「宰領 隠蔽捜査5」今野敏

 降格人事をくらった警察官僚の奮闘を描いた“隠蔽捜査シリーズ”第5弾。
 警察庁長官官房総務課課長だった竜崎伸也(警視長)は、現職警察官による連続殺人事件という警察組織全体を揺るがした不祥事で、その事案の扱いをめぐって警察庁と警視庁の方針と対立。さらに息子の邦彦が麻薬を使用したために、懲罰人事で警視庁大森署署長に降格されました。
 ふつう、キャリアが降格人事をくらえば辞めるらしいのですが、しかしこの人、懲戒免職になるまでは警察組織を絶対に辞めません。それは生活のためだけではなく、警察という仕事がピタリと性に合っているからです。
 しかし勘違いしていけないのは、仕事は性に合っていても、組織としては相性がいいとは言えないことです。
 警察活動の合理的な効率を重んじる竜崎は、時にはメンツを立てて憚らない重苦しい警察組織からは浮いています。
 正しいことを言っているのは竜崎なのですが、それだけでは上意下達が徹底している警察組織は回りません。
 大森署の属する第2方面本部の野間崎管理官などは、もっとも竜崎と対極にいる人物かもしれません。
 キャリアの警視長でありながら、所轄の署長に下ってきた人間など、回りにとってはやりにくくて仕方がないのです。
 ノンキャリアにとって、竜崎は地位こそ下でも階級は上であり、しかもまたいつ出世するかもわかりませんから。
 しかし今は一介の警察署長である竜崎にとって日常的に起こる事件、それらを効率的に解決していくためには、ある程度自分を抑えながら、そしてある時には相手を抑えながら、組織を運用していかなくてはならないことは自明です。
 事件の謎解きももちろんですが、このシリーズの面白さは、風変わりなキャリアである竜崎という人間が、旧知である警視長刑事部長の伊丹俊太郎らとの関係を通じたりしながら、自分に対して反感を抱く人間を懐柔して、警察組織の風通しを良くしていくカタルシスにあると思います。
 今回も期待を裏切りませんでした。
 なんせ仲が悪いと評判の、警視庁と神奈川県警の縄張り争いが舞台でしたからね。

 近い将来、入閣間違いなしと言われている与党の実力者、牛丸真造衆議院議員が行方不明になった。
 元警察官僚である牛丸の秘書は、警視庁刑事部長の伊丹に連絡を取り、伊丹は竜崎に内密の捜査を指示する。
 なぜ内密か? 竜崎は訝るが、牛丸議員は以前にも行方をくらましてはひょっこり現れたことがあったらしい。
 しかし、議員事務所の意を汲んだ内々での捜査は長く続かなかった。
 運転手が殺害され、乗っていたはずの牛丸議員が忽然と消えた事務所の車が、大森署管内で発見されたのだ。
 さらに、羽田空港からの高速道路上に、1台の不審車両が乗り捨てられていた。
 どうやら牛丸議員の車は何者かに追突され、大森署管内まで運ばれたあげく運転手は殺され、議員は拉致されたらしい。
 すぐさま伊丹刑事部長を本部長とする、誘拐事件指揮本部が大森署に設営された。
 警視庁からは捜査一課殺人犯および「果断 隠蔽捜査2」(カテゴリー警察・諜報サスペンス参照)に登場した、下平栄介特二係長率いるSITが駆けつけ、2百人規模の体制が整う。
 やがて犯人を名乗る男から、警察に入電。報道協定を解除して大々的に事件を報道しろと迫る。
 世間の注目を浴びることで警察の捜査を煙に巻く、劇場型犯罪か?
 逆探知では、電話の発信場所は神奈川県内。
 殺人と略取誘拐は東京都内で起きたが、現在進行中の逮捕監禁は神奈川県内で起きているようだ。
 伊丹は神奈川県警の協力を得て、犯人が潜伏している神奈川県に前線本部を作り、その実質的な指揮を執る副本部長に、竜崎を据えた。事件発生現場の当事者であるとはいえ、一介の署長が越境捜査をすることは異例中の異例である。
 さらに警視庁と神奈川県警の間柄は、オウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件のときに、神奈川県警の初動捜査のミスを警視庁が声高に批判したことで、くすぶっていた両者の確執は決定的なものになったという過去があった。
 はたして竜崎が前線本部に到着すると、警視庁の事案ということではなからやる気のない神奈川県警のなかで、反警視庁的な雰囲気を隠そうともしない、叩き上げの「地方(じかた。地方採用のノンキャリア)」である神奈川県警捜査一課長が睨みを効かせて待っていた。
 東京の指揮本部と、神奈川の前線本部。ぎくしゃくとした両者の間で竜崎は微妙な舵取りを迫られる・・・
 
 表紙のカバー写真、読み終えてチラ見したとき、意味がわかりました。
 ああ、こんなに近かったのかと。
 さてなんとか2回目の監察官査問を回避した竜崎ですが、そろそろ配置替えしてもいいね。
 今回の流れを汲んで神奈川県警刑事部長とか、どうでしょうか。
 あるんじゃないの。警視庁の伊丹と対決なんて面白いと思いますよ。

 竜崎邦彦 2浪していたが、なんとか東大に・・・
 野間崎管理官 成り行きで指揮本部に参加。意外なキレ者ぶりを発揮。竜崎への態度変わらず。
 板橋武 叩き上げの神奈川県警捜査一課長。反警視庁の急先鋒だが、後半竜崎を救う。
 下平栄介 優秀なSIT隊長。シリーズ2回目の登場で、事件解決のカギを握る。


 
 
 
 
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