「だいこん」山本一力

 素直に面白かったです。
 一膳飯屋「だいこん」の女将つばきを主人公にした、時代人情小説の定番。
 美人で気が強いつばきの立ち居振る舞いはもちろん、家族への葛藤と愛情だけでもじゅうぶんな読み物ですが、 江戸に暮らす町人衆の人情機微の描き方がまた、なんともいえない心地よい。
 思わず、グッとくるものもありました。
 また、江戸に暮らす者は誰もが何より火事を恐れるとのこと、もちろんそうした知識は持っていたつもりですが、江戸中を焼き尽くす火事の凄絶さを、これほど真に迫って書き表されたものを読んだことがありません。
 本当に、ぜんぶ焼けてしまうんだねえ。
 乾燥した冬の火事だけではありません、夏には溢れ水(洪水)もあります。
 それでも立ち上がる、家が焼けた沈んだくらいではへこたれない江戸の民たち。
 家なんてまた建てりゃいいんだよ。
 こまけえこたあ、いいんだよ。
 つばきに感情移入するのはもちろんですが、なにかこう、現代人の心に響かせるものを持っている小説です。
 
 残念だったのは、私が悪いんですが(amazonも少し悪い)、本作の続編である「つばき」(カテゴリー時代人情小説・ミステリー参照)を、これより先に読んでしまったこと。
 返す返すも悔しいね(´・ω・`)
 この流れで読めば、「つばき」もきっと面白かったと思います。登場人物が繋がっていますから。
 閻魔堂の弐蔵親分との腐れ縁だって、どうして流行っていた浅草材木町の店を畳んで深川に移ってきたのかだって、本作をきちんと読んでいれば予備知識があったわけですから、「つばき」の物語は流れに沿って深みを増したと思います。
 何より、本作は3歳からのつばきの苦労(というか成功というか)を丹念に追っており、それがすべての土台ですからね。
 まあ、くれぐれも自分が読もうとする本の来歴は知っておかねばならないということです。
 それでも、本作がこれだけ面白かったんですから、よしとしますか。
 こまけえこたあ、いいんだよ。ということで・・・

 では、少しあらすじ。
 本作は、浅草材木町で繁盛していた一膳飯屋兼一杯飲み屋「だいこん(二代目)」の経営をわずか一年余りで手放し、身寄りのない深川永代寺門前仲町で新しい「だいこん」を寛政元年に普請した26歳のつばきが、深川を縄張りにしている渡世人・閻魔堂の弐蔵と十数年ぶりに再会し、遠い日々の回想をするところから始まる。
 明和元年(1764)、通い大工の安治、みのぶ夫婦の長女として浅草並木町に生まれた、つばき。
 父・安治は27歳にして棟梁から普請を任され、出づらで一貫文を稼ぐ腕の良い大工だったが、ヤクザ者に誘われて遊んだ賭場で借金を抱えた。借金自体は10両で、月20日働けば4両の稼ぎがある安治にとって途方も無い額ではなかったが、元金に対する利息が10日で1両という、とんでもない高利だった。
 このとき安治を賭場に誘ったのが、のちに閻魔堂の弐蔵となる伸助であり、借金の取り立て役も伸助である。
 一家は、米味噌を買う銭はもちろん、長屋の家賃さえ払えない苦しい生活が続いた。
 母・みのぶは生活の足しとするため、蕎麦屋に働きに出、幼い妹を子供のつばきが世話した。
 家の中がいつも暗くて揉め事が絶えないのはお金がないから・・早くお金を稼いで両親を喜ばせたい。このときの経験が、のちの“つばき”を作ることになる。
 江戸に暮らす者は、誰もがなにより火事を恐れる。
 明和9年2月に起こった、放火が原因の目黒行人坂の大火は、江戸の大半を焼き尽くした。
 伸助の親分である橋場の金蔵もまた焼きだされ、組を畳んだ。7両残っていた安治の借金は帳消しになり、伸助も貸元になる夢を断たれ、橋場を去った。
 これを機に、一家の暮らしぶりは好転した。また、つばきは9歳にして、炊き出しの布施米を誰よりも美味く炊くことができるという才能を発揮し、火の見番櫓の食当(賄い)に請われて雇われることになる。
 以後、寛永9年(1780)、17歳のときまでその場で働き、183両の大金を貯めたつばきは、一膳飯屋「だいこん」を開業し、独立する。安く、美味く、気前良くをモットーに、母みのぶ、妹のさくらとかえで、手伝いのおせきとおさちの女だけで、江戸の荒くれ男たちを相手に営業する「だいこん」は瞬く間に軌道に乗ったが、大川の洪水で店が浸水したり、商いが大事なために恋が遠ざかったりと、つばきの苦難はまだまだ続くのである・・・


 
 
 
 
 
 
 
 
 
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