「アフリカ漂流 Ⅰ」鈴木正行

 ヴィッキーは私の手を握ると、強く握りしめた。
 握手の習慣のない日本人の私には、そのことをどのように解釈すれば良いのか、判らない。
 だがその時の、彼女の瞳は何事か訴えようとしているかのようだった。
 私は、長く握っていたい本心とは裏腹に、少しも強く握り返すこともせず、また、私からその握手の手をぬいた。
 私とヴィッキーは結局、この時の別れを最後に、再び会うことはなかった。


 あるバックパッカーによるアフリカの旅行記です。
 いや、1981年の当時は、バックパッカーなんて言葉はなかったでしょう。サブタイトルは「アフリカ乞食行」。
 著者の鈴木正行氏は、略歴によると1949年生まれだから、当時32歳くらいですか。
 彼は1980年の8月に日本を発って、東南アジア、インド、中近東を経て、1981年3月にアフリカに入りました。
 本書は東アフリカ編ですが、実は、この「アフリカ乞食行」はほぼアフリカ一周で全6巻ありましてね。
 だいぶ前になりますが、私はすべて読んだことがあります。内容は覚えていませんけど。
 なぜ再び読んだかというと、オリジナルがただでさえ分厚いのにさらにボリュームがアップされた再改版が刊行されたからです。第1巻である本書は、凶悪な700ページ弱のボリュームを誇りますが、あんがい値段は安いんです。
 オリジナルの内容を覚えていないので、はっきりしたことは云えませんが、旅をしながら書いていた当時の日記をさらに詳しく参照したのが、本書ではないかと思います。
 ただね、著者自身があとがきで自覚しているように、けっして面白くてたまらない内容の本ではありません。
 文学的でもありません。沢木耕太郎の「深夜特急」なんかとは比べることはできません。
 また1981年当時のアフリカ旅行記が、現在の旅行の参考になるわけありません。30年以上前ですよ。
 なくなってる国もあれば、分裂した国もあります。貨幣価値や政情は当時と現在ではまったく違います。
 じゃあ、なぜ読むのか。この本の価値はどこにあるのか。
 それは、作中で著者がよくつぶいやいている「なぜこんな旅をしているのだろう」というため息に代表される、ある種の旅情といいますか、センチメンタリズムではないでしょうか。世の中は必要性だけで成り立ってるわけじゃないんでね。
 旅、とくに長期の旅行は出会いと別れの繰り返しで、まるで人生の縮図のようなものです。
 すぐ意気投合できる相手と巡り合うこともあれば、どれだけ話しても分かり合えない相手もいます。
 この本でいえば、カイロで出会いハイダムで別れた田畑君、ナイロビでソマリの女性にハマった小野君、最悪の行程となったスーダン南下中ただふたりの外国人同士だった英国人のヴィッキー、エジプトからタンザニアまでなぜか行く先々で顔を合わしたフランス人のルーカスなんかは、著者の苦難のアフリカ行を知らずに支えた面々であろうかと思います。
 著者の旅は快適でも安全でもありません。、様々な苦難を重ね、命の危険すら感じながら旅を続けます。
 どうして著者は無事だったのか。ルワンダのビザ期限の日にマラリアになってブルンディで入院したり、タンザニアでは前財産を盗まれて絶望しながら、著者は生きて日本に帰ってきました。その一番の理由は、たとえば汽車のなかで周りの者が何も食べていなければ、どれだけ空腹でもマナーとして自分から食べ物は摂らない、こういう著者の姿勢が、同じような価値観を持つ旅人を引き寄せ、優しさが著者をしてアフリカ旅行を無事たらしめたのではないか、と私は思いました。
 私も平成版ですがバックパッカーでしたからわかる部分がありますが、あんがい旅人というのは自分勝手であり(自分勝手だからひとりで長期の旅行にこれるのだろうが)、ろくな人間がいないものです。腹が減れば勝手に食う、それが当たり前みたいに思ってますからね、著者のしたことはなかなかできることではありません。
 「やだ~」とか言いながらでも、貧乏旅行というか切り詰めた旅行は誰でもできるんです。
 優しい旅行ができないんですね、中途半端な人間には。
 著者である鈴木正行氏の旅行は、優しい。これが本書を読む理由であり、人が旅をする理由でもあります。

 で、「アフリカ漂流」第1巻である、本書の旅程。
 1981年3月より。1USドルはだいたい220円。おそらくこの時点での著者の全財産は2千USドルくらいかな?
 3月26日エジプト(キプロスから。スーダンビザ待ち。カイロ、アスワンハイダムなど)
 4月22日スーダン(現南スーダンの首都であるジュバからの最悪の行程は読んでて辛い)
 5月30?日ケニア(バックパッカー天国。沈没。当時タンザニア国境閉鎖。サファリ、ザンジバル島など)
 8月6日ウガンダ(政情不安。首都でも水が出ず。最大の目的はこの国の安い国際電話)
 8月24日ルワンダ(物価高し。ビザ期限の日、発病)
 8月30日ブルンディ(この国で働いている日本人に助けられて首都の病院に入院。マラリア)
 9月8?日タンザニア(ザンジバル島。魚の骨が喉に刺さり苦しむ。バスの昇降口で組織的に1400USドル相当のTC、70ドルの現金を盗まれる)


 
 
 
 
 
 
 
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