「天才までの距離」門井慶喜

 前作「天才たちの値段」(カテゴリー・アーティスティックミステリー参照)から引き続く、連作美術ミステリー。
 美術探偵・神永美有、西洋美術史学者・佐々木昭友、イヴォンヌこと高野さくらなど、登場人物は変わりません。
 全体的なテイストもあまり・・・変わらないかなぁ。
 けっして、この本は面白い!、ということはないんですよね、残念ながら。
 ネタというか材料は素晴らしいんですよ。作者はよほど勉強したはずですよ。
 美術ミステリーは、黒川博行(京都市芸大卒)とか思い浮かびますが、滅多に書ける人はいませんからねえ。
 ここまでいい材料を集めながら、どうしてこんなに面白くないんだろう、と途中から考えながら読んでいました。
 普通なら時間の無駄だし放り出すのですが、この本は投げるにはもったいない。
 いろいろ考えた結果、どうやらエンターテインメント性が決定的に足りない、ということがわかりました。
 確かに謎のタネ明かしもこじつけがましいというか、説得力に欠けていたり、美術品の真贋に関わる重要ポイントが神永の舌であるというのも、このシリーズのバカらしさがつのるポイントなんですが、この本が「楽園のカンヴァス」になれなかった一番の原因は、絶対的なエンターテインメント性が乏しい、という点に尽きるかと思われます。
 つまり、極端に云えば、美術論文みたいで漫画ではない、ということでしょうか。
 スマホが手元にあるなら、なるべく検索をしながら読み進めたほうがいいと思います。絵の画像とかね。
 それでも、最後の唯一の書き下ろしの作品だけは、けっこう面白かったですね。いい形になっていたと思います。

「天才までの距離」
 前作最終話の流れで、京都の4年制大学准教授に赴任した、イタリア美術史学者の佐々木。
 東京とは距離を置いていたが、いきなり教え子だったイヴォンヌこと高野さくらが、彼女らしくない紺スーツ!でやって来て言うには、あの美術コンサルタントの神永未有が、金の亡者になったという。マジで!?
 美術品の真贋を見極め、文化財の真実を見抜く天才の舌を持つ男。贋物を見れば苦味を感じ、本物を見れば甘味を覚える。美術商の地下倉庫で再び相まみえるふたり。お題は、近代日本の美術史学研究の創始者で、日本美術の影の大立者、岡倉天心。滅多に筆を持つことのなかった彼が、明治29年に残したという、法隆寺夢殿の救世観音像図。はたしてそれは本物かあるいは・・・

「文庫本今昔」
 佐々木が東京から関西に舞い戻って8ヶ月。雑誌の仕事で、小学校の旧友を30年ぶりに訪ねる。
 彼の名は中池稔。大阪市中央区の由緒ある財産家だ。
 佐々木はここで、ヒャクスイなる謎の作家の描いた、岩波文庫の表紙の葡萄唐草の切り絵を見せられる。
 昭和2年の文庫発刊時より、一貫して変わらないデザイン。
 それは当時は絶頂ながら現代はまったく顧みられていない、日本画家・平福百穂の考案したものだった。
 はたして、中池家の唐草模様の切り絵は、かの平福画伯の手になるのか!?

「マリーさんの時計」
 大阪の帝塚山で標準語の私塾をしているという、元アナウンサーの女性から手紙をもらった神永美有。
 親しい人から預かった柱時計を見てほしいという。さっそく、大阪にやって来た神永。もちろん佐々木を伴っている。
 一見、第二次世界大戦以前の品に思える。底板にはフランス語で“親愛なるマリーへ”と記されていた。
 神永の舌は、甘いと感じたのだが・・・この柱時計には驚くべき秘密が眠っていたのだ。
 戦後日本の高度経済成長期に、服部時計店(セイコー)が世界で初めて売りだしたクォーツのメカニズム。
 それが19世紀のフランスはパリ大学、さる高名な科学者とリンクすると・・・

「どちらが属国」
 これもネタは面白いだけに、作者の中途半端なタネ明かしがアダとなりましたね。
 またイヴォンヌが、京都にやってきた。今回は、論敵を打ち負かしたいという。
 その論敵とは、テレビでおなじみの中国歴史学者、山野辺ゆかり。彼女が講演で日本は文化的に中国の属国であると言ったのだという。それを聞いたイヴォンヌはすぐさま立ち上がって、中国こそ日本の属国だと反論したというのだ。
 確かに、漢字も仏教も儒教的倫理観もお箸も中国からの輸入だと言えるかもしれない。
 しかしだからといって、日本が中国の属国であるとは聞き捨てならない。憤るイヴォンヌに対して、山野辺は一枚の水墨画を見せた。それは中国宋代の画僧である牧谿筆「白沙布袋図」。中国ではまったく知られていない牧谿だが、日本では足利将軍時代から大看板だった。そして、この京都のある大寺院に納められていた一幅の絵は、贋作だという。
 贋物に目も眩むほど、日本の中世文化は中国だのみだったのか?
 いえいえ、本家中国を凌ぐ技術が日本にもあった。それこそが日本の凄さなのである。イヴォンヌの反撃が始まる!

「レンブラント光線」
 これが一番面白かったです。書き下ろしの作品。
 現在、このシリーズは新作が出ていないので、これが神永、佐々木に会える最後かもしれません。
 奇しくも、そういえば神永美有って古本屋の息子だったな、ということを思い出させてくれるお話です。
 前作、シリーズがスタートした物語が、その話でしたよね。
 そう、佐々木が学者の卵だったときに通っていたのも、美術品専門の古書店、無才堂でした。
 そのときに、ある偉そうな金持ちの客が店主(神永美有の父)に叩きだされたエピソードがあったそうです。
 この客の男が、有名なベンチャー企業の経営者になったのですが、この男に佐々木が絵を売らなければならない事態になってしまうのです。里中琴乃という優秀な教え子が、実家の会社が倒産し、学費が払えなくなってしまったのでした。
 佐々木が売ろうとしているのは、冒頭の物語でも登場した岡倉天心に絡むもので、それもびっくりの油絵。
 なんと、17世紀オランダの画家レンブラントの代表作「デュルプ博士の解剖学講義」を、模写した絵だというのです。
 作品の製作年は明治25年。日本画の庇護者たる天心が、何故に油絵を?
 胡散臭そうで、なかなか商談はまとまらないのですが、神永の舌は甘味を感じるといいます。


 
 
 
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