「小さな異邦人」連城三紀彦

 今はなき巨匠・連城三紀彦のミステリー短編集。
 母ひとり子供8人の貧乏大家族に謎の誘拐事件が勃発する表題作「小さな異邦人」ほか全8篇。
 本当に作風の幅広さを感じる短編集でしたね。
 死んだから褒めるわけではなく、というか偉そうなことを云えるほどこの方の作品は読んでいないのですが、これだけの作品群が生きている間に単行本としてまとめられていなかったことに驚きます。
 普通なら、短編集としてベスト作品集の水準だと言っても過言ではありません。
 作品の幅の広さを乱暴に例えるならば、ロックを歌っても演歌を唄ってもうまいものはうまいということなのだと思われますが、たとえばここの「指飾り」と「冬薔薇」、そして「小さな異邦人」の三作を比べてみた場合、同じ作家が書いてるとは思えないような気がするくらいです。作者が違うと言われても気づかないでしょうね。
 そういったオールマイティーな幅の広さに加え、物語の雰囲気作りのうまさにも驚かされます。
 ミステリー小説は、読者をあっと言わせる仕掛けとオチだけが醍醐味ではありません。
 まずミステリーが最大限に活かされるような、地の雰囲気作り、バックグラウンドの風景が大事なのです。
 特に冒頭の「指飾り」なんて、未練なく別れたはずの妻の後ろ姿を、ふとした拍子に都会の雑踏で追いかけているような主人公の男の心持ちが物語の背景になっているのですが、それをあからさまに文章にしていないのがニクイのです。そういった雰囲気といいますか“ニオイ”があらぬ方向へと進む物語の展開を影で支えているのですね。
 これは私好みの作品でした。後を引くような余韻が残ると酒がうまいです。
 読む人選ばず「オッ」と思わせるのは「小さな異邦人」や「蘭が枯れるまで」でしょうが、私的にはこの「指飾り」「さい涯てまで」が好きな部類ですかねえ。ちょっと切ない、「ちょいセツ」がいいんですよ。

 まあ、少しだけ各作品の紹介を短く。

「指飾り」
 42歳、バツイチの平凡なサラリーマン相川は、会社の近くの20年間入ったこともない喫茶店の前で、人混みの中に3年前に離婚した妻の後ろ姿を見たような気がした。ただし、その後ろ姿は派手な水商売風で、一緒に暮らした7年間地味な印象しかなかった妻とはかけ離れたものだった。あれは妻なのか別人なのか。翌日、その女を同じ場所で待ってみるが・・・

「無人駅」
 新潟県六日町駅のホームの端のベンチにいた旅行者風の40半ばの女。彼女はまず駅員の目につき、タクシー運転手と少なからず会話をし、メシを食うためにスナックに寄り、雑貨屋に出向き、居酒屋で酒を飲んだ。彼女がこの町で残した痕跡は、公訴時効を間もなく迎える東京の池袋で15年前に起きたスナックオーナー夫妻殺傷事件に繋がっていくのだが・・・
 今はなき公訴時効というテーマを、斬新かつ意外なアイディアで展開した昭和チックなミステリー。

「蘭が枯れるまで」
 1年前の誕生日、ふとした拍子に出会った女性から夫の交換殺人を持ちかけられた乾有希子の事件。
 結局、どういうことでしょうか。気づかないうちに戸籍上の妻は既に有希子ではなく、つまり重婚状態だったのでしょうが、問題は夫の孝雄がいったいどのように関与していたかということです。私の独断的推測では、木村多江(藤野秀子)と孝雄が共謀して有希子殺害を練っていたのが大本ではないかと思います。それが狂ってこういう結果になってしまったか、あるいは土壇場で木村多江が孝雄を裏切ったというのが真相ではないでしょうかね。後者かなあ。

「冬薔薇」
 東京のはずれ、自らの人生と同じような平凡な2LDKの団地に住んでいる主婦の悠子は、20数年ぶりに再会した高校の同級生と不倫に堕ちた。1年後、事件は起きる。その日、4時40分に目が覚めた悠子は、ファミレスで不倫相手に会い、ナイフで刺し殺されるまでの悪夢を繰り返し見ることになる。これは悪夢か現実か、それとも・・・

「風の誤算」
 新宿に巨大な本社ビルを構える大手電機メーカーの企画部第二課。影では吹き溜まりと呼ばれている。
 12年前に異動してきた水島課長は、かつて会社を背負って立つとまで言われたエリートだったが転落してここにいる。
 彼は“ウワサ”のデパートだ。今日も誰かに根も葉もない陰口を叩かれている。セクハラ、不倫、借金・・・
 しかし水島課長本人は、そんなウワサをまったく相手にせず涼しい顔をしている。
 課長と10年来、企画部二課で仕事をしている沢野響子は、そんな水島を不思議に思っているが・・・
 ちょっと怖いですね。確か沢野は32歳だから殺されたかもね。

「白雨」
 乃里子は高校入学以来1ヶ月友人ができない。そのうち、嫌がらせが始まった。医者の娘である大田夏美をリーダーとするグループがイジメを主導しているが、なんとクラス担任の三井先生までグルである。
 母の千津はそんな娘の状態を心配するが、乃里子へのイジメの手法が、32年前に千津の両親が起こした無理心中事件を暗示していることに気づき、愕然とする。32年前、日本画家の父と母、そして父の親友だった笹野という男の間に何があったのか。

「さい涯てまで」
 JRのみどりの窓口で働く須崎は、同じ職場の同僚である石塚康子と、思いがけず帰宅途中のパチンコ屋で出会った。それ以来親密に会話するようになったふたりは、泊まりがけの不倫旅行をするまでに交際は発展した。
 白馬、磐梯山、仙台、花巻・・・一番北までいったら別れようと康子は言う。
 ところがある日から、窓口の須崎のところに見知らぬ女性がきて、ふたりが不倫旅行した場所の切符をわざとらしく指定するようになる。女性はふたりが泊まった旅館やホテルのパンフレットをいつもこれみよがしに持っている。
 妻に勘付かれた様子はまったくない。この女はいったい何者か?

「小さな異邦人」
 貧乏大家族としてテレビの特番にもでた柳沢家。昼はスーパーで働き、夜は池袋のクラブに勤める母が、高2から小2まで8人の子供の家計を支えている。貧乏だが明るい家庭。しかしエアコンさえない。こんな柳沢家に、誘拐犯を名乗る男から脅迫電話がかかってくるのだ。「子供は預かった。身代金3千万円を用意しろ・・・」
 3千万などという金はどこにもない。それどころか、子供は8人いまも揃っており、誰も誘拐などされていない。
 これは間違い電話か? しかし犯人は、一家がテレビにでたことを知っているようだった。
 これはいったいどういうことなのか・・・・?
 小さな異邦人。それはいったい誰でしょう? まだ名も無き方のようです。私は途中でお母さんのほうにだと思っていましたが、まさかそっちとは・・・作者の腕とセンスを感じる名作でしたね。


 
 
 
 
 
 
 
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