「私はラバウルの撃墜王だった」本田稔・梅村武士・安部正治ほか

 日米航空隊が激突したソロモン最前線の攻防を描く、海軍戦闘機隊戦記集。
 南溟の大空で儚くも散った零戦搭乗員の遺稿(日誌)を含む、全6篇。
 相変わらず本田稔は体育会系のやかまし屋でありながら、戦後三菱のテストパイロットをしていた経験で人が変わったのか、この人の戦記は飾らずに率直で面白い。タイトルはともかくとしてね。
 大野竹好中尉の遺稿は、確か零戦搭乗員会の本(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)でも読んだ覚えがありますが、少しだけ内容が違っているような気がします。

「私はラバウルの撃墜王だった」本田稔(253空搭乗員)
 谷田部空で菊池哲生教官の厳しい教えを受けた本田(甲5)が、ラバウル基地を根拠地に激闘を繰り広げた昭和17年8月から昭和18年5月までの記録。ラバウル~ガダルカナル間は、東京から下関とほぼ同じ距離であり、戦闘時間も入れてなんと8時間以上飛ばなければならない。当初こそ一日おきの週4回の出撃だったが、いつしか一週間に47時間も飛行していたという。ブイン基地ができる前、その海岸線に危機一髪で不時着したことを転機として、本田は不死身となる。盲腸炎でカビエンの海軍病院に入院中、思わず病衣のまま敵機を迎撃して腹から腸が飛び出した闘魂の逸話は圧巻。
 山本長官撃墜事件のとき、ブインにいた本田は、「まもなく長官が到着する」という放送に半信半疑だった。
 これは、敵をおびきだすためのおとりの放送であるとしばしば聞かされていたからだというエピソードも興味深い。
 海軍古参の搭乗員樫村貫一飛曹長の最期や、ダンピールの悲劇などを経験。ラバウルでのスコアは撃墜13機。

「腕白〈零戦隊長〉熱闘始末」梅村武士(332空飛行隊長)
 著者の梅村武士は、海兵69期(昭和16・3卒)、37期飛行学生(昭和18・2卒)。
 すでにガ島を撤退した昭和18年10月、202空分隊長としてセレベス島ケンダリー基地に赴任。
 202空は、基地を中心にボルネオからニューギニアまで日本列島の数倍の広さを一個航空隊で受け持っていた。
 花型歌手森光子慰問団の護衛など風雲急を告げるソロモンより平和ではあったが、昭和19年1月9日に初撃墜を記録した梅村は、脚に大火傷を負い、地獄の療養生活を余儀なくされる。海軍病院では自殺も考えたという。
 長いリハビリの後、332空分隊長に配属。兵庫県鳴尾基地に移り、呉や神戸の防空に奮戦した。
 大和沖縄特攻の折には対空射撃訓練の標的機を務める。終戦時、徹底抗戦を唱える厚木空に向かい(このとき白い機体の緑十字の一式陸攻とすれ違う)、司令が拘束されている抗戦派の不利な状況を原隊に伝える大任を果たした。

「忘れざる熱血零戦隊」安部正治(203空搭乗員)
 鬼の徳島空で牧幸男大尉にしごかれた著者は、厚木基地203空戦闘303飛行隊に配属された。
 隊長は岡嶋清熊大尉、分隊士は有名な撃墜王・西沢広義飛曹長である。千島列島の幌筵島武蔵基地に部隊は移り、昭和19年6月15日に初陣。10月フィリピン戦線へ。ここで西沢広義や仲の良かった松本勝正先任らの輸送中の戦死を知って愕然とする。10月31日、初撃墜P38。一時特攻部隊に配属されるも、2月に内地帰還。岡嶋隊長と共に203空唯一の生き残りとなった。20ミリ機銃✕2、30ミリ機銃を装備した零戦五二型乙を駆り、神雷部隊直掩や菊水作戦に参加。

「悲しき零戦隊」加藤茂(204空電信員)
 著者は第69期高等科電信術練習生航空無線班卒。204空に配属され、内地から空襲中のラバウル、ブインへ。
 著者の主任務は、ラバウルの司令部とブインの204空をむすぶ無線電信だったが、204空に配属されていた陸軍の百式司令部偵察機の改良型の電信機整備や、零戦用の電話機の装備、宮野善治郎隊長に頼まれて戦闘機搭乗員にモールス符号を教えたりしていた。優遇された搭乗員と地上員との酒保や移動の待遇の差など、地上員ならではの苦労だけではなく、零戦隊を支えた縁の下の力持ちの実情が知れる名戦記。

「あゝソロモン海鳴りの果てに」中沢政一(204空搭乗員)
 昭和17年末に、内地から激闘真っ最中のブイン204空に配属された著者による遺稿の日誌。
 日に日に櫛の歯が欠けるように、搭乗員が未帰還になる基地の様子が語られる。初撃墜にも喜んだ様子はない。
 記事は昭和18年6月16日をもって絶筆となっている。半年間地獄のブインで活躍した著者は、才能溢れる若者だったことだろう。中沢政一はブイン上空で戦死、享年24歳。

「碑銘よ 白き積乱雲の峯をかざれ」大野竹好(251空分隊長)
 昭和18年6月30日レンドバ島上空で戦死した251空分隊長大野竹好中尉の戦闘日記。
 小園安名司令や、著者と同期の鷲淵孝分隊長、ベテラン磯崎千利少尉などがいた251空。
 この日誌はラバウルに進出した昭和18年5月1日に始まるが、著者は前年の7月にラバウルに一度赴任しているため、再来となる。そしてそのまま、還ることはなかった。


 
 
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