「総点検・日本海軍と昭和史」半藤一利・保阪正康

 戦中・戦後史において日本の第一人者であるご両人の、昭和の日本海軍の真の姿を追求する対談集。
 
 敗戦から65年、原稿用紙4千枚にも及ぶ資料が発見された。
 「小柳資料」と呼ばれるようになるその資料の正体は、水交会(海軍OBの親睦団体)の委嘱を受けた小柳富次元中将が、昭和31年から36年にかけて、当時存命だった旧海軍の将官クラス、47人から聞き取ったものだった。
 そこには、太平洋戦争開戦時の海軍大臣・嶋田繁太郎や、最後の海軍大将・井上成美など、戦後マスコミに絶対に口を開かなかった海軍の重鎮たちの生の声があった。
 日本という国を滅亡の淵に追い込んだ太平洋戦争の開戦に対しての、海軍の責任とは?
 ロンドン軍縮会議、国際連盟脱退、盧溝橋事件、日独伊三国軍事同盟・・・急速に右傾化し、世界の孤児となっていく帝国主義・日本のターニングポイントはどこにあったのか、そして、その裏側には何が暗躍したのか?
 半藤一利と保阪正康という昭和史研究の両雄が、「小柳資料」と海軍を斬る。バッサリ、と。

 この本を読むまでの、私の開戦責任論はですね、大陸における利権を手放そうとしない頑迷な陸軍と、アメリカを仮想敵国として莫大な予算を獲得し続けてきたために、いざとなって後に引けなくなった亀の海軍という図式でしたが・・・
 さらに、国民を煽ったバカマスコミ、煽られる一方で教育程度の低い国民にも当然、ある程度の責任はあると思います。
 昭和8年、満州支配が国際社会から総スカンを受けて、日本は国際連盟を脱退して世界の孤児となるのですが、このときの使節団を、新聞報道に煽られた国民はバンザイで迎えましたからね。
 どのような時代でも、「軟弱外交許しがたし!」、の世論は盛り上がるものでしょう、けれどもそこを抑えて国益を再優先するのが、国家であり政府でしょうよ。この時代の場合は、政府と軍部ですね。
 国民はともかく、政府と軍部は99%アメリカに勝てないことはわかっていたわけだし。
 もちろん、戦後70余年経った日本に存在する私が、今の価値観でもって過去の日本は断罪できないかもしれません。
 私が過去のそのときに存在していれば、積極的に日本の軍事化と右傾化を賛美している可能性もまた高いのですから。
 しかし、本書のように日本を敗戦に追いやった元凶のようなカス軍人が、偉そうに責任を押し付けあうのを見ると、本当に腹が立って仕方ないですね。価値観がどうたら言う前に、面前であれば殴って然るべきでしょう。
 昭和30年代の家族を亡くした国民が、こいつらに仕返しができなかったのは、本当に惜しいことでした。
 ちなみに「小柳資料」の小柳富次は、レイテ沖海戦の栗田艦隊の参謀長です。その時の本も著していて、私も読んでいます(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)。栗田健男はこの資料にも登場しています。このふたりは、小沢治三郎率いる最後の機動部隊が決死の思いで成功させた囮作戦の電信を、握りつぶしましたからね、レイテ湾に殴りこんで死ぬのが怖いから。
 私が大好きな海軍最高の武勲艦である正規空母・瑞鶴は、このオッサンらのせいで犬死にしました。許せない。
 本当に、カスの軍人ですよ(笑)。でも、このふたりなんかはマシだということが、本書を読めばわかるのです。

 陸軍悪玉論・海軍善玉論というのがあります。もはや時代遅れの考え方ですけどね。
 鈍重、横暴で地方的な陸軍に対し、海軍は都会的でスマート、狡猾であるというイメージがありました。
 実際に、東京裁判で死刑になった人間は陸軍ばかりで海軍はいません。
 しかし、はたして海軍が善玉であるというのが、真の姿かというと、とんでもない話です。
 日中戦争やノモンハン事変は確かに陸軍の戦争ですが、太平洋戦争は海軍がしなければ成り立たなかった戦争なんです。海を舞台に戦うのですからね。
 なるほど、山本五十六、米内光政、井上成美の3人を代表格とする海軍の良識派は、日独伊三国軍事同盟に強硬に反対し、大艦巨砲主義を排し、海軍の航空化を主張してなおかつ米英との開戦は絶対に反対でした。
 しかし悲しいかな、それは少数意見であったのですね。
 昭和8年、伏見宮軍令部長と次長の高橋三吉は、それまで海軍省が握っていた予算権を軍令部が強奪することに成功しました。軍令部条例の改正です。天皇は反対しておられたのですがね。この一事が、海軍の崩壊が始まる一大転換点であったと半藤、保坂両氏は語っています。
 本来なら世俗を離れて静かに専ら作戦攻防の構築を練って研究する機関である軍令部が、海軍の実権を握りました。
 海軍良識派が粛清され、対米英強硬派一色に染まるのです。
 アホの政治軍人・石川信吾などは現代の価格で2861億円もかかった新型戦艦大和の建造を勧めました。
 停まっていても毎日油を50トンも食う大和は、何ら武勲も立てぬまま全特攻隊戦死者より多い3050人もの戦死者をだして沈んだことは周知の通りです。戦争を起こすような奴原は、やはり時代の潮流がわかってないのです。
 昭和14年、米内海相と山本次官、井上軍務局長が、陸軍の機密費で雇われた右翼の恐喝に屈せずに反対し続けた日独伊三国軍事同盟は、3人を地方に左遷している間、昭和15年にあっさりと締結しました。
 そして陸軍の仕業かと思いがちな南部仏印進駐ですが、本書では海軍の国防政策委員会がそれを推し進めたと書かれています。つまり、決定的な引き金を引いたのは海軍なのですよ。
 結果、米英をはじめとする峻烈な経済制裁を招きました。この時点に及んで、今更アメリカと戦争などできぬと言い出せなくなってしまったのです。国益よりも、海軍存亡の危機を回避することを優先して戦争がはじまったのでした。
 そのあとのミッドウェーや南太平洋海戦など、要所要所の記述にもなかなか面白いところはありますが、ここでは触れないでおきましょう。

 統帥権の問題、つまり陸軍参謀本部と海軍軍令部が統帥の元締めとして政府の管理外にあり、政府の指揮監督を受けずに独立して存在したことが日本の特異性であり、これらが帷幄上奏権を持ち政治の圏外に立ったことが、軍部が特権をほしいままにした原因となった、と言っている方がいました。
 満州問題が実質支配で落ち着いたところくらいで、国際協調に断固切り替えるべきでした。
 そんな最高のタイミングは無理だとしても、悔やんでも悔やみきれない敗戦を味わってまでして変えることのできなかった大日本帝国憲法とはなんだったのでしょう。明治の頃は最高のシナリオでしたが、結局、破滅のプログラムでしたね。




 
 
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