「ナイルパーチの女子会」柚木麻子

 2015年の第28回山本周五郎賞受賞作です。直木賞の候補にもなりましたね。
 作者は柚木麻子(ゆずきあさこ)さん。
 私は、これが直木賞をとるのではないかと思っていました。読むまでは。
 読んだらびっくりしましたね、タイトルから受けるイメージと全然違うあまりのヘビーさにタジタジです。
 ものすごく精神的に、いや人間的に複雑な小説です。
 ほんと、女性に生まれなくてよかったと思いましたよ。
 なんでこんな、ややこしいの?
 この物語にはふたりの女性の主人公がいます。共に30歳の、栄利子と翔子です。
 少なくとも、栄利子には共感できません。
 栄利子のことを理解できないということが、普通じゃないでしょうか。
 彼女を理解できるという人はちょっと信じられない。実際、いるでしょうけどね、栄利子みたいなの。
 なら作者はどうなのかというと、私は作者も芯まで理解できていないと思います。
 それが、ちぐはぐさを書きたかったのに、ちぐはぐさがイマイチ伝えきれなかった理由じゃないですかね。
 逆に、翔子のほうは普通に共感できそうなのに、なぜ友達がいないのか、わからない。
 おそらく、彼女は上京して8年になりますが、東京という土地に馴染めないから友達ができないというのを作者は意図したのでしょうが、これもうまく読み手に伝わらなかったように思いますねえ。
 普通に、性格も良さそうだし魅力的な女性に思えます、翔子さん。
 
 さて、内容とまったくイメージが違うタイトルの意味は何でしょうか。
 ナイルパーチというと、私は勘違いして正月番組の芸能人格付けチェックで、いつも伊東四朗が鯛と間違っているやつだと思ってたんですが、あれはティラピアでした。
 日本の魚介の消費量は年間約652万トンですが、うち4割は輸入に頼っており、その中には代用魚や偽装魚が存在します。
 ナイルパーチは、スズキまたは白スズキの代用魚で、“白身魚のフライ”とは間違いなくこいつです。
 原産はアフリカで、最大では2メートル200キログラムにもなる、大型の淡水魚です。
 味は淡白ですが、性格は凶暴な肉食魚であり、これを放流したビクトリア湖では、短期間で湖の在来種二百種を食い荒らしてしまいました。そのため、タンザニアではヨーロッパや日本に輸出されるナイルパーチは庶民の口に入らないのに、庶民が食べる湖の淡水魚がいなくなってしまうという問題が起きています。
 生態系が壊れてしまったのですね、ナイルパーチを放流したために。
 こういうことから、この小説のタイトルとは、生態系=人間関係とすると正しいと思われます。
 ナイルパーチみたいな人間が、周囲の人間関係を壊していくという感じでしょうか。
 
 ナイルパーチとは、そのまま志村栄利子のことでしょうか。
 親子二代で国内最大手の商社に勤め、実家は世田谷。年収1千万超、この世の中で一番価値があるのは時間と言い切り、自分の人生にずっと真剣に向かい合ってきたエリートの女性総合職。
 しかし彼女は、誰とも心が通い合いません。女友達がいないのです。昔も今も。
 友達がいる自分、というものが栄利子の求めてやまない自分なのです。
 そんな彼女がハマったのが「おひょうのダメ奥さん日記」というブログでした。
 栄利子と同じ30歳の主婦が運営する、ネコのように気ままに自然体で読者を安心させる人気ブログです。
 実は、このブログの作者である丸尾翔子と栄利子は近所に住んでいるのです。
 ブログの記事から翔子の生活圏を知った栄利子は、偶然を装って、翔子に会ってしまいます。
 翔子は、自分のブログのファンであるという栄利子のことを最初こそ微笑ましく思い接していましたが、だんだんとストーカー的になってくる栄利子の行動と言動に恐ろしくなってきます。
 翔子が求めていたのは、東京に慣れ親しんだ、自分とは違う価値観を持つ女性との、気の張らない穏やかな交流でした。
 栄利子が求めていたのは、自分が憧れているブロガーと濃い人間関係になりたいという縋る思いです。
 ちぐはぐなのですね。

 はたして栄利子がナイルパーチだったのでしょうか。確かに、翔子にとってはそうだったでしょう。
 私は、あんがい高杉真織は普遍的なナイルパーチじゃないかと思いますし、翔子の父親だってその気味があります。さらに杉下が言ったように、文化やバックグラウンドのせいで関係が噛み合わず壊れてしまうのならば、人間誰もがナイルパーチになってしまう可能性を秘めていると思います。
 作者はおそらくそういうことが言いたかったのだと思いますが、ふう、難しい小説でしたね。肩こる。


 
 
 
 
 
 
 
 
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