「感染遊戯」誉田哲也

 姫川玲子シリーズ第5弾。
 主人公が姫川ではないのでスピンオフという扱われ方をされていますが、私はそう思いません。
 正統な、シリーズに連なる作品であると思いました。
 特に、最後の作品で大団円を迎えたのを読んで、なおさらそう思いましたね。
 まあアクの強いキャラクター、特に勝俣なんて私は大嫌いなんですけど、もうすでにこのシリーズは姫川玲子というヒロインの活躍だけを描く箱庭的世界を超えてしまっていますから。
 極端な言い方をすれば、姫川が殉職しても作品は続きがあるような気がします。

 玲子の天敵・勝俣健作が主人公の「感染遊戯」で始まり、短編集「シンメトリー」で不気味な登場をした元刑事・倉田修二を描く「連鎖誘導」、そして姫川班解体後の葉山則之が絡む「沈黙怨嗟」、ここまでは異なる3つの物語(テーマは腐った官僚)かと思っていたものが、ラストの「推定有罪」で一気に融合します。
 もちろん、勝俣健作、倉田修二、葉山則之が一堂に会し、あくまでも姫川玲子は脇役です。
 ちなみに、前作「インビジブルレイン」で所轄署に異動になった姫川ですが、ここでは本部の殺人犯十一係に返り咲いています。ということは、私はまだ読んでいませんが、次作の「ブルーマーダー」は所轄での姫川の活躍を描くはずですから、時系列では本作より前ということになるかと思いますね。

「感染遊戯」
 別れた女房の理不尽な金の請求にもめげず、今日も靴底をすり減らす悪徳刑事の勝俣健作。
 彼は「三軒茶屋会社役員刺殺事件」の特別捜査本部を訪れ、所属する姫川玲子に意味深な物言いをする。
 それは、15年前。勝俣が公安に移る前に捜査一課の刑事だった時代。同じ世田谷区内で、東大卒25歳の大手製薬会社社員が自宅玄関で刺殺された事件があった。捜査は難航するが、やがてひとりの老人男性が出頭し、事件は解決したかに見えた。老人は犯行を自供したものの、それ以外は完全に黙秘したまま送検された。
 やがてこの老人は獄中で生を終えるが、この事件の裏には、免疫不全症の一人娘の自殺、そして薬害感染症問題が絡んでいたのである。

「連鎖誘導」
 警視庁捜査一課九係警部補だった倉田修二の人生を変えたのは、8年前のたった一本の電話である。
 18歳になった大学一年生の息子・英樹が、交際中の女性を殺害した容疑で神奈川県警に逮捕されたのである。
 人を殺したら、償いは命でしか、いや命でもできない。できないが、それでも命を差し出すしかない。そう思って刑事として生きてきた倉田にとって、息子のやったことは許せるものではなかった。
 倉田はそのとき「麻布十番路上殺傷事件」の捜査本部にいた。34歳のOLが刺殺され、45歳の外務省職員の男性が重傷を負った事件である。この事件は倉田にとって、警察官人生最後のヤマになるだろう。
 そして、深い、あまりにも深い闇を覗きみることになるのである。後の彼の人生のような・・・

「沈黙怨嗟」
 本部捜査一課で3年弱勤務した後、姫川班は例の事件で解体した。巡査部長を拝命した葉山則之が北沢署の刑組課強行犯捜査係に配属されて3ヶ月。殺人事件だけを追いかけた本庁時代とはまったく異なる所轄仕事をこなさなければならない。この日、葉山が担当したのは、年寄り同士が暇つぶしに将棋を指しており、一方が待ったをかけたことに腹を立て、もう一方が殴ったという案件。実はこの事件、殴られたほうの年寄りが、年金のゴッドファーザーと言われた元厚生事務次官だったことが明らかになり、葉山は真相を究明するうち、「待った」には深い怒りと悲しみがあったことを知る。

「推定有罪」
 長塚利一とは、冒頭の三軒茶屋会社役員刺殺事件の被害者である。これで、3つの物語が繋がることになる。
 長塚利一は、元厚生省薬事局長。非加熱製剤の危険性を認識していながら回収せず放置、薬害感染事件を引き起こした張本人だった。15年前、ある事件で息子を亡くしている。
 捜査一課殺人犯八係として湾岸署の帳場にいた勝俣は、いきなり杉並署にいって殺人未遂のホシの取り調べを担当してくれとと言われた。この容疑者は、自分が相手を刺す前から血まみれだったというのだ。
 案の定、加納という引きこもりの25歳の男は、2件の殺人事件を自供した。彼が殺したふたりは元官僚であり、加納は怒れる国民の声を代表して腐った官僚どもに正義の鉄槌を喰らわせてやったのだという。
 続発する官僚殺し。しかし、3人目の長塚利一を殺したのは、加納ではない。
 これら一種のテロの、共通点は何か。
 8年前に人生がごく短いうちに反転してしまった倉田修二の黒い希望、そして姫川班の解体から2年半、再び本庁へ這い上がることを無意識に願望する葉山則之、ふたりを自暴自棄の悪徳刑事・勝俣健作が引き寄せ、事件の真相へと迫る・・・

 題材が題材だけに「感染遊戯」というタイトルだけはいただけないと思いましたが、面白かったです。
 倉田の人生ではありませんが、哲学的にも奥深かったと思います。人生とはなんでしょうか。
 倉田の「連鎖誘導」は、ラストの衝撃といい、名作と云ってもいい短編でした。
 復讐は復讐を生む、しかし復讐せずにはいられない。どっちの気持ちも理屈もわかる。
 人を殺したなら、命をもって償わなければならないというのも、いわば正論でしょう。
 しかし、人を殺すといっても、過失致死や動機殺人、無差別殺人などを同列に語れません。
 動機には思い込みや誤解も含まれます(これが怖い)。
 これを書いている私や読んでいるあなたの心にも、いつの日か消しようのない殺意の炎が燃え上がるかもしれません。
 許すことは、恨むことの百倍難しいのです。


 
 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (94)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (15)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (15)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (14)
海外SF・FT・ホラー (18)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (31)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (33)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (20)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (13)
文学アンソロジー (55)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (153)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (38)
アンダーグラウンド (47)
事件・事故 (40)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (25)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示