「螻蛄」黒川博行

 疫病神シリーズ第4弾です。
 相変わらず面白いですが、今回は絵巻物争奪という、遂に著者得意の古美術界へと、二宮と桑原が足を踏み込みましたな。骨董の世界もこの作者が書けば、たちまち詐欺まみれの世界に変貌するわけですが、棚からぼた餅的な不労所得が大好きなふたりのことですので、ピッタリのお題ともいえます。むしろ、今更という感じもなきにしもあらずでしたね。
 他にも、複雑になりがちな相関する人間関係や因縁などが、これまでの作品と比べてわかりやすいと感じました。
 つまり、面白くて読みやすいということです。
 タイトルの「螻蛄(けら)」は、オケラという気色の悪いバッタみたいな昆虫を前から見るとバンザイ、お手上げ\(^o^)/してるように見えることから、バクチなどで有り金を擦るとことを「オケラ」といいますね。これもまた、二宮と桑原、特に二宮にはピッタリの言葉であろうかと思います。

 ほな少しだけ、あらすじいきまひょか。
 去年、悠紀が見合いしたとあるので、前作から約1年ということかな。
 相変わらずカツカツのやりくりをしている建設コンサルタントの二宮。
 ビルやマンション、自治体の再開発といった建設現場にはヤクザがまとわりつく。下請け工事を強要することもあれば、騒音がうるさいなどと難癖をつけて工事を妨害する。建設会社が暴力団対策として、ヤクザをつかってヤクザを抑えることをサバキといい、二宮は建設会社からサバキの依頼を受けて適当な組筋を斡旋し、その仲介料を得ている。
 彼の生活で、前作から変わったことといえば、車がコロナ(たしかドアがもげたよな笑)から中古のアルファロメオ156に変わり、マキちゃんというオカメインコを事務所で飼っていることくらい。
 そしてまた“疫病神”がやってくる。
 中朝国境の豆満江では北朝鮮警備隊銃撃され、東三国のマンション現場では基礎抗に埋められかけた。
 桑原に敵対するヤクザに監禁されてズタボロになったことも一度や二度ではない。触らぬ神に祟りなし、たとえ火が降り地が裂けようと桑原にだけは近づくまいと、心に誓っているにもかかわらず、いつのまにか二宮はコンビを組んでいる。
 今回は、二宮の実家が檀家であるお寺へと接近するのに利用された。
 日本には7万5千もの寺があり、坊主の数は30万人、6千万の信者がいるという。まさしく仏教徒の国である。
 その中には、信者の信心を利用し、税金が免除されているのをいいことに甘い水を吸っている生臭もいる。
 二宮の菩提寺の住職も、開祖伝法の絵巻物を元にデザインしたスカーフを販売しようとしていた。
 その絵巻物は、宗祖壊海聖人以来約八百年の法灯を誇り、六千の末寺、五百万の信徒、全国に張り巡らされたネットワークを持つ日本屈指の伝統教団、伝法宗慧教寺派管主仁科家所有の宗派宝物であり、国の重要文化財に指定されてもおかしくないものであった。
 ところが、宗派内には管主の後継問題を火種とした醜い争いがあり、金銭問題も絡んで1億円の値打ちもあろうかという仏宝の絵巻物の所在がはっきりしないのだった。ひょっとしたら、借金のカタになったのか?
 絵巻物の在り処に他ならぬ金のニオイを嗅ぎつけた桑原と二宮の、壮絶な股旅暮らしが始まる!
 偽物の絵巻物を掴まされ、標準語をしゃべる東京のヤクザに襲われ、二宮は修学旅行以来2回目、桑原は初めてという東京へと疫病神コンビ堂々の見参! さらに骨董や法灯といえば京都ももちろん、名古屋まで行脚する四方八方のドタバタ劇の行方はいかに!?

 しかしまあ、二宮は頭を割られ、眼と鼻を殴られ、脇腹を蹴られたりと満身創痍ながら、この悪漢サスペンス物語に吉本新喜劇的なそこはかとない笑いがあるのは、なぜなんでしょうね。
 疫病神とはいいつつも、ヤクザや生臭坊主を締め上げるときなど、桑原が脅し役、二宮がなだめ役となって、まるで取調室の刑事のように役割分担ができており、なかなかいいコンビぶりを見せてくれていました。
 今回は今までになかった種類の、非常に魅力的なキャラクターも登場しました。
 稗田涼子。先代の二蝶会組長の愛人ですわ。40歳過ぎですが、美人でスタイルも良く、とても巧く描けていたと思います。誰かモデルがいるのか知りませんけども。二宮ばかりでなく、読む方の私もすっかり心を奪われていましたが、それだけにああいうふうになるとはねー、まったく。途中で、桑原を助けにいったりと、二宮がいつになくカッコつけてたのも、彼女がいればこそでしたが・・・
 桑原の内縁の妻である多田真由美の話では、桑原は家の中ではめっきりおとなしく、缶ビールの1本も飲まず、リビングに寝転がって経済書や、金融、法律の本を読んでいるそうです。なんとも意外ですが、なるほどとも思えたり・・・
 ラスト、二宮が奪って売り飛ばした日本画ですが、作者の室生健児(邦展評議員)という名前になんとなく覚えがありそうな気がして、もしやと思って黒川博行の代表作でもある「蒼惶」(カテゴリー・アーティスティックミステリー参照)をめくりましたが、あれは室生晃人(邦展理事)だったようです。


 
 
 
 
 
 
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