「おはなしして子ちゃん」藤野可織

 んー、面白いのかどうなのかよくわかりません。
 ただひとつ確かだったのは、最初は面白かったのに、最後のお話まできた時には、もう飽きてました。
 なんだかようわからんわ、というのもありましたしねえ。
 読む前にも観てたんですが、Amazonのページに著者インタビューがあって、読み終えてからもう一度観てみましたが、やはりよくわかりません。というか、この方、何を喋っているのかほぼ意味不明でした。
 外見はほんと保母さんみたいでしょう。ちょっと、トロめの。
 いたずらっ子にスカートまくられて、「こらあぁ」って言いながら内股で追いかけていくような雰囲気ですよね。
 ところが、書くものはイメージと違って、あんがい鋭いんですよ。
 芥川賞を受賞した『爪と目』(カテゴリー芥川賞受賞作参照)もそうでしたね。気色も悪かったですね。
 そして本作は不可思議な10篇の物語で構成されているわけですが、表題作である「おはなしして子ちゃん」のようなホラーや、「美人は気合い」のようなSF、「ホームパーティはこれから」みたいにファンタジックなものまで、すべてに文学的な要素が練り込まれ、中間小説的に仕上げられています。
 どちらかというと、文学的要素のほうが強いですね、表題作以外は。
 目の付け所というか、我々と視点が異なっているんですね。だから人間でないものも喋る。
 日常のちょっとした気づきを見逃さず、小説に起こすことができます。「エイプリル・フール」は特にそう感じました。1日に1回嘘をつかなくちゃ死ぬ、2回嘘をついても死ぬと決まっている子が、どういう人生を辿るかという、バカらしいようでいてこの深遠な発想はなかったね、さすがに。読めばわかりますが深かったですよ。
 そして、やはりこの方は小説を書くのが巧いです。筆力も高いです。
 「おはなしして子ちゃん」のラストね、主人公の元に届く葉書に果物の汁らしきシミがついていると修飾されていましたが、あそこはこの不気味な物語にまさにピッタリの締めだったと思いますし、藤野可織が純文学ホラー作家と云われる所以で、彼女の小説家としてのレベルの高さを如実に示す箇所だったと思います。
 ずいぶんと褒めていますが、それでも、この小説集は面白いかと聞かれれば、わからないんですけどね。
 本人は楽しんで執筆なさったそうですが、読まされる方は少々、食傷気味です。

「おはなしして子ちゃん」
 小学校。小川さんという少し太ってとろい女の子を、みんなでいじめるんですが、理科準備室の不気味なサルのホルマリン漬けの奥に彼女の縦笛を隠すのです。それがきっかけになってビンのなかのサルが喋り出すのですが・・・
 純文学ホラーの才能が随所にうかがえる一品。サルがビンの蓋を開けて出てくるところの描き方が巧い。
 しかし、ホルマリン漬けって私も学校で恐る恐るながら興味津々でしたが、授業にはいっさい使われません。
 いったい、何のためにあるのでしょうか?
「ピエタとトランジ」
 自分の周りで事件ばっかり起きるという転校生のトランジと仲良くなったピエタ。
 やがてピエタの彼氏をはじめとして、クラスメイトや教師に次々と不幸が訪れる・・・
 異常すぎる展開に不釣り合いな少女2人の疾走感が、読み手の感覚を麻痺させる。
「アイデンティティ」
 猿と鮭の死骸を縫い合わせて作られた人魚のミイラのアイデンティティとは?
 作者がここで言いたかったことは、ラストに書かれている「生きていると、ときに自分の望まない自分の像を押し付けられることがある。また、自分が理想の自分とはまったく違うものに成り果ててしまうこともある。しかし、人生でいちばん大切なのは、ありのままの自分を受け入れてくれるパートナーに出会うことだ。そして、自分自身でもありのままの自分を受け入れること」でしょう。
 こう書いてくれてあるのは親切ですよね。逆にこの方の書くものには、比喩や暗喩が存在しているということです。
「今日の心霊」
 2歳10ヶ月で初めてシャッターを切ってから二児の母となった今まで、写真を撮るたびに、そこに幽霊が写り込むハンドルネーム・micapon17。眼球をぶら下げた男の生首。はるか上空からまっさかさまに落下してくる女性。本人だけには見えない、生と死のコントラスト。絵画に陰影法があるように、生と死でも芸術は成り立つ?
「美人は気合い」
 人類はほぼ滅亡した地球。人工知能の宇宙船に胚盤胞を乗せて、他の生命体に接触させるべく出発させたが、人工知能は壊れて現在の時空座標さえもわからなくなった。壊れた人工知能が胚盤胞を育てるのだが・・・
 ダイナミックすぎて何のメタファーかわかりませんが、発想は面白いと思います。
「エイプリル・フール」
 14歳の夏に高熱を発症したエイプリルは、一日一回嘘をつかなければ死んでしまうという後遺症が残る。
 ちなみに一日二回嘘をついても死ぬ。「わたしは蝶を食べるのが好きです」という決まった嘘を一日一回喋る以外は口を利かなかったエイプリル。彼女が誤解して口を開けば街は大混乱になるのだ。嘘というのは何か? たとえば「おいしい」という言葉も4割だけおいしかったら嘘になるのか? だったら10割全部おいしいなんて食べ物があるのだろうか。「死にたくない」という言葉を発して日付が変わったとき、死ななかったのは愉快でした。
 面白かったですね、この作品は。ちょっと、終わり方がいただけなかったけれども。
「逃げろ!」
 通り魔。頭のおかしい人間は早く走ることができるのは、頭のおかしい人間に追いかけられているかららしい。
 逃げるだけでは永遠に走り続けなければならない、だから誰かを殺す。
 これのオチは、彼女もまた通り魔だったと思って主人公が死んだことでしょう。追っているつもりが追われていた、と勘違いして。殺し方が違えば、事件の記事で気付くはずです。
 自分がこう思われているとか嫌われていると感じるのは、ほぼ妄想です。
 自分を追い詰めているのは、結局、自分ですね。
「ホームパーティはこれから」
 今日はホームパーティの日。ヘッドハンティングされた夫が、夫の会社の人たちに新築のマンションと私をお披露目する日。フットサルの帰りに10人ほど寄るはずが、いつのまにか幻想は膨らんで・・・
 これ、真相はわかりませんけど、ちょっと怖いですね。死んでるんじゃないですか、この人。
 ジャージを履いてすっぴんの私と、SNSの異空間の中で振る舞う私のギャップが生み出した幻想、というのが教科書的な答えでしょうか?
「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」
 2022年から15年間活躍した、ハイパーリアリズム点描画派という一派は残らず死に絶えた。
 500号以上のキャンバスに、刻々と変わる風景を、針のように尖らせた筆で点を打つ技法が苛酷なせいである。
 点と世界。つまり、時間と、この「世界」ということでしょう。
 この画派のやっていたことは、ビデオを絵にしていたようなものです。
 だから、篠原博という男は、自分の人生を絵にした、ということになります。
 だけど絵のなかで時間は経ちません。観る方向によっては、点の集合にしか見えません。
「ある遅読症患者の手記」
 これも発想は面白いんですけどねえ、本が有機質な世界があるという、ここまできたらもう飽きましたよ(笑)
 ラストのイラストも、いかにもっていう感じで、スベリましたね。
 まあ、本が有機質か無機質かというのは、紙書籍と電子書籍のメタファーでもあるだろうし、有意義に読書ができる人と本を読むのが苦手な人という違いを喩えているとも云えるかと思いますが・・・


 
 
 
 
 
 
 
 
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