「大地のゲーム」綿矢りさ

 綿矢さん、これは何?

 期待して読みましたが、ハズレです。
 綿矢りさの書いたものとは思えません。
 いや、読めばその文章の裏表から、小説家・綿矢りさの書いたものであることは一目瞭然なんですが、恋愛物語でもなく、SFでもなく、エンターテインメントになりきれない中途半端な純文学とでも言うのかなこれは、非常に読みにくいです。
 今までこの方の書いてきたものは、どれだけひねろうと読みやすかったのが特徴でした。
 これだけ読みにくい綿矢りさを初めて読みました。
 つまらなかったです。
 これは作家・綿矢りさの飛翔じゃなくて脱線ですね。一時のことだと思いたい。

 あらすじ。
 の前にひとこと言っておけば、この物語に登場するキャラクターで名前が付いているのは、マリとニムラだけです。
 ニムラは集団リンチで殺されるというチョイ役ですから、登場人物に名前がない理由は、あえて読者に公開するキャラクターの情報を少なくし、非ヒューマンドラマ性を強調したと考えられます。
 それはおそらく、この物語は大地震という、どこでもいつでも起こりえる天災をバックグラウンドにしているからでしょう。
 だからキャラクターは、誰でもよかったんです。どこにでもいつにでも「だれにでも」起こるのが災害ですから。
 主な登場人物は、一人称の主人公である“わたし”と、私の男、リーダー、兄、など。
 時代は、未来です。親の親が子どもだったとき、東日本大震災が起きたみたいに書かれているので、西暦2100年くらいでしょうか。日本は日本でしょうね。舞台は、大学のキャンパス。たぶん東京。
 原子力という主力エネルギーを失った日本は、蓄電技術の発達によりなんとか国としての機能を保っていました。
 国力は落ち、貧富の差も寒暖の差も激しく、環境の変化や生活習慣の変化で平均寿命は10歳以上縮んでいます。
 隣国から流入する粗悪なドラッグが大流行し、自宅では護身用の銃器の所持が許可されています。
 食べても太ることのない、ダイエット用の消化剤入りスナックなんてものもあります。
 そして、ある夏の日、この国の半分が破壊され、約5万人が亡くなるという大地震が起こりました。
 主人公のいる大学は、安全や治安のためか門を閉鎖し、学生は閉じ込められました。
 電波で流れる有史以来最悪の自然災害という情報に、学生たちは浮足立ち、集団リンチなどの軽挙妄動が起きました。
 そこに敢然と立ち上がったのが、“リーダー”と呼ばれることになる男子学生です。
 彼は、圧倒的なパワーで、不安に慄く学生たちをひとつにまとめ上げ、秩序を作り上げたのです。
 家や下宿先が倒壊し、宿泊場所として学館が開放され、集団生活が行われる中、彼は反宇宙派という思想グループを立ち上げ、「我々は宇宙を疑うべきである! じっさいに見たこともないのに、教育されたからといって信じるのは洗脳のはじまりだ。まず、宇宙を疑うことからはじめよう!」という、最古の哲学といわれる古代ギリシャの懐疑主義を知らずのうちに真似た主張で、学内にも学外にもシンパを増やしていきました。
 世紀末ですな。世の中が変われば、必要とされるものも変わるのです。
 主人公である“わたし”もまた、リーダーに惹かれたひとりです。異性としても好意を持っています。
 大学1年生のときから付き合っている“私の男”はリーダーの片腕です。
 一方のリーダーは、マリという女の子に好意を持っており、誰にも見せたことのない顔をマリにだけは見せている・・・
 半宇宙派は、12月26日の学園祭(他の大学が学祭を中止する中)で、政治劇の上演とリーダーによる演説を催すことになりました。
 その日に何が起きるのかも知らずに。

 冒頭ではボロクソに書きましたが、おっと思ったところが実はふたつあります。
 ひとつは、主人公がアパートに久しぶりに帰ったときに、兄をストーカーしている何者かが潜んでいた場面。
 あのシーンの怖さったらなかったね。ものすごく怖かった。あとから部屋に電気が点いたでしょ? ゾッとしました。
 ホラー顔負けでしたね。綿矢さんはサイコホラーみたいなの書いたらものすごくハマるかもしれません。
 本作みたいに下手に文学性を入れずに、バカになったつもりで一度ホラーを書けばいいんじゃないでしょうか。
 ふたつ目は、主人公が、新しい災害が起きるのを心のどこかでずっと待っていたという場面。
 人がたくさん死ぬときに殺そう、と。
 これ読んだときにやっぱ綿矢りさはすごいな、と思いました。これは面白くなかったけど、ここはすごかった。
 災害で多数の人間が死ねば、その時に殺人を犯してもバレない可能性が高いと考えるのは仕方ないですね。
 この物語の中では、政府が、1年以内に再び超巨大地震が起きるのは間違いないと発表しています。
 すると、すでに地震を経験して生き延びてきた彼らが、次の地震の段階で何を企もうと不思議ではありません。
 ラストで、いろいろ起こりましたね。
 実は、以前から彼らが頭のなかで漠然と計画していたことだったのかもしれません。


 
 
 
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