「伊17潜奮戦記」原源次

 開戦以来太平洋の第一線を駆け続けた大型攻撃潜水艦伊17潜の戦記。
 著者は、2年にわたり伊17に乗り込んで奮闘した、電信室電信員の原源次氏。
 当時の日記を下敷きに書かれており、非常に戦闘などの臨場感が溢れているばかりではなく、人並みの日常ではない“ドン亀”のなかの、些細な生活の様子が細かく記されています。潜水艦戦記として出色の出来であろうと思います。
 軍医長にマーキュロ、看護長にヨーチンとアダ名をつけたり、猥談に花が咲いたり、林芙美子の「放浪記」など読書をしたり、ときには夢精をしたり、海中で耐えられない歯痛になったり、粉味噌の不味さを呪ったり、便秘に悩んだり・・・
  艦長が交代したときに、乗組員たちは「前のは慎重居士だったが、今度のは対空戦闘も辞さないイケイケドンドン。心配だのう」と影でヒソヒソ。こんなところは現代の会社内部みたいな感じもします。
 読んでいると、太平洋戦争の激戦のさなかといえど、潜水艦のなかの乗組員たちは、今の我々とまったく変わらない若者であることがわかります。まるで青春小説のように読み進めることもできるかと思います。

 しかし、兵員一人の不手際でも場合によっては艦も人も藻屑になるのが潜水艦です。
 本書にも書かれていましたが、トラック島停泊中に、若い航海長がキングストン弁が閉まっていなかったのにベント弁を開けてしまったため、係留中に瞬く間に沈んでしまった伊33潜(潜水艦母艦に移っていた艦長は半狂乱になったという)などはその例の最たるものでしょう。
 そして攻撃されるときも急です。特に著者が乗っていた頃(昭和17年12月まで)の日本の潜水艦はレーダーが未装備であったために、ある程度浮き上がって潜望鏡で周りの安全を確認しなければなりませんでした。
 浮き上がった途端に、ボカンと飛行機に爆撃されることも度々あるのです。
 著者も浮上してハッチから甲板に出た途端に敵機がやってきて、慌てて降りたのですが仲間に言わせると顔が青いのを通り越して顔が透けて見えたそうです(笑)。非常に緊張した日々の背景があった上での、青春というか笑いなのですね。

 さて、伊17潜の活躍についてですが、この艦はやはり米本土を初砲撃した艦として有名ですね。
 伊17初代艦長西野耕三中佐の「今が土壇場である・・・」の演説の後、昭和16年11月21日、狭い艦内に息詰まるほど糧食を積み込み、かつてなかった実用頭部の魚雷を搭載した伊17はハワイ沖に向かって出撃しました。
 電信員だった著者は、絶対逃してはならぬ開戦の電信を待ち続け、その緊迫した様子が克明に綴られています。
 潜水艦は浮上した折に、次の命令や戦闘詳報などを受信するのです。
 真珠湾奇襲後、伊17は敵機動部隊を追跡してアメリカ北西岸に向かい通商破壊を展開する命令を受けます。
 12月21日には大型タンカーを雷撃で撃沈、24日にサンタバーバラ海峡においてアメリカ本土の精油所を17発砲撃しました。
 ようやく横須賀に帰港したのは3月30日のことで、実に4ヶ月に及ぶ長い作戦航海でした。
 真水が貴重品で洗面器1杯の水で洗面や歯磨き、衣類の洗濯、体拭きまでしなくてはならない著者らは脂垢まみれであったそうです。
 その後も昭和17年5月に北方作戦で出撃、アリューシャン列島の偵察などを行い、北緯58度まで北上しました。
 これはひょっとすると、日本軍の潜水艦の最北到達点かもしれません。
 このときには、自動懸吊装置(深度を一定に保つ)を試用したと書かれています。
 また、駆逐艦を雷撃しようとして別の駆逐艦と触衝し、破損しています。
 北方作戦の後は、昭和17年8月15日に一転して東南洋ソロモンへ出撃。
 敵機動部隊に触接したり、仮装巡洋艦に爆雷百個以上投下されたり、地獄の海をトラック島と往復しながら転戦。
 地味ですが、長距離の偵察活動を行う水上機への燃料補給任務に尽力。
 ショートランド島から軍需物質や糧食を積み込んでガダルカナル島への輸送作戦も行い成功。帰りには沈没した駆逐艦綾波の艦長や軍医長、陸軍の負傷者などを移乗させて無事、基地へと帰投しています。
 ガ島への輸送では、連絡兵として乗り込んできたガリガリに痩せた陸軍の兵隊に握り飯を出したところ、
 「もったいないので、持ち帰ってみんなと分けて食べます」と涙を流しながら感謝したことが著者の印象に残っているそうです。

 3回目の横須賀帰投となった昭和17年12月に、著者はおそらく電信術の高等科練習生になるため退艦。
 本書では伊17潜のその後を、二代目軍医長である清水精夫氏の手記、そして昭和18年8月19日ヌーメア沖で撃沈されたときの模様をわずか6名の生存者のひとりである和田弥生氏の手記によって補記されています。

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管理人のみ閲覧できます - - 2017年02月17日 12:21:36

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re - 焼酎太郎 - 2017年02月17日 21:11:06

へべれけ様

潜水艦は呉の大和ミュージアムで自衛隊のが展示されているのに入りましたが
あれはとても、並の神経では持たないですね、艦長室でさえ狭すぎます。
ましてや、旧軍のはどうだったのか、もう閉所恐怖症ならば発狂ものでしょう。
よくトイレがあふれたとか、書いてますよね、潜水艦の戦記に。

私も潜水艦の戦記は興味あるほうで、まだ積んでて読んでないのが数冊あるのですが、
やはり出版された絶対数が少ないのは、如何ともしがたいですね。
もっと貴重な体験を後世に伝えてほしかったと思います。

コメントありがとうございました。

- へべれけ - 2017年02月21日 00:45:20

伊10と伊38の本、中古をアマゾンで買って届きました。今は他に先に読むべき本があるのであとになりますが楽しみです。ありがとうございました。

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