「百年文庫 店」石坂洋次郎・椎名麟三・和田芳惠

 27冊目にして、本格的な当たり☆ かも!?
 ポプラ社百年文庫No.27のテーマは、『店』。非常に面白かったです。
 26冊目の『窓』でしたっけ、あれが最悪の出来だったので、もう百年文庫読むのやめようとも思ってたんですが、あきらめないでよかったですよ。このシリーズは、ここで読まなかったら二度と読む機会のないような地味な作品が選ばれていますから、本作に収められている3篇の作品も、きっと知らずに人生終わっていたかもしれないですからね。
 3作目の「雪女」はともかく、「婦人靴」と「黄昏の回想」は面白くて一気に読みました。
 時代背景は、戦後まもなく、くらいでしょうか。
 貧苦という耐え難い現実におかれながら、生き続けなければならない絶望のなかで導かれる精神性の光。
 やはり人生と同じように、文学も貧乏、不自由というバックグラウンドがなければ、昇華できませんね。
 命や恋愛やお金の有難みが出てきませんから。

「婦人靴」石坂洋次郎(1900~1986)
 農家の三男に生まれた又吉は、中学校を出ると、丸井靴店の使用人として住み込んだ。
 丸井靴店は、国道通りに面した二間間口のうす暗い店で、使い古した靴の修繕こそ多いが、滅多に新しい靴は売れない。親方夫婦は気持ちの上では親切だったが、暮らし向きはつまっていて、使用人である又吉も楽ではなかった。
 又吉は月の小遣い5百円で、ひと月2回の休日に、中華そばを食べることと映画を観ることだけが楽しみだった。
 それから6年。又吉の給料は月2700円になり、仕事面でも親方の片腕になったが、貧しいことに変わりはない。
 しかし21歳になった又吉に、春の目覚めがおとずれる。毎月買っている「若人の友」という雑誌に、ペンフレンド募集の便りを出すと、それが掲載されたのである。実は内容は虚栄心に満ちたデタラメも混じっていた。
 しばらくすると、早川美代子という汽車の駅で3つ向こうの町の女性から、手紙が舞い込んできた。
 感激に打ち震えた又吉はすぐに返事をしたため、ふたりは写真の交換をしたり、文通を続けるうちに、直接会うようになった。美代子は、白くてちっちゃくて丸っちい、コロコロ太った元気と魅力の塊のような女性だった。
 又吉は、親方とふたり苦心惨憺しながら、初めてハイヒールを作り、その赤いハイヒールを美代子に贈った。
 しかし、とたんに美代子からの連絡が途絶えてしまう。
 最近でいうとメル友、ライン友みたいな感じでしょうか。いつの時代も男女が出会いを求めることは変わりません。
 本作は1956年「明星」に掲載されたもので、作中の「若人の友」は明星のことだと思われます。


「黄昏の回想」椎名麟三(1911~1973)
 経済的に追い詰められている若林が、新宿のデパートで偶然見かけた老人、それは少年時代にコック見習いとして2年間ほど働いていたカフェのマスターだった。
 しかし、若林はその頃の出来事を、苦痛なしでは思い出すことができない。
 貧乏長屋。寝たきりの父と、吉原の遊郭で下働きをしている母。駆け落ちして行方しれずの姉。
 早くから働かねばならなかった若林だが、彼はカフェでいじめられた。
 彼の顔が面白いといって、カフェの女給たちに寝ているときに鼻の穴にコショウを入れられたりしたのである。
 マスターもそのことを影で笑っていた。彼は若林のことが嫌いでしょうがないようだった。
 女給らいじめる側は深刻に捉えていないが、彼へのイジメはエスカレートしてゆく。
 マスターは、若林の中に自分を見ていたのでしょう。だから嫌いだったのではないでしょうか。
 女性というのは、ブ男には本当に残酷に出来ているもので、これは今も昔も変わりません。


「雪女」和田芳惠(1906~1977)
 荒物屋の長兄の仙一は、脚気をこじらせて足が不自由になった。
 小樽中学校を退学して故郷に帰ってきた仙一は、青年団の経理を務めるうちに、小学校の同級生で料理屋の娘である、さん子と再会し、お互いに意識しあうようになる。
 やがて禅寺の住職の世話で、印章店(はんこ屋)に住み込みで弟子入りすることになった仙一は、修行を重ねるうちに子供のいない親方夫婦に見初められ、店の後継ぎとして考えられるようになった。
 実は、仙一は長兄だが、弟の勘太と父違いであった。
 2年経ち、仙一は、さん子を迎えて印章店に養子になる腹積もりを決め、故郷に帰る。
 前の2つと比べると、少し落ちます。
 雪女というタイトルも、いまいちマッチしていないというか、よくわかりませんでした。



 
 
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