「ラバウル空戦記」第204海軍航空隊編

 太平洋戦争の最激戦地帯ソロモンの最前線で死力を尽くし戦った、誇り高き海軍戦闘機隊204空の戦記。
 生き残った204空隊員の回想や遺稿を、ライターが時系列に沿ってまとめています。
 スター的な戦闘機搭乗員の証言だけではなく、部隊の縁の下の力持ちである整備員や主計科員の話も多く掲載されており、「これは初めて読んだわ」的な逸話があって、興味深く読むことができました。
 なかでも(私が忘れているだけなのかもしれませんが)注目は、山本五十六連合艦隊司令長官が撃墜された事件の詳報が載っていましたね。このとき長官機を護衛していたのは、204空の6機の零戦ですが、戦後生き残ったのは右手首から先を切断して大空の一線から退いた柳谷謙治飛長だけです。その柳谷飛長の話が多く引用されていました。
 柳谷飛長の零戦が、煙を吐く長官機に寄り添うと、副操縦席に鎮座している長官が見えたそうです。
 当初は長官は墜落しそうになっている一式陸攻の中で瞑目していると思ったそうですが、後から考えるとあれはそのとき既に死んでいたんじゃないかということでした。
 当然、護衛機の搭乗員は上層部から箝口令を言い渡されたのですが、そのときの様子も詳しく書かれていました。
 後日、これほど見事に長官機がヒットされたのは暗号が解読されているに違いないと考えたラバウルの司令部は、草下任一中将をオトリにした偽の作戦電報を発信し、ムンダ上空で罠を張ったそうですが、これも私は知らなかったですねえ。
 あと、そもそもラバウルに行くことを山本五十六司令長官が嫌がっていた、というのもはじめて読みました。

 204空の前身は第6航空隊です。
 6空は、昭和17年4月1日に木更津基地で開隊されました。開戦から零戦による快進撃を続けていた台南空と3空からの転勤搭乗員を基幹に、経験の浅い若年搭乗員で編成され、なんと初代飛行隊長は新郷英樹大尉だったようです。
 ざっくり言えばA級とC級パイロットの混成部隊だった6空ですが、ドゥーリットル空襲など風雲急を告げる戦況は堅実な錬成を許さず、ミッドウェー島の攻略の暁にはその基地航空隊として配置されるはずだった予定も狂い、昭和17年8月にはいきなりソロモンの激戦区に飛ばされることになりました。
 さらに10月13日には、ラバウルの最重要前進基地であるブーゲンビル島南端のブインに進出しました。
 ジャングルの一部を切り開いた天幕に粗末なベッドおいただけの宿舎、狭い滑走路、繰り返される空襲、熱帯病の恐怖など、ブイン基地の模様が詳しく載せられています。
 11月1日に、隊の名称が変更されて「204空」になりました。
 204空といえば、やはり零戦隊名指揮官として名高い宮野善治郎大尉が有名ですね。
 艦爆隊の護衛戦法や零戦の4機編隊戦法など、殺伐としがちな隊内コミュニケーションの融和だけでなく、空戦の研究にも余念がなかった宮野大尉。彼の最期は昭和18年6月16日のルンガ沖上空の戦闘ですが、ここでは彼の最期を見た可能性のある杉田庄一から聞いた話として、その模様が書き残されていました。
 改めて彼の突然の死が惜しまれた次第です。
 あとは末期に配属されてきた海軍古参の羽切松雄の話、最後の司令となった柴田武雄中佐のトラック大空襲時の奮闘も迫力がありました。

 さて、小高登貴や大原亮治といった有名どころの歴戦搭乗員の証言だけではなく、基地地上員の話も含めて204航空隊戦史としている本書ですが、その貴重な回想をされている基地地上員の方として、
 木川脩兵曹(見張り員)、相川正夫兵曹(車庫員)、小谷野伊助兵曹(車庫員)、河原田幸一兵曹(主計科)、
 相良孔兵曹(整備員)などが挙げられます。
 私が非常に気になったのは、小谷野さんのブイン撤退時の話です。
 昭和18年10月8日、204空はブインからラバウルに移動(転進)するのですが、もちろん搭乗員などが先で残された地上員はその約一ヶ月後の11月2日、「駆潜艇30号」に乗ってブインを出港しました。
 しかし、この船がアメリカの航空機に撃沈されて、204空の隊員も大勢亡くなるのです。
 生き残った小谷野さんたちは、ブーゲンビル島の島伝いを決死の逃避行の末助かってラバウルの本隊に合流できたのですが・・・
 この「駆潜艇30号」というのはおそらく間違いで、長さ30メートルの木造船だったそうですからちょっと調べてみたのですが、該当する掃海艇も駆潜特務艇もないのですね。機関砲5門ということは哨戒特務艇だったのかなあ。

 昭和19年1月3日、唯一6空以来の隊員だった中村佳雄一飛曹が内地に帰還しました。
 1月26日、主隊は錬成のためにトラック島に移り、ラバウルから204空の名前が消えました。
 2月17日のトラック島大空襲で補充される予定だった零戦52型が壊滅しました。
 そして、3月4日、誇り高き海軍戦闘機隊204空は解隊しました。

 椰子の葉しげる飛行場
 今日も戦いの夜はふけて
 帰らぬ戦友(とも)を偲ぶとき
 仰ぐは南十字星



 
 
 
 
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