「アルツハイマー病とは何か」岡本卓

 他人事ではありません。
 人間というのは、自分がいつか死ぬことは知っているくせに、それを信じようとはしません。
 ましてや、自分が痴呆になって素っ裸で近所をうろつく未来があろうなど、想像だにしないでしょう。
 しかし、2012年の段階で日本の認知症患者数は、約462万人もいるのですよ。
 これは、実に65歳以上の15%にのぼる数字なのです。
 これでも、自分は永遠に認知症には関係ないと言い切れるでしょうか。
 認知症のうち、67.6%を占めるのが、アルツハイマー病ですが、ここ20年、アルツハイマー病の治療研究は失敗の連続であり、この複雑な病気がなぜ発症するのかいまだわからず、治す方法は見つかっていません。
 今のところ、発症してしまえば、打つ手はありません。
 脳の神経細胞が大きく傷ついてからでは、発症前の状態に脳を回復させることはできません。
 認知症になることなく、楽しく天寿をまっとうするために私たちにできることは何でしょうか。
 それは、予防です。認知症になる前から、認知症にならないための準備をすることです。
 本書は、アルツハイマー病の研究が急速に進んだ1992年から7年間を、アメリカでアルツハイマー病の基礎研究に費やし、現在は北海道の開業医として地域医療に尽力している著者が、アルツハイマー病という恐ろしい病の現況から、予防法、そして研究の歴史と最新の研究情報まで、誰にでも理解しやすく解説した好著です。

 アルツハイマー病は、およそ100年前、ドイツの精神医学者アロイス・アルツハイマーによって発見報告されました。
 アルツハイマー病というのは病名であり、認知症というのは症例のまとまりです。
 ヘルニアに対する腰痛、というたとえでいいかとも思います。
 認知症のうち、アルツハイマー病と脳卒中から起こる脳血管性認知症、そしてレビー小体型認知症で90%を占めます。
 読後の私の理解では、これらの病気は脳の神経細胞を破壊するために、認知症が起こるということです。
 認知症の大部分を占めるアルツハイマー病に罹患した人間の脳は、老人斑(シミ)と神経原繊維変化(神経細胞の内側に細い繊維が束になったようにできる)という病変を起こすために神経細胞が破壊され、萎縮します。
 脳という臓器を形作っている神経細胞がやられるんですから、脳の機能が悪化するのは当たり前です。
 最も中心的な症状であり、最も早い段階で現れる症状は、記憶を司る海馬が冒されるために起きる、記憶の障害です。
 老化による物忘れは体験の一部を忘れるだけですが、認知症は体験の全部を忘れています。
 たとえば、「昼食に何を食べたか忘れる」のと、「昼食を食べたこと自体を忘れる」の違いです。
 ですから、物忘れ自体の自覚がありません。「このごろよく物忘れして・・・」なんて言ってるうちは、まだ華です。
 症状は急速に進行し、見当識障害(時間、場所、人物がわからなくなる)、失語、失認、失行などの中核症状に起因して、幻覚、妄想、不安、抑うつ、攻撃性、徘徊などの周辺症状が引き起こされます。

 では、アルツハイマー病はどうして発症するのでしょうか。
 リスク要因として、加齢、女性、喫煙、遺伝、高血圧、糖尿病、教育歴が短い、脂質異常症などが考えられています。
 このうち遺伝的要因は10%。糖尿病は、脳のインスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くなる)が引き起こされるために、アルツハイマー病の発症リスクが2倍になります。高血圧は、症状がなくてもラクナ梗塞という脳のごく細い血管が詰まることがあるために、脳細胞が破壊される確率が高くなります。
 あるいは、様々な理由によって発症した、脳の炎症が原因ではないかという考えも有力です。
 というのは、日常的に非ステロイド性抗炎症薬を服用している人間は、アルツハイマー病になるリスクが50%以上減少するという驚くべき報告があるのです。関節炎やリウマチの持病がある人は逆にラッキーみたいな?
 現在、日本で使われているアルツハイマー病の薬は4種類で、いずれも進行を遅らせる可能性があるというだけで根本治療にはなりませんが、アルツハイマー病の原因であると考えられてきたアセチルコリンという分解酵素の働きを阻害したりするもので、すでにその仮説は時代遅れになっています。
 私が読んだかぎりでは、脳の慢性的な炎症の結末が認知症として現れるというほうが、真実味がありますねえ。
 ということは、遺伝は別にして、脳によい生活をすれば認知症を発症するリスクは減るということです。

 脳によい生活、つまりアルツハイマー病の予防法とは?
 著者曰く、「1日1600キロカロリー以下の食事、減塩、オリーブオイル・ナッツ類・果物・野菜・魚を中心とした地中海性食事、適度な運動、脳トレもあんがい効果的」ということです。
 特に、ウォーキングなどの運動は脳の健康に非常に有効です。若いうちから歩けば大丈夫です。
 運動をしない人間の脳は腐る可能性が大きいということでしょうね。
 
 認知症の周辺症状で激しい症状を起こす人は、激しい生き方をしてきた人が多いそうです。
 おとなしい生き方をしてきた人は、認知症になっても症状がおとなしいということでしょうか。
 あなたはどうでしょう。激しいボケ方をするのも、また人生ですかね・・・私はたぶんこっちだと思います。


 
 
 
 
 
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