「リターン」五十嵐貴久

 10年前。
 警視庁捜査一課の菅原刑事から右胸と腹部に2発の銃弾を受け、救急車で搬送されたリカ。
 しかし彼女は救急隊員2名と警察官1名を救急車内で殺害して逃走すると、愛する本間たかおを再び拉致した。
 翌日深夜、八王子の廃病院で本間のクルマが発見された。踏み込んだ菅原刑事が見たものは、生きながら切断されたとみられる本間の手足と両眼、鼻、耳、舌だった。
 リカは、本間の胴体だけを抱えて忽然と消えた。
 菅原はリカの信じられないほどの悪意に圧倒され、発狂して廃人となった。
 そして10年間、延べ千人の捜査員を投入してリカを追い続けた警察。しかし行方は杳としてつかめなかった。
 それが・・・
 突如、八王子の山で、スーツケースに入れられた手足のない男性の遺体が発見されたのだ。
 検死の結果、手足の切断は10年前で眼球や顔のパーツをえぐり取られているこの遺体は、2002年12月に行方不明となっていた本間たかおのものであることが明らかとなった。驚くべきことに死因は食べ物をのどに詰まらせた窒息死だった。リカは胴体だけとなった本間たかおと10年間、ふたりだけの愛の巣で暮らしていたのだ!
 彼女は自分だけの妄想の愛に浸るために、邪魔となる本間の手足を切断し、目を取り出して舌を切り取った。
 毎食つつましく世話をして栄養を与え、彼女の妄想の耳は彼女への愛を囁く声を聴き、毎日の出来事を楽しく打ち明けた。しかし、彼女のおもちゃになっていた本間たかおは死んだ。飯をのどに詰まらせたのだ。だから彼女は捨てた。スーツケースに入れて山に捨てた。ゴミを放るようにそれを投げ出したのだ。
 リカは恋人が欲しかった。本間以上に愛せる男、自分を理解してくれる男性を必要としていた。
 リカがやってくる。愛を求めてやってくる。
 愛情モンスター・リカ、リターン!( ゚д゚ )クワッ
 今度は誰が餌食?
 
 怖いわ、これ。
 不覚にも読みながらちょっとビビる部分がありました。
 よいこの皆さんは読んではいけません(ー_ー;)
 何が怖いかというと、捜査一課の刑事でありリカとコンタクトをとっていた奥山次郎のマンションに、コールドケース事件担当の梅本尚美とその同期で奥山の婚約者である青木孝子が踏み込んでいく場面があるんですが、その描き方がですね、ホラー映画的な描写というか妙に立体感とリアリティがあって非常に迫力を感じました。
 でもこの場面は実はまだマシでして、手足も眼球も鼻も舌もない本間たかおが10年間もどんな意識下で生きていたのかと思うと、前作で彼を知ったのがつい最近であることもあって、とても生々しく、物語を通してその恐怖がずっとこびりついていました。正直、リカの生活費の問題とか高円寺からの脱走ルートとかまともに考えればおかしな部分が多々ある小説なんですが、本間たかおがダルマにされていた恐怖で読んでいる間は正常な感覚が痺れているために、少々の小説的な不具合は気になりません。
 しかし・・・ふつう異性にフラれるとプライドが傷つきますから、そう何度もアタックできるものではないのです。人間誰しも自分の心の平穏を守ろうとしますからね。ところが、ストーカーになる奴なんてのは、自分への防衛本能が強すぎるために、逆に相手を攻撃することによって自分を守ろうとしてしまいます。そこに相手の人格への配慮はありません。自分のことしか考えていないのです。
 リカなんていうのはストーカーどころの騒ぎではありませんが、反社会的人格障害の最たるものと言えます。
 でも魔界の者とまでは言えない。銃で撃たれて復活するのはともかく、相手を不具にしてまでも自分のものにしてしまうその実行力と強い妄想を持ったサイコパスは今もどこかに実在しているはずです。
 彼女彼らと私たちの見ている景色は同じようで実はまったく違っているのです。これが、怖いところなんです。
 ふとした偶然にこれらの魔物に捉えられる可能性はまったくのゼロではありません。
 どんな人間の心にも闇が潜んでいます。あなたが覗き込めば、あなたもまた深淵から誘い込まれるのです。
 おー、こわ。リカこわい。たかおさんたすけて・・・


 
 
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