「注文の多い美術館」門井慶喜

 その男の名は神永美有。
 日本はおろか、世界でもトップレベルの美術コンサルタントだ。
 彼の鑑定能力の根拠は“舌”。
 甘みを感じればその文化財は何らかの意味で「ほんもの」、苦味を感じれば「にせもの」。
 その判定に誤りはない。今日もどこかで、彼の“舌”が・・・
 美術探偵・神永美有と、どこか抜けてる美術学者・佐々木昭友の名(迷)コンビが繰り広げる、
 アーティスティックミステリー第3弾。

 まあ、ね。
 もうシリーズ3作目なんですが、一度たりとも面白いと思ったことがありません。
 どうしてこんなに面白くないんだろうと、逆に、それを目当てに読んでいるような気がします。
 美術に関するネタは、作者の多彩な知識というか、勉強ぶりがうかがえる素晴らしいものなんですがねえ。
 私は今でこそこうやって猫を抱えて酒を飲みながら本を読んでいますが、過去には美術工芸史の研究をしており、この本に書かれていることがまんざらわからないわけではありません。突拍子もないフィクションを除いてね。
 確かに、目で見て感じる部分の多い文化財や美術工芸品を、見せずに文章で表すのは大変なことです。
 字で細かく説明されても、読む人によってそのイメージするものは異なって当たり前でしょう。
 誰もがスッと思い浮かぶ、よっぽど有名な彫刻や絵画ではない限り、ね。
 このへんに、美術ミステリと呼ばれるジャンル群の難しさ、ひいては本作の面白くなさの理由があるのかもしれませんが・・・あんがい、ネタに出てくる美術品に関して、作者の表現はそれほど悪いとは思っていません。
 だから私は、ほかに原因があると思うなあ。
 なんだか、すべてのプロットがこじつけがましいんですよね。弄られすぎて、あっと驚くオチにならない。
 美術に関する造詣は豊富ですが、その価値ある物品に肝心のオーラがまったく感じられない。その説明がない。
 そして、イヴォンヌというキャラに代表される、キャラクターの輪郭の薄さ、リアリティのなさ、すべり感が痛々しい。
 まあ彼女に関しては、「B級殺人」のラストで初めて笑わせてもらいましたが、大体においてちょっとウザいですよね。
 いっそ神永美有が話を進めたほうがいいかもしれません。佐々木は、ルネッサンス期イタリア専門の美術史家ですが、それが邪馬台国の金印にまで首を突っ込んでくるのはどうでしょうか? 無理があると思うんですね。
 そんなこんなで、このシリーズは3作も続いているのが奇跡と思えるほど、面白くありません。

「流星刀、五稜郭にあり」
 北海道で開かれる学会に出席した京都Z大学造形学部准教授・佐々木昭友にとって、学会なんかよりも、特別な感情を抱いている教え子であり、札幌の美術館の学芸員をしている里中琴乃に会うほうが大切であった。
 しかし恩師の想いなど露とも知らず、琴乃が佐々木に差し出したのは、先祖から伝わる細身のサーベルだった。
 隕石から鋳造されたというこの風変わりな家宝は、明治時代に榎本武揚から下賜されたものらしいのだが・・・

「銀印も出土した」
 佐々木の勤務する京都Z大学の新キャンパス建設現場から、“銀印”が出土した。金印ならぬ、銀印である。
 専門外ながら学長の樽坂に呼び出された佐々木は、発見された銀印が古代のホンモノであるという結論を出せ、と命じられる。神永美有が苦味を感じた銀印だが、やがて邪馬台国論争にまで飛び火して・・・

「モザイクで、やーらしい」
 語り手は、ほぼイヴォンヌ。佐々木とイヴォンヌは琴乃の勤務する北海道の美術館で、イスパニアで発見されたというモザイク(絵の具、筆をつかわずいろんな色の石をびっしり敷きつめることで人物や情景を表現する平面芸術)を見せられる。画題は、紀元前1世紀の古代ローマの将軍であるジュリアス・シーザーを北極星に見立てたもの。佐々木に会うため徳島を出てきたイヴォンヌの双子の姉である高野さくらは、このモザイクはカエサルの時代にものではないと断言する。
 なぜなら、その当時の北極星は、現在のこぐま座アルファ星ではなかったから!?

「汽車とアスパラガス」
 佐々木のもとに、しろねこ堂という横浜のアンティークショップから電話があった。売買契約をしている蒸気機関車の模型を引き取れという。模型といっても、大きさは原寸の4分の1、しかも車輪こそ外しているものの、レールがあれば実際に走るという。この機関車、実は幕末、ペリーが将軍徳川家定に献上した土産物のひとつらしい。
 売買契約を勝手に結んだのはイヴォンヌだが、148万円という存在の割には意外に安い代金に釣られ、佐々木は購入してしまう。しかしその後、しろねこ堂が由来商法を駆使する悪徳業者であることが明らかになって・・・

「B級偉人」
 なんと里中琴乃が結婚するという。披露宴の招待状をもらった佐々木は大失恋、泥酔してしまう。
 琴乃の新郎は、仙台の名家だった。絶対に行くかと思っていた披露宴だが、出席した佐々木の前に、泣きはらした琴乃が現れる。結婚式でトラブルが起きたという。新郎の母が、支倉常長が慶長遣欧使節で持ち帰ったものという家伝のタペストリー(つづれ織り)を教会に飾ったところ、琴乃は「あ、にせもの」と呟いた声が意外に響いてしまったのである。

「春のもみじ秋のさくら」
 少しスピンオフ。美術探偵・神永美有がまだ才能に恵まれていなかった20歳の頃の話。この物語がきっかけで、彼は美術品の価値を舌で味覚として感じ取れるようになる。
 骨董屋「蛾落田屋」でアルバイトをしていた神永。実家は名の知れた古書店「無才堂」だが、いまのところの彼に美術に対する興味はなかった。ある日、血相を変えた貴婦人が、店主を呼べとやって来た。あいにく、店主は留守である。
 親戚の子供の七五三祝いに贈るため、ここで12万円で買った大正時代の画家、太田聴雨の風景画軸物が、七五三を題材にした絵ではなかった、12万円返せ! と怒っているのであった。
 七五三はだいたい11月15日前後の祭りである。しかし絵の背景には満開の桜が描かれていたのだ。
 はたして真相の追求に乗り出した神永美有の舌に異変が・・・


 
 
 
 
 
 
 
 
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