「完全なる首長竜の日」乾緑郎

面白い。
読みやすくて、初っ端から引き込まれる物語です。
作者の乾緑郎(いぬいろくろう)は略歴によれば鍼灸師で劇作家とのこと。
どこからみてもプロの作品なんだけど、と思いながら読んでました。
本作は第9回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作なのですが、巻末に付録されている選評によると、ほぼ満場一致で決定したらしいですね。そんなことは海堂尊の「チームバチスタの栄光」以来らしいですよ。
前者が医療という専門的な分野を切り札としていたのに比べて、本作はほぼ作者のアーティスト的創作センスと高い筆力によるものであることを考えれば価値が高いですね。
そして男性作家による女性主人公の物語は作者のレベルが高くなければあり得ないと思っています。

あえてストーリー全般についての言及は避けます。
あのラストはどうであったのかについても読んだ者の後味の問題だけの話じゃないかと思っています。
つまり現実であったのか虚無であったのか、それを判断するのは読了した主観者であって、この物語については私のごとき外野が何を言おうとそれはもはやフィロソフィカル・ゾンビの戯言でしかないのですよ。
フィロソフィカル・ゾンビ。哲学的ゾンビ。この単語が作者の造語であるのかどうか知りませんが、面白い概念でしたね。
コーマワークとかセンシングとか。あとSCインターフェースってのもありました。
頭皮と頭蓋骨の隙間に針(ニードル)がどうやって入るのかと思いましたが、作者は鍼灸師なのでそれは可能なのでしょう、そして植物状態になっている昏睡患者とのコミュニケーションもこの物語で実用されているような形で近い将来は可能なのかもしれません。
あと、怖かったところと感動したところが一か所ずつありました。
ざわっと鳥肌が立ったのは、相原がニセ浩市の他にも淳美の意識下に3人の何者かが潜んでいることを喋って、それがどの存在であったのか明かしていったとき。あの場面はいま思い出してもぞっとします。とくに一人目。
感動したところは、唯一です。
広島カープの帽子を被った少年がプレシオサウルスの背中に乗って青く輝く海の中を旅立っていったとき。
あそこだけはじーんとしました。
わたしたちの世界は実在しているのでしょうか。そもそも実在という概念は何を基準としているのでしょうか。
この世界がフラスコの中に創りだされた実験宇宙だとしても、私は本作のような面白い本が読めれば幸せです。

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