「砂の器」松本清張

 ストーリー。
 黒部ダム開発中と書かれていることから、昭和35年くらいの設定だと思います。
 東京・蒲田駅操車場で、始発前の電車の下から死体が発見されました。
 扼殺されたうえに、顔をめちゃくちゃに潰され、さらに意図的に顔を電車に轢かそうとされたその状態からは、被害者に対する犯人の激しい怨恨がうかがえました。
 被害者は半分白髪の54,5歳の男性。労働者ふう。胃の内容物からウィスキーに睡眠剤が混ぜられていました。
 実は現場近くのトリスバーで、この被害者と思われる男性と身許不詳の男が目撃されていました。
 複数の目撃者の証言では、ふたりは東北弁らしきアクセントの言葉で会話し、会話の内容に「カメダ」という単語が使われていたということでした。
 蒲田署に捜査本部が設置され、本作のメインキャラクターである今西栄太郎部長刑事ら警視庁捜査一課の面々も陣取りますが、最初の見込みと違って捜査は難航、犯人はおろか被害者の身元すらわからないまま、1ヶ月経って捜査本部は解散されてしまいます。所轄署の任意捜査となったのです。一時的なお蔵入りですな。
 「東北弁にカメダ」ということで、東北在住の亀田姓の人間はおろか、あるいはカメダは地名かということで、今西らは秋田県の羽後亀田という在所まで行きますが、空振りでした。
 その後もなにかつけてこの事件を思い出して、執念の炎を燃やす今西。
 そしてなんと、事件から数ヶ月して、岡山県から被害者の養子かもしれないという人物が東京にやってくるのです。
 東北ではなくて、まさかの岡山!?
 実は、岡山の北の出雲では、東北弁に似たズーズー弁が使われており、身許が明らかになった被害者の雑貨商・三木謙一は、以前出雲の山奥で長い間駐在の巡査をしていたのでした。
 しかし、養子曰く、被害者である隠居した父がどうして急に土地勘のない東京まで出てきたのかまったくわからない、というのです。地元の家族に内緒で東京に出た彼は、バーで誰に会っていたのか?
 そこにすべての謎が隠されていました。幾重にも包まれた事件の真相を追う今西の辛苦は報われるのでしょうか・・・
 思いがけぬ展開と、粘り強い捜査、そして予想もつかない殺人方法で読者を驚愕させる、色褪せることのない日本推理小説の巨匠・松本清張の代表作。

 なかなか、面白かったです。「点と線」よりははるかに良かったです。
 物語のバックグラウンドである昭和アナログが、これまた、いいのですよ。
 東京のアパートの家賃が6千円で高いとか、東京から出雲までほぼ丸一日電車に乗らなければならないとか、刑事の今西の給料が安くて家に風呂がないとか、まあ、現代とのそういったギャップも読んでいて楽しいんですね。
 残忍な殺人事件の捜査本部が一ヶ月で解散されたのにも驚きましたが、殺人事件の認知件数というのは、実は昭和35年は日本全国で2600件を超えてあって、これは現在のおよそ2倍強にもなるのですよ。
 警察官の数も当時は少ないはずで(本作には警視庁捜査一課が全8班体制)、初動で結果の出ない難事件は後に回されていたのかもしれないですね。
 戦後20年も経ってないんですからねえ。まだまだ荒んだ時代です。国時代が貧乏でした。
 そして時代特有といいますか、ネタバレですが、戸籍再製には驚きましたね。
 これはどういうことかというと、戦時中に戦災で役所の原簿が焼けてなくなった場合、戸籍の再製が法律で決められており、個人が勝手に申請することができたのです。もちろん、役所のほうも補完するのでしょうが、都会の役所はほとんど焼け野原状態だったために、ほぼ申請された通りの戸籍が認められたんじゃないでしょうか。
 誕生日も変えられるし、それどころか歳も変えれるし、へたしたら家族も苗字も変えれるということですよ。
 自分の過去を偽造できる可能性がある、ということですよね。
 こういう発想はおそらく、戦後生まれのミステリー作家ではなかなか考えつかないんじゃないでしょうか。
 ただ、当時は非常に斬新というかファンタジーだったかもしれない、作曲家の彼の“殺人方法”については、失業給付金の書類が意味不明に現場に捨てられていたことといい、現代だからこそ納得しかねる点ではありました。


 
 
 
 
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