「骸の爪」道尾秀介

 ムクロのツメ、と読みます。
 デビュー作である「背の眼」(カテゴリー・オカルティックミステリー参照)の続編で、書き下ろしの作品です。
 作者と同名である売れないホラー小説作家の道尾秀介と、霊現象の探究家である真備庄介、彼の助手である北見凜の3人が、怪異現象の裏に隠された真相を解明するシリーズなのですが、最近は出ておりませんね。
 最近は道尾秀介もすっかり売れっ子作家ですから、同姓同名の登場人物など照れくさいのかもしれません。
 まあ、めちゃくちゃ面白い、というわけでもないですし。
 とりあえず、少しあらすじというか導入から。

 前作、福島の心霊写真事件から10ヶ月。
 貧乏ホラー小説作家の道尾秀介は、従兄の結婚式で滋賀まで来たついでに、滋賀県の南端と三重県の接する山間にある仏所、『瑞祥房』を訪れることにした。仏像をテーマにして何か文化的ホラー長編でも書いてみようと思い立ったのである。
 仏所とは、仏像やその付属物を製作する工房のことで、瑞祥房は二百年の歴史があり、瑞祥寺の檀家だけでなく日本各地から仏像の発注を受けている。仏像を彫る仏師は、房主六代目松月を筆頭に5人もおり、客人のための宿坊もある。
 怪異は、到着した深夜に起きた。
 昼間取材のために使ったカメラがないことに気づいた道尾が、工房で製作された仏像が多数保管されている安置所を通ったときに、懐中電灯の光の向こうで、置かれている千手観音が口を開けて笑っていたのである。
 昼間見た時には、その千手観音は、仏でありながら鬼気迫る迫力があり、顔つきは凛としていた。
 血相を変えた道尾が外に出て敷地を走ると、どこからともなく「マリ・・・」という声が聞こえた。
 そして雑草を踏み越えた道尾の先には、古い社があり、そこに祀られていた烏枢沙摩明王の頭が割れ、そこから血が流れ出していたのである! 肝をつぶした道尾は必死の思いでカメラのシャッターを切った・・・
 伝統ある仏所に隠された、20年前の事件の真相。
 深夜に笑った千手観音は、仏所から20年前に忽然と消えた天才仏師の最後の作品だった。
 それはいったん外国人に買われたが、理由は不明のまますぐに返却された、いわくつきの仏像でもある。
 はたして彼は、自分の生命を仏像に彫り込んだのだろうか!?
 真備庄介が再び、謎に包まれた怪異に挑む、「真備霊現象探究所」シリーズ第2弾。

 ちょっとというか、かなりダメ出し。
 謎解きがクドい。話がうまく行きすぎです。作者が作りすぎている、といいますか。
 小説ではなくて、中学生の夏休みの宿題の工作みたいな気がしました。ボンドの臭いがします。
 これなぜかっていうとね、前作はオカルトテイストだったんですよ。
 オカルトテイストはある意味、不条理なんですが、それはそれで小説的には割り切れない余韻や深みをもたらすのです。
 ところが、本作は前作から一転、オカルティックなテイストをことごとく排除ないしは覆しました。
 超自然的な怪異現象かと思いきや、すべて現実的に割り切れる算段なのです。すべて、ですよ。
 これが、この小説がハリボテのボンド臭い工作品であって、小説ではない理由。
 しかも算段といっても、雑といいますか、ひとつネタバレしますが、ダニが血に見えますかね?
 カンザワダニという語句をいくら画像検索にかけても、私は血が流れているようには見えないのですが。
 巻末の参考資料を見ると、超自然現象の謎解き本みたいなものも入っているので、あるいは作中に出てくるような血の涙を流すマリア像のネタバレでそういうダニ説があったのかもしれませんが、やはりダニは血には見えません。
 仏像が笑うとか血を流すとか、超自然現象を現実的に解明するのは理知的で面白いですが、読者に納得させないことには、すべて砂上の楼閣ですよ。そんなうまいこと行くはずないってば(笑)

 もちろん、褒めれるところもあります。当然です。
 なかでも目を引いたのは、仏像を利用した死体の処理法ですね。
 かなり作者は、取材というか仏像、仏所について勉強されているようですが、ひょっとしたらミステリーを書くために遺体の処理方法を探しているうちに、この物語を思いついたのかもしれません。
 完全犯罪といいますか。
 漆で作られる仏像(よく見るテカテカの七福神など)は、粘土の型の上に漆を染み込ませた麻布を五層六層と貼り重ね、後から中の粘土を抜いて仕上げるのです。中が人間の死体であって、「失敗作だ」といってしばらく片隅にでも放っておけば、漆の臭いは強烈ですから、絶対にバレませんよ。仏所で人が消えたといっても、警察が仏像の中まで検査しますかね? 仏師の修行は厳しいので、逃げたのだろうと思われて、おそらく捜索すらしないでしょ。
 あとはわからないように、焼き物を作る窯で焼けば、恐ろしく高温に処理されるので、永遠にわかりません。
 こう書くと、まるで仏所は死体処理場のようですが、バチが当たりますな。
 しかし美しい仏像というのは、実物どころか写真で観ても息を呑むほど、美しいものです。
 読みながら思いだしたのですが、楳図かずおの漫画で、観音様が動き出して人間の血を吸うのがありました。
 あれは最凶でしたよ。


 
 
 
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