「ギンイロノウタ」村田沙耶香

 2009年の野間文芸新人賞受賞作「ギンイロノウタ」を含む2篇。
 300ページもない文庫本なのに、文学作品なみに栞がついています。格が高いということでしょうが内容は不気味。
 正直、気色悪い。
 見返しに作者の写真がありますが、このような綺麗な方がよくもまあ、こんなの書けたなと思います。
 まあそら、ホラーコミックとかインモラルなのでも女性のアーティストはたくさんいますから、いや逆に女性のほうがグロテスクを描かせたら一級品だとも云えるのですが、この小説ほど人間という本質に迫るグロいのは、そうそうないかと。
 救いもありませんしね。
 2作に共通しているのは、家族が変だということですか。思い切り変ではなく、そこはかとなくおかしい。
 でもこれくらいのおかしさは、どこにでもありふれていると思いますし、どうしてもそれが原因だったと読めてしまいますから、少し納得がいきません。そして妙に性についての描写が湿っぽくておぞましく、生臭い。イカの匂いがする。
 元より、途中からこれはハッピーエンドで終わるはずがないと思いながら読んでいるんですが、想像以上の暗黒で終わるでしょ。嫌になりますよね。荒唐無稽じゃなくて、いかにもありがちなグロだけに・・・
 「ギンイロノウタ」なんて、たった100ページ強で読み手の脳裏に詳しく、化け物になった少女の幼稚園からの半生を刻みこんでくれるのです。納得させられます。ああ、人はこういう風に狂っていくんだなあ、とね。
 正直、こういう手法はあまり読んだことありません。よほどこの作家が巧いんでしょうね。
 最後のシーンが確か高1くらいだから、それを幼稚園のときから、家庭や学校生活を織り交ぜながらプロットを展開していくのは、並大抵の技術ではありませんわ。その点ではさすが、運ではとれない野間文芸新人賞受賞作です。
 ただ、私は村田沙耶香の作品を読むのは初めてであり、こういうのだとは思っていませんでした。
 青春恋愛ミステリーくらいにイメージしてましたから、次回がもしあれば、その時は心して読みたいと思います。
 たぶんないでしょうけど。

「ひかりのあしおと」
 古島誉は、小学2年生の夏休み前、ピンク色の布地に包まれた怪人に公園のトイレに閉じ込められ、テープを再生するような声で「ピジイテチンノンヨチイクン・・ピジイテチンノンヨチイクン・・」という呪文を頭に叩きこまれた。
 誉の精神はその一件で歪んでしまった。
 彼女はそれ以来、呪文が勝手に頭に浮かんでくるたびに、光からヒト型が迫ってくる恐怖に襲われた。
 大きくなってもそのトラウマは消えず、「岩」と仇名されてクラスメイトと交わらなかった彼女が、友達を作るのは下手だが恋人を作るのは上手かったのは、彼氏がいると光への恐怖が和らぐためだった。誉はつねに救世主を求めていた。
 大学生になっても気持ち悪いと囁かれていた誉。少し勤めただけのバイト先の店長と付き合っていたが、講義で席が隣になった芹沢蛍という透明感のある学生に惹かれはじめる。
 ある日、誉は蛍を実家に連れて行こうとするが、ふたりは旅行に行ったはずの誉の母、愛菜と会ってしまう。
 いつまでたっても、いかなる時でも、みんなから少女のままの扱いを受ける“愛菜ちゃん”と・・・
 すべての登場人物がそこはかとなく、おかしい。
 変態の隆志がまともに見える。


「ギンイロノウタ」
 土屋有里は、子供のころから臆病で愚鈍だった。
 幼稚園での花いちもんめではいつまでたっても名前を呼ばれず、家庭では冷たい父とヒステリックな母親の顔色を見ながら緊張して過ごしていた。オカアさんは時々、アカオさんになった。皮膚が裏返って豹変するのである。
 こうして有里は、なんのとりえもなく半ば見放されて育っていくのだが、子供心にもたったひとつだけの武器である女の体を使って生きていくしかないと思いつめていた。彼女はお気に入りのテレビアニメ、魔法使いパールが使っていた銀のスティッキに似た指し棒を文房具屋で見つけて、幼稚園のころから押入れで自慰をしていた。
 彼女は早く大人になりたかった。初潮をむかえて大人の女性になりたかった。
 しかし中1のとき、クラスで無視される陰気な女生徒ながらもできた先輩の彼氏と、初体験で失敗する。
 こうして有里は、自分の体にもまったく価値がないことを知って絶望する。
 中3のとき、まったくクラスになじまない彼女を無理に心配した担任の熱血青年教師が、帰りのホームルームで「土屋の5分間即席スピーチ」という、つまり有里にクラスメイトに向かって何か喋らせようとするのだが、これが彼女に非常にストレスを生み、彼女は部屋でノートに担任を殺害する妄想をひたすら書き込むようになる。
 しかしこのときは、殺意はノートに閉じ込められた衝動として事なきを得た。
 偏差値の低いお嬢様高校に進学した有里は、周りに知人がいなくなったこともあって少しだけ前向きになる。
 コンビニの夕方バイトに応募する。だが、レジ打ちに緊張してしまいいつまでたっても使い物にならなかった。
 やがてあるショッキングな出来事があり、ついに引きこもりになった有里は、殺人への衝動を抑えきれなくなってしまう。この愚鈍な体から、この青い屋根の下に閉じ込められた空間から解き放たれたい・・・
 
 この話の何が恐ろしいかって、人はこうやって殺人鬼、通り魔になるんだって思えることです。
 しかし考えてみると、そういや女性の通り魔ってあんま聞いたことないなと思い当たりますよね。
 でもね、この作品を参考にもう一度考えてみてください。
 実際に女性の殺人鬼予備軍は、こうやって物影から通り行く人々を見つめているんじゃないでしょうか?
 獲物にした人間の内臓を引き裂くことを想像しながら。
 そう思い当たった瞬間から、夜道が気になって仕方ありません・・・



 
 
 
 
 
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