ち込んできた著者は、23歳でカナダ北極圏世界有数のビッグウォール・トール西壁の単独登攀に成功、1990年にはパタゴニアのフィッツ・ロイ冬季単独登頂に成功、1994年チョ・オユー南西壁アルパインスタイル・ソロでは47時間という短時間登攀の記録を打ち立てるなど、輝かしいクライマーとしての経歴の裏で、北アルプスの明神岳で40メートル滑落、南アルプス甲斐駒ケ岳では80メートル墜落、そして1998年にはマナスル北西壁で雪崩に吹っ飛ばされ、奇跡的に奥さんに掘り出されて助かるなど、何度も死にかけています。
 おそらく、自分の限界を見極めた上で、それを超える冒険の回数を制限しているということなのでしょう。
 海千山千なのですね。サイコロの1が連続して出るような確率には賭けない、ということです。
 
 まあでも、登山家という人種は、私にとっては理解しがたいですね。
 私もカトマンズで暇な時、ランタン・リルンに散歩に出かけたことありますけども、あれなんだっけ、なんて言うんだっけ、ハイキングでもウォーキングでもなくて・・・まあいいや、散歩でもじゅうぶん疲れて嫌になりました、寒いし。
 スポーツマンとしてはわかるんですよ。F1レーサーとか登山より危険でしょうからね。登山家だって自分の名前が残るから危険を犯しているんでしょう? 剣岳に明治の測量隊が初登頂したとき、なんと山頂に奈良時代の錫杖の先が落ちていましたが、その奈良時代の坊さんみたいに己の名を残さない純粋な気持ちから登山している世界的なクライマーは少ないでしょう。
 目立ちたがりなんだよ、たぶんね。
 歌にもあるでしょ、お嬢さん、山男に惚れるなよ、と。
 まあ、変人が多いイメージがありますね。イメージだけではないでしょ、きっと。
 本書にも、登山家あるいはクライマーと呼ばれる人種は、往々にして見栄を張りたがり記録を自慢したがる傾向があると書かれています。だいたい、エベレストにゴミを捨てるような奴もいますからね。信じられませんよ。
 
 どうして、登山家は性格が悪いクセに死に近づくのか? 著者の言がありますので、まとめてみます。
 山での死は決して美しくない。でも山に死がなかったら、単なる娯楽になり、人生をかけるに値しない。
 街では生を感じられない。死の危険を冒してこそ、生命が実感できるのだ。
 これはその通りなんでしょう。わかる気がします。
 そりゃ、街でいても交通事故で死ぬんですからね。
 著者だって奥多摩の自宅近くでジョギングしていて、クマに襲われ顔をかじられて死にかけました。
 登山に限らず、自らの生命を危険にさらすことのできる人って、死にそうな場所で死なないことにとてつもない快感を覚えているのではないでしょうか。快感が、死の恐怖に打ち勝つのでしょう。
 その快感こそが、生命を実感することなのでしょうね。
 あ、思い出した、トレッキングだ。
 私はトレッキングで十分。


 
 
 
 
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