「自覚 隠蔽捜査5.5」今野敏

 降格人事で所轄署の署長にされたキャリア警察官の活躍を描く、人気シリーズのスピンオフ短編集。
 前に「初陣 隠蔽捜査3.5」という同じようなのがありましたから、スピンオフ第2弾ですね。
 全7篇。「初陣~」は、このシリーズの主人公である竜崎伸也の幼なじみでキャリアとしての同期でもある、伊丹俊太郎警視庁刑事部長を中心に書かれていましたが、本作は主に、竜崎が署長をしている大森署の幹部たちにまつわる出来事を扱っています。もちろん、要所々々で竜崎が登場するわけですけどね。
 全編にわたって云えることは、ラストがホッコリすること。
 後味の悪いお話はありません。それぞれ40ページほどですし、面白いので、あっという間に読めます。
 こんな短いボリュームなのに、よくぞまあ、読み応えのあるドラマを展開できたものだと思います。
 シリーズの本筋にはさほど関係ないのですが、今までシリーズを楽しまれてきた方にとっては、逃すことの出来ない、そして、決して期待を外すことのない一冊に仕上がっています。

「漏洩」 大森署副署長・貝沼悦郎
 朝、東日新聞を見た貝沼は我が目を疑った。連続婦女暴行未遂事件の被疑者を逮捕したという、まだ副署長の自分さえ知らなかった捜査情報が漏洩していたのだ。他の新聞には載っていない。やがて、昨夜に現行犯逮捕されたばかりの男が刑事課に取り調べを受けていることを知る。しかし、刑事課長の話では被疑者は容疑を強く否認しており、誤認逮捕の可能性が高いという。謎の捜査情報漏洩があったうえに、誤認逮捕・・・貝沼は、なんとか署長の竜崎の手を煩わさずに事態の解決を試みるのだが・・・

「訓練」 警視庁警備企画係・畠山美奈子
 畠山美奈子は女性キャリアで、「疑心 隠蔽捜査3」において、アメリカ大統領来日の警備を担った竜崎の補佐として、警視庁警備部長・藤本実が送り込んだキャラクター。一時は、竜崎が惚れてしまって大変なことになりかけた。
 そんなことは露とも知らず、畠山本人は、相変わらず竜崎のことを尊敬してるようだが・・・
 スカイマーシャル(航空機に搭乗してハイジャックなどの犯罪に対処する武装警察官)の訓練で、大坂に行くことになった畠山。他のメンバーは大阪府警と警視庁のSATで、ひとりキャリアで女性の彼女は肩身が狭く、厳しい訓練に打ちひしがれた畠山は、思わず竜崎に電話してしまう。

「人事」 第二方面本部管理官・野間崎正嗣
 ご存知・竜崎とやり合っている野間崎管理官。彼も竜崎の実力を認めているのだが、認めたくない矛盾を抱えている。
 新しい第二方面本部長がやってきた。56歳になる弓削篤郎警視正。ノンキャリアであり、刑事・公安畑を歩いてきた弓削は、現場をほとんど知らない警務・総務畑の野間崎にとって異人種だ。新方面本部長がどのような人物なのか一刻も知りたい野間崎は、初対面のレクチャーで、第二方面本部の管轄にある9つの警察署のなかで、一番の問題は「変人の竜崎署長がいる大森署」だと言ってしまう。

「自覚」 大森署刑事課長・関本良治
 家で寛いでいるところを呼び出された刑事課長の関本。管内で強盗殺人事件が発生したのだ。
 あと少しで池上署の管内だったのに・・・しかも、今夜中に解決しなければ、大森署に捜査本部が立ってしまう。
 警視庁捜査一課長も臨場するなか、憂鬱な関本の耳に届いた拳銃の発砲音。
 それは、素行不良ながら敏腕で人望もある戸高刑事が、人質をとった犯人と思われる人物を狙撃した音だった。
 肩を撃たれた被疑者は確保できたが、住宅街で、人質の危険を顧みずに発砲した戸高の処分が竜崎に委ねられる。

「実地」 大森署地域課長・久米政男
 秋は警察学校を卒業した新人警察官たちが配属されるシーズン。“卒配”された卵たちが、まず最初に配属されるのは地域課だ。51歳の久米地域課長が、ぼんやりと新人の教育などを考えていたとき、いきなり刑事課長の関本が怒鳴りこんできた。聞けば、緊急配備の最中に、有名な空き巣の常習犯を、地域課の係員が職務質問をかけながら取り逃がしたのだという。階級は同じ警部だが歳は3歳下にもかかわらず、関本刑事課長は地域課を無能呼ばわりで久米に責任を取れと怒鳴り散らし、頭にきた久米も刑事課を死体にたかるウジ虫野郎と罵る。職質をかけた係員は、卒配で研修中の新人だった。大物を取り逃がしたと、警視庁捜査三課からも恨み節がでる中、久米は、何が何でも、この新人を守りぬこうと心に決める。

「検挙」 大森署刑事課強行犯係長・小松茂
 警察庁の御達しで、検挙率・検挙数の厳しいノルマが課せられた。盗犯、知能犯だけではなく小松の強行犯係も同様だ。強行犯係は、殺人、強盗、放火、強姦などの重要事件を取り扱う。釈然としないながらも、課長の関本から言い含められた小松は、部下の刑事たちにノルマの達成を言明する。すると戸高は「やれと言われればやりますが、どんなことになっても知りませんよ」と応えた。次の日から、大森署は微罪で摘発された人間でごった返すことになった。
 なんでも数字で評価しようとする現場を知らない官僚的な発想は、何度も日本の歴史に悲劇を生んできた。

「送検」 警視庁刑事部長・伊丹俊太郎
 竜崎の幼なじみでありキャリア警察官の同期でもある、伊丹俊太郎。彼は、警視庁刑事部長という要職にありながら、すすんでマスコミに姿をさらし、捜査本部が立つと飛んでいく。いい意味で開明派、悪い意味で目立ちたがり屋。
 ある日、大森署管内のマンションで、強姦殺人事件が発生し、捜査本部が立つことになった。
 当たり前のように、捜査員全員が起立する中、颯爽と帳場に現れた伊丹。
 事件はまもなく、犯人は宅配便の配達員を装った男と思われたが、被害者の部屋内で多くの指紋が発見されたことから、本物の配達員の男が逮捕された。送検は、逮捕から48時間が期限である。竜崎の「いいのか?」の声にもかかわらず、伊丹は証拠十分とみて、犯行を否認する被疑者をあっさり送検するのだが・・・

 畠山がスカイマーシャルの訓練を受けるくだりで、「フランジブル弾」の記述を見つけたので記しておきます。
 航空機内で使われる特殊弾丸「フランジブル弾」は、金属の粉を押し固めた弾丸で、人体に対しては、通常の弾丸と変わらない威力を発揮しますが、固い物にぶつかると砕けてしまうようにできているそうです。
 航空機内での危険な跳弾や、機体の損傷を防ぐのです。


 
 
 
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