「シンメトリー」誉田哲也

 姫川玲子シリーズの短編集。全7篇。小粒ですが、なかなか。
 よくこういうシリーズ作品中の短編集は、脇役が主人公になったりするスピンオフタイプが多いと思うのですが、これはまんま主人公・姫川玲子の活躍が長編から短編になっただけ、みたいな感じですかね、ぜんぶ。
 まあでも、姫川玲子が泣く子も黙る警視庁捜査一課に抜擢されることになった事件なんてのもあるし、短編集だからといって見逃すわけにはいかない一冊であると思いましたね。
 警察官になる前から、巡査部長や警部補の昇任試験の勉強をしていたという人間が、どれだけいるのでしょうか。
 変人でしょ、間違いなく。でもこれ読んで、ちょっと納得したかなあ。姫川玲子ならば・・・
 ある意味、今までになかったキャラクターですよね。
 遅ればせながらこのシリーズを読みだした私ですが、人気ある理由がわかりましたわ。
 格好いいところもあればドジなところもあり、男勝りなところもあれば意外にか弱いところもある、性格のいいところと悪いところが混在している、本作のタイトル通り、シンメトリーなんですよねえ、姫川玲子というキャラは。
 だから、面白く読めるんでしょう。
 もちろん、それだけではなく、私の読んだ文庫本の巻末には、作者によるリーダビリティ(文章の読みやすさ)の秘訣が書いてありましたが、ボケっと文章を追っているだけでも、いつのまにかページが進んでいるという吸引力があります。
 「比喩表現に凝りすぎないこと」「ひとつひとつの文章を短めにすること」「臨場感とスピード」この3点が、テクニックだそうです。

「東京」
 6年ほど前、25歳の姫川巡査刑事は品川署強行犯捜査係にいた。そこで刑事のイロハを教えてくれたのが、木暮利克という同じ係のデカ長(部長刑事)である。木暮が亡くなって4年。墓参りにきた姫川は、そこで木暮の妻に出会い、かつてふたりで手がけた事件を振り返る。それは、都立高校で起きた転落事件。高1の女子生徒が亡くなり、自殺か他殺かを巡って紛糾したのだった。

「過ぎた正義」
 この3ヶ月、姫川が休暇や在庁(出動待機日)を使って訪れている場所。それは川越少年刑務所。ある男を見つけるためである。その男の名は、倉田修二。元警視庁警部補。きっかけは、東京都監察医務院のベテラン医師國奥からの連絡だった。最近、2人の元殺人犯が不可解な死を遂げている。ふたりとも、精神鑑定、少年法によって犯した罪の割には軽すぎる実刑で釈放されていた。2人の死は事故死として扱われたが、その裏に過去の両方の捜査に関わった刑事の存在を姫川は嗅ぎつけたのだ。

「右では殴らない」
 珍しく、デートではなくて仕事の連絡を國奥から受けた姫川。それは、使用すれば劇症肝炎を引き起こす人工覚せい剤が発見されたという衝撃の知らせだった。すでに数人の被害者が出ている。異例にして警視庁に特別捜査本部が立った。國奥との個人的な繋がりとはいえ、ただの覚せい剤取締法違反容疑という認識が、連続殺害事件になったのは姫川の手柄である。そして捜査陣は、被害者らの携帯に共通して残されていた番号の持ち主である17歳の女子高生にたどり着くのだが・・・

「シンメトリー」
 少し雰囲気の違う表題作。なかなか姫川出てこないじゃん、と思ったらすでに出てるんですがね。
 JRの電車が踏切で乗用車に接触、百人もの死者が出る大事故になった。駅員の徳山和孝は、横転する電車から顔なじみの女子高生を最後の瞬間まで助けようとして、右手の肘から先を失った。乗用車の運転手は飲酒運転だった。しかし、百人もの被害者を出す大事故の引き金となっておきながら、課された罪は業務上過失致死傷罪で懲役5年だけ。
 JRを退職し、ネットカフェ難民となって貯金を切り崩しながら生きていた徳山は、加害運転手である米田という男への殺意を膨らませていく。

「左だけ見た場合」
 プロのマジシャンが殺された。吉原修一。仲間内では、実は本当の超能力者ではないかと云われていたほどの凄腕である。彼は10年前、大工をしていた。殺された理由はそこにあると、姫川の勘が告げる。吉原が死の間際に携帯に残したと思われる、ダイイングメッセージの謎とは・・・045666※

「悪しき実」
 女の声で、男が死んでいると通報があった。通報で告げられたマンションの一室に、その通り死体は存在したが、通報した女性は消えていた。死んでいる男の首にはロープが巻かれていたが、他殺か自殺かいまだ不明である。
 姫川は、110番通報したまま消えた女を見つけ出し、死んだ男が関わっていた、広域暴力団の深すぎる闇を垣間見ることになる・・・いつかは対決することになる・・・

「手紙」
 中目黒OL殺人事件。それは、姫川と今泉係長が最初に出会い、姫川が警視庁捜査一課に抜擢されるきっかけとなった事件である。当時、巡査部長を拝命、碑文谷署の交通課規制係の主任をしていた姫川は、人材不足のため、捜査本部の応援に駆り出された。所轄捜査員にとって、捜査本部への参加は警視庁本部に取り立ててもらうまたとないチャンスである。姫川は、相方である女性ベテラン捜査員を出し抜き、見事真犯人を逮捕、チャンスをものにした。
 そして数年後。出所した真犯人からの手紙を受け取り、再会するのだが・・・

 気になったのは、「過ぎた正義」に登場した、倉田元警部補。
 巻末解説によると、この後に刊行されたシリーズスピンオフ「感染遊戯」にも出てくるようです。
 また、彼がここで言った「人が人を殺す理由と、殺そうとする気持ちは、まったく別のところにある。人を殺すに値する理由など、この世にはひとつもない。逆に言えば、どんな些細な理由でも人は人を殺すということだ。そこにあるのはたったひとつ、選択する機会にすぎん」という言葉は、深いです。とてつもない、人間の闇を言い表していると思います。
 故意の人殺しになるという可能性は、それを選択する機会の前の段階、つまり誰にでも平等にあるということです。


 
 
 
 
 
 
 
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