「ブラックライト」スティーヴン・ハンター

 ボブ・リー・スワガー。元海兵隊一等軍曹。
 凄腕の狙撃手であり、3度出征したベトナム戦争では公式狙撃スコア87(実数341)を誇る。
 彼の名は1992年の事件(シリーズ第1作「極大射程」)を境に、伝説的なまでに高まった。
 50歳を間近にした彼は現在、喧騒を避けてアリゾナ州に隠遁している。
 亡くなった戦友の妻だったジュリィと再婚し、ニッキという名の4歳になる娘にも恵まれた。
 伝説の男“ボブ・ザ・ネイラー”は伝説のままに、このままひっそりと暖かで幸せな暮らしが続くかと思われた。
 彼が訪ねてくるまでは。ボブの父のことを本に書きたいと言って、彼が訪ねてくるまでは。
 彼の名はラッセル(ラス)・ピューティ。1994年、オクラハマ州立重犯罪刑務所を脱獄したラマー・パイとオデール・パイの事件(シリーズ第2作「ダーティホワイトボーイズ」)で大活躍した、オクラハマ州警ハイウェイパトロール隊巡査部長バド・ピューティの長男である。作品の中、あのときの彼は秀才のハイスクール生で、名門プリンストン大学に合格したところだった。ところが、本作22歳になったラスはプリンストン大学を2年で退学し、根無し草なジャーナリストの卵になっている。そして、父であるバドを憎んでいるだ。
 なぜか? それは前作で同僚の妻と不倫をしていた父が、結局、家庭を捨てて不倫相手を選んで出て行ったのである。
 ピューティ家は滅茶苦茶になったのだ。
 ラスは、一家を壊した元凶となったのは他ならぬラマー・パイの存在であると考えた。
 そして彼はラマー・パイの事蹟を追ううちに、奇妙な符合に気付いたのだった。
 その符合とは、ラマーの父であるジミー・パイもまた凶悪な事件を起こして警官に射殺されていることだった。
 そう、1955年7月23日アーカンソー州ポーク郡ブルーアイ。当時21歳のジミー・パイは刑務所から出所したその日、いとこであるバブ・パイと共に食料品店を襲撃、警察官ひとりを含む4人を殺害した。
 ジミーとバブ・パイを射殺し、自らもまた凶弾に倒れたのが、他ならぬボブの父・州警巡査部長アールリー・スワガーだったのだ。アールは海兵隊で15年を過ごし、硫黄島の戦いで名誉勲章を授章した第2次世界大戦の英雄だった。
 実はジミーは、アールが戦友ラニー・パイが戦死した際、後見を頼まれていた彼の息子だった。
 しかしジミーは優れた容姿と抜群の運動神経、優秀な頭脳を持ちながら、どこまでもホワイトラッシュボーイ(白人のクズ少年)で、ちんけな犯罪を繰り返し、アールの手にも余っていたのである。
 ラマーの父であるジミーを射殺し、また自分も殉職した警官がボブの父であることを知ったラスは、執筆の協力を請うためにボブの元にやって来たのだ。興味を惹かれながらも当初は断ったボブだったが、父の死以来はじめてその事実に向き合うことを選ぶ。そして、1955年7月23日、アール・リー・スワガーにとって硫黄島以来最悪の日となった一日には、多くの謎が秘められていることを知るのである・・・
 コードネーム“ブラックライト(赤外線スコープ)”の幕が開く!!

 非常に面白い。シリーズを読んでおれば気づきますが、ただの勧善懲悪な冒険小説ではありません。
 アーカンソー州第2の都市フォートスミスの帝王、レッド・パーマがボブの殺害を企てても悪役とはかぎりません。
 深いね。ヒューマンドラマティック的ですね。
 ジミーの妻だったイーディ・ホワイトが流産したと書かれていたので、ラマーを妊娠したのはいつだったんだ? おかしいな、と首をかしげながら読んでいたのですが、まさかこういう驚天動地なオチが用意されているとは!!
 びっくりしましたぁ(^_^;)
 「極大射程」で活躍した、ボブの数少ない友人である老弁護士サム・ヴィンセントが86歳にして少し認知症が出ているのですが、その描き方も読んでいて切なくなるくらい、巧かったですねえ。
 さらに今作では、アメリカの近代的というか南部的というか、人種差別の問題についても勉強になりました。
 要するに、スティーヴン・ハンターという作家は非常に能力の高い、超一流のテラーなんですね。
 ところが、弘法も筆の誤りなのか、実はアールの死んだ日が前作では1955年の8月になっていました。
 あとがきで作者本人が間違ったことを白状しておられますが、こういうこともあるんだなあ。
 私は逆にほのぼのしたというか、今後が気楽になりましたね。
 まだまだこのシリーズの先は長いですが、少々辻褄やキャラクターを忘れても、楽しく読んでいこうと思います。


 
 
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