「雷の季節の終わりに」恒川光太郎

 今から8年くらい前の作品ですが、恒川光太郎の初の長編になります。
 デビュー作「夜市」がなんと直木賞候補になりましたから、次作ということで業界の注目も一際だったことでしょう。
 私は「夜市」のカップリングだった「風の古道」という作品が好きでした。
 なんとも言えない雰囲気があって。
 本作も長編ですが、穏(おん)という異世界の集落や、人間世界との間にある高天原の大草原など、どことなく「風の古道」を感じさせてくれるような場面があったのでうれしかったです。永久放浪者がいないのが残念でしたが。
 早田浩司は違いますよね? まさか、ね。
 
 作者は、沖縄県に在住しています。
 本作を読むことで、それを強く認識できたような気がします。
 日本なんだけどアジアに近いといいますか、いい意味で作者の作品のモチーフになっているのが沖縄です。
 そして勘違いかもしれないですが、前からこの方の作品を読むたびに村上春樹の影響を感じます。
 どこが? と言われると困りますが、たとえばトバムネキと「海辺のカフカ」のジョニー・ウォーカーは似ているような気がします。
 「風の古道」でも、ジーンズを履いた永久放浪者には村上的なものがあったように見受けられました。
 かといって、作者にオリジナリティがないとかいう問題ではありません。
 恒川光太郎はオリジナリティそのものです。
 一種、独特な世界観といいますか、感性があるので、それに引きずり込まれると、非常に心地いい。
 違う世界にひたれるでもいいますか、我々と同じ感性の作品だとガチャガチャうるさくて集中できないときがあるんですよね。
 だから、心静かに異世界でゆっくりと読書を楽しむことができます。
 少し怖ろしい場面もありますが、目を背けるほどでもないので、悪い意味でのドキドキもしませんね。
 リズムがゆっくり。日本ではなくて、アジアや沖縄のような・・・

 さて、本作の舞台である「穏(おん)」。
 穏は、海辺の漁村を中心とした一帯ですが、地図には載っていません。
 祖先は数千年前に彼方の土地よりやってきて、外の世界とは距離を置き独自の分化を確立してきました。
 第一、外の世界とは少しずれた空間にあるために、外側からは見えません。古(いにしえ)よりそういう土地なのです。
 穏の外に出ではいけない、出ると戻ってこれなくなるといいますが、微かに外の世界と交渉はあります。
 穏の地にも日本からの移住者はおり、日本にも穏の人間が紛れ込んでいます。
 穏には春夏秋冬のほかに、雷季というべき雷の季節が冬と春の間に2週間ほどあります。
 雷の季節は、神鳴り(かみなり)の季節であり、神成りの季節でもあります。
 雷季は数多くの怪異が当たり前に起こる、特別な季節です。風わいわいが啼き、鬼が人を攫います。
 賢也の姉も、雷の季節に突然いなくなりました。
 賢也は、神蔵という血のつながりのない老夫婦に育てられました。実の親の記憶はありません。
 姉がいなくなった日、代わりのように部屋に入ってきた何者かが、雷季が終わったときには賢也の中に入っていました。
 彼(彼女)は、助手席に座っでもいるかのような距離感で、賢也の心にすっと寄生したのです。
 風わいわいが憑いていると、呪い師の老女は言いました。
 賢也は祓おうとしましたが、結局、祓う暇はなく穏を逃げ出すことになってしまいます。
 穂高という穏の名家の少女で、賢也の唯一の友達であり後ろ盾でもあった女の子の兄に、ある事情により怪我を負わせてしまったのです。
 自分でもうすうすわかっていましたが、賢也は穏の外の世界の人間でした。
 穏の人間は外の世界の人間を下界の住人として下に見ます。賢也が捕らえられれば、死罪が待っていました。
 穏と外の世界の境界には、城壁と門があり、その向こうには鬱蒼とした森が広がっています。
 高天原の大草原が異界を繋ぎ、身の毛もよだつ猛獣の縄張りを越え、運が良ければ日本にたどり着くことができます。
 賢也は頭のなかに聞こえる風わいわいの助言に耳を傾け、穏からの追手から逃げおおせることに成功します。
 しかし、束の間の天国かと思えた異界の日本には、かつての穏の元鬼衆(仕置人)であり、死んでも条件がそろうと死んだ時点までの記憶を引き継いでどこかで甦るという魔人・トバムネキが、3度めの死から目覚めていたのです・・・


 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (94)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (15)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (15)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (14)
海外SF・FT・ホラー (18)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (31)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (33)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (20)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (13)
文学アンソロジー (55)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (153)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (38)
アンダーグラウンド (47)
事件・事故 (40)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (25)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示