「シンクロニシティ」川瀬七緒

 法医昆虫学者の赤堀涼子の活躍を描くシリーズ第二弾。
 法医昆虫学とは、ウジと死体につくいろんな虫を使って、遺体の死亡日時や被害者、加害者が置かれていた環境を推定する学問です。本当にあるのかどうかは知りません。でもアメリカとかにはなんとなくありそうですよねえ。
 ハエは死臭を嗅ぎ取って10分以内に遺体に卵を産みつけるそうです。クロバエ科のハエだと、産卵期間が6日で発育期間が12日間続きます。そのあとサナギになって、だいたい17日かけて成虫になります。
 そういうふうに、死体につく虫の種類は予測できるパターンで移り変わっていきますから、それぞれの齢(れい)さえ特定できれば、おのずと死後の経過時間がわかるわけです。
 また、屍肉をウジが食べて、そのウジを小型のハチが食べ、小型のハチを大型のハチが食べるように、エサがある場所にはあっという間に生態系が築かれます。もしも犯人が遺体を動かした場合なんかには、犯人がどんな工作をしようが必ず自然の生態系にほころびが出るのです。その場所で生態系が崩れていることを、赤堀涼子は見抜くのです。自然の摂理を利用した素晴らしい科学捜査の応用システムだと思いますし、マニアックなネタを素材に新しいミステリー小説に挑んでいる作者の発想が成功につながればいいと思います。続編が出ているうちは大丈夫。

 簡単にあらすじ。
 物語の舞台は2つ。東京南葛西警察署管内で起こった殺人遺体遺棄事件の周囲と、福島県の過疎の山村です。
 この2つの場所が合わさるとき、物語の謎は紐解かれ、一気に大団円と向かいます。
 前作「147ヘルツの警鐘」(カテゴリー・ミステリー参照)では、日本で初めて法医昆虫学を駆使して板橋の放火殺人事件を解決に導いた赤堀涼子。ウジの成長スピードの違いから、炭化するほど焼けたガイシャの麻薬摂取を突き止め、警察組織に昆虫学の力を認めさせました。それから1年後。
 南葛西署管内のトランクルーム(貸し倉庫の1室)で身元不明の遺体が発見された事件で、赤堀涼子に再び出番がやって来ました。相棒はまたもや警視庁捜査一課警部補で重度のクモ恐怖症の岩楯祐也。私、前作の内容をさっぱり忘れていたのですが、この“クモ恐怖症”でパッと雰囲気だけは思い出せました。インパクト強かったです。
 今回は、岩楯に南葛西署捜査課のコンビが付きます。月縞新という27歳の巡査なんですが、覇気がなく、ちょっと変わっていて、非常にハンサムなんですが浮いています。小笠原諸島の交番に異動願を出しているらしいのですが、これがラストでは本庁の捜査一課を志すくらいに豹変していく、その過程を読むのもまた面白いですね。
 トランクルークに遺棄された腐乱死体には、サギソウという湿地植物の種子が付着し、中指が切断され、数十箇所にもおよぶ虫刺されの痕がありました。そして赤堀涼子は、現場近くのアリの巣穴から、トンボでは日本で一番小さな種であり世界的にも珍しいハッチョウトンボの羽化殻を発見します。さらにこのトンボが、性モザイクというオスとメスの特徴が合わさった両性具有の珍しい状態であったことから、遺体の殺害現場=珍しいトンボの生息地帯という図式が成り立ち、赤堀、岩楯、月縞の冒険が始まるのです。
 一方、福島の青波郡枯杉村。人口が800人足らずのこの村では、定住促進空き家活用事業という国の政策で、農地付きで空き家を安く貸し出しています。29歳になる藪木俊介も半年前に東京からやって来ました。もっとも彼は農家になるつもりなどなく、実はアンダーグラウンドの球体関節人形作家なのです。
 雪山で命を絶った凍死体の女性に惹かれてしまった彼は、生体の女性を愛せなくなってしまいました。
 そんな彼は、母屋のお婆さんから氷雪花というこの村に言い伝わる人身御供の悲しい伝説を聞いて興味を持つのですが、ふとした拍子に立ち寄った村の古い洋館で、それにそっくりな印象の女性に出会ってしまうのです。
 彼女の名前は日浦瑞希、24歳。まさに生と死の間で揺れ動いているような美しい女性でした。
 物語はいつしか、彼女の周りで怪しく蠢きだし、予測不能の事態が発生するのです。

 シンクロニシティ=偶然の一致というタイトルは深い意味はないと思います、というかこれを作者が標榜していたなら失敗でしょう、まったく意味はわかりませんでしたから。
 前作より明らかに進んでる部分、それは赤堀涼子のキャラの立ちようでしょうね。
 確かに面白い女性でしたが、本作ではまさに生き生きと描かれ、彼女の動きを読んでるだけでも面白いです。
 同じように、岩楯も輪郭がはっきりしていたように思いますし、デビューから三作目にして人間の描き方が格段に巧くなっていると、私ははっきりとそう感じました。
 ストーリーは・・・まぁ、こんなもんでしょう。キャラ、法医昆虫学という素材、今の段階ではこの2つで十分なんじゃないでしょうか。というか藪木の人形などを意識させたミスリードや伏線の張り方は、あまり上手ではないですよね。
 シリーズが続くなら、望むなら次は外来種の昆虫を使った壮大な国際暗躍冒険劇を期待したいところです。


 
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