「強い力と弱い力」大栗博司

 いじめ問題、教育関係の本ではありません。
 この宇宙は何でできているのか、その間にはどのような力が働いているのかを明らかにし、私たちがどうしてここに存在していられるのかという、宇宙の深遠な謎に答えようとする素粒子物理学の中級入門書です。

 未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である 湯川秀樹
 物質とその間の力をすることで、自然現象を理解しようとする科学が物理学なら、“素粒子”という物質の最小単位とそこに働く力の秘密を探るのが素粒子物理学です。
 原子は原子核と電子にわかれ、原子核は陽子と中性子にわかれ、陽子や中性子はクォークが3個で出来ています。
 つまり物質の最小単位(フェルミオン)はクォークというものだそうです。
 ところが、たとえば陽子の質量の中でそれを構成しているクォークの質量はわずか1%にしかなりません。
 残りの99%は、エネルギーなのです。有名なアインシュタインの特殊相対性理論の公式E = mc2は有名ですね。ミクロの世界はエネルギーに満ちているのです。
 かりに1グラムの1円玉をすべて電気エネルギーに変換できたら、8万世帯の1ヶ月分の消費電力を賄うことができるってんだから、すごいですね。原子力発電もこれの応用なのです。その燃料にウランを使っているのです。
 素粒子物理学は、素人には理解しにくいのですが、実は密接に私たちの生活に結びついている科学なのです。
 著者の前著『重力とは何か』(カテゴリー物理・宇宙参照)は、アインシュタインの光の性質に関する特殊相対性理論と、重力を説明する一般相対性理論を、これまで読んだどんな物理学入門書よりもわかりやすく解説してくれいる好著ですが、そこにも自動車のナビシステムにアインシュタインの理論が応用されていることが説明されていました。
 本書は前著よりも、若干レベルアップしたというか、難しい内容になっています。
 しかし超電導の仕組みを取り入れたり、ヒッグス粒子というものを素人相手に下手に出て勘違いを生むような説明をせず、真正面から理解させようとするその姿勢は素晴らしいと思います。
 CERN(欧州原子核研究機構)のLHCのヒッグス粒子発見のメカニズムも素晴らしくわかりやすいです。
 私たちが手を叩いて音を伝える空気の存在を実証できるように、手を叩く代わりに、2つの陽子を超高速で衝突させ、そのときの衝撃でヒッグス場を揺らして波を起こし、その波がヒッグス粒子として観測されるのですね。
 ちなみに、ヒッグス粒子は素粒子に質量を与えたとか、私たちの周りにはヒッグス粒子がギッシリつまっているという言い方は間違っているようです。先ほども書いたようにクォークの質量は1%しかありません。そしてヒッグス粒子の寿命は10の22乗分の1秒しかないのです。正しくは私たちの周りはヒッグス粒子が出現しては消える“ヒッグス場”というものに囲まれているのです。そして素粒子の質量の起源はいまだによくわかっていないようです。
 『重力とは何か』を読んだ上で、さらに深くこの世界を覗こうとするなら本書を読むべきでしょう。
 ただ、私なりに例えれば、結局はクルマを運転したことのない人が、クルマの運転説明書を読むようなものです。
 実験を直に見ているわけではありませんし、どうしても理解できないところは理解できません。
 でも、他ならぬ人間が住んでいるこの宇宙の真相は何なのか、一歩でも近づきたいと思うのです。
 せっかく生きているのですからね。たとえ真相に近づくほどそれが意味のないことだと思えたとしても・・・

 で、タイトルの意味はというと、この自然界全体には4つの力があります。
 重力、電磁気力、強い力、弱い力。このうち重力は素粒子の世界ではほぼ無力なので、本書では語られません。
 電磁気力は、ふだん我々が目にしている現象を起こしている力で、素粒子的には光子をやりとりしています。
 電磁気力と重力は、ほぼすべての方が知っているというか、感じている力ですね。
 しかし、強い力と弱い力というのは感じ取れることはありません。ミクロな素粒子の世界の話です。
 強い力というのは、陽子の中にクォークを閉じ込めている力のことです。この力は単独でクォークを検出することができないほど強く、つまりもしもこの力がなければ、私たちの体はバラバラになります。
 弱い力というのは、素粒子を性質の違うもの入れ替える力のことで、陽子を電荷をもたない中性子に変えたりします(その逆も)。なんのことかというと、これは放射線と関係しています。弱い力によって構成因子を変えられ、バランスを崩した原子核が電磁波(ガンマ線)の強いエネルギーを放出するのです。
 太陽がじわじわ燃えていられるのも弱い力のおかげです。太陽のなかには73%の陽子がありますが、弱い力がこの陽子を中性子に変えることによって核融合が起きるのです。しかし、弱い力は「弱い」のでこの反応は10億年に1回程度しか起きません。だから、太陽はじわじわとあと50億年も燃えていられるわけです。

 ま、わかったようなわからないような。
 印象的だったのは、この宇宙は対称じゃなくなったから今の世界として残っているんだな、と感じたことでしょうか。左右対称だったら、物質と反物質はプラスマイナスゼロで消えるわけなんですよね。
 でもDNAがまったく同じである双子が育っていくうちに違いがでるように、この宇宙は左右対称な世界ではありません。イレギュラーに満ちています。このズレが宇宙を産み、偶然出現した宇宙は、吹き出物が破裂するがごとく加速膨張しているのです。いったんズレた勢いが止まらないんじゃないでしょうか。
 ようは「いったんできてしまったものは案外うまくできています◎」ということですかねー。
 ノーベル賞受賞者40余名含む数多くの優秀な理論物学者が、紙と鉛筆を使って構築してきた素粒子物理学の世界。それでも宇宙の95%ほどは、私たちの知らない暗黒物質と暗黒エネルギーでできていますから、まだまだわからないことだらけです。ヒッグス粒子はその存在を予言された1964年から発見まで48年もかかりましたが、CERNの実験のように人類の知性は効率的に集約されつつあります。一歩一歩、謎は解かれていくのでしょう。
 これで著者の大栗博司の本は2冊目ですが、いよいよ専門である超弦理論の本も出たようですね。
 わからないながらも、目を通しておかなければと思っています。

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