「夜市」恒川光太郎

 読もう読もうと思いつつ、ずっと後回しになってきた本作をやっと読むことができました。
 2005年度第12回日本ホラー小説大賞受賞作です。
 独自の幻想世界を紡ぎだす、異色の作家・恒川光太郎のデビュー作になります。
 直木賞の候補作にもなっていますから、新人のデビュー作としては破格の評価じゃないですかね。
 そしてこういう作品を読んでやっぱり思うこと、「もっと早く読んでおけばよかった」でした。
 この方の作品はこの前「金色機械」(カテゴリーSF・FT・ホラー参照)を読んだだけなんですが、その世界観を理解する上で、順を追っていればよかったですねえ。
 まあ、まだ遅くはないかな。寡作ですし。
 私的には、表題作の「夜市」よりも書き下ろしカップリングの「風の古道」のほうが好き。
 その雰囲気はなんとも云えないものがあります。
 ホラー小説大賞の審査員が言っていたように、小説家としての才能である「発想の転換」あるいは独自の幻想的世界観創造力が優れているのでしょう。羨ましい。

「夜市」
 大学2年生のいずみは、高校2年生の3学期に退学した同級生裕司とアルバイトで知り合い、それ以来友達以上恋人未満で付き合うようになった。ある日、一人暮らしをしている裕司のアパートに遊びに行くと、これから夜市に行こうと誘われる。
 夜市とは、どんなものでも手に入る秘密のフリーマーケットのようなもので、行けばわかるという。
 岬の公園から海までの森のなかにそれはあった。お祭りの屋台に似ていなくもなかったが、夜市は根本的なところでお祭りとは違っていた。
 着物を着た狸、怪しげに揺れ動く鬼火、なんでも斬れる剣を売るヤクザな一つ目ゴリラ、神々の古道を永遠に徘徊する永久放浪者・・・そこは一度迷い込んだら買い物をするまで出ることができない、複数の世界の交じり合う点に出現する異次元の力場だったのだ。
 夜市に来るのが2回目だという裕司は、具体的な買い物の目標を持っていた。
 それは幼いころ、野球選手の器の代わりに人攫いに売り飛ばした5歳の弟を買い戻すことだった。
 はい。
 この物語の特色はもちろん舞台である夜市という異次元のフリーマーケットなのですが、世界が複数存在しており、死ぬのではなく存在しなくなるという概念の導入にあるとも思われます。裕司が弟を人攫いに売り飛ばしたとき、元の世界に還ると弟の存在は初めからなかったことになっていました。しかし現に弟は人攫いの元から逃げ出しており、別の世界において存在していたのですね。そして10年経ち、世界の交差点である夜市で再びまみえることになります。
 会わなければ永久に存在しなかったのですが、会うことによってそれまで存在しなかったことが実は存在していたということになります。なくても存在しうるのです。裕司もどこかにいるのです。


「風の古道」
 父に連れられて花見に来た小金井公園で、7歳の“私”は迷子になってしまう。
 現れたおばさんに武蔵野市に家のあることを言うと、まっすぐ歩けば家まで帰れるという道を教えてくれた。
 その道は、車一台分かもうすこし幅のある未舗装の田舎道で、所々背を向けた住宅街の中を通っていた。
 不思議な道だった。言われた通り、その道は武蔵野市の家の近くのお稲荷さんの裏にまで通じていた。
 不思議な未舗装道。秘密の道。
 両親にさえ話すことをためらわれたその道の存在を、12歳になった私は仲の良い友達に話してしまう。
 夏休み、ふたりはその道を探し当て、入り込むことに成功するのだが・・・
 はい。
 なんともいえない、とりとめもない、それでいて芯はしっかりしている作品で、私は好きですね、こういうの。
 実は不思議な道は、太古から神々が通っていたという古道であり、夜中には魑魅魍魎が跋扈しています。
 そこの茶店で私が出会ったのがレンという永久放浪者の青年なのですが、ふつうにジーンズを履いている。
 神の通る古道とジーンズ。このミスマッチが物語が進むにつれていかに融合していくのかも見どころでありますね。
 ちなみに永久放浪者というのは夜市にも店を出していましたが、それがレンであるのかどうかは不明です。
 普通の人間には存在がわからない異次元の古道というのを小説の舞台として読むのは初めてですが、昔で言う神隠しですとか、山窩の人々、あらゆる超常現象のネタバレともなりうる格好の素材であると思いました。
 コモリというサイコパスがいましたが、奴は古道を利用してアリバイなどを作っていたのかもしれませんね。
 非常に面白かったです。



 
 
 
  
 
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