「一路」浅田次郎

 面白いです*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
 流石は浅田次郎。涙あり、笑いあり、教養あり。そしてハラハラドキドキもあり。
 日本ペンクラブ会長でもあるこの江戸っ子の作家のいいところが全部詰まっているような作品です。
 小説を読むことの楽しさを、改めて教えてくれました。寝ながら読めば、まず消灯のタイミングが掴めないでしょう。
 あっという間の、上下巻700ページ弱でした。幸せなひとときでした。

 文久元年の冬(1861)。
 北辰一刀流免許皆伝、東条一堂塾の英才である小野寺一路は、江戸屋敷の門長屋で生まれ育ち、19歳にして初めて国元の土を踏んだ。先日、田名部の屋敷において、父である弥九郎が失火のうえ焼死したのである。
 御殿様より拝領の屋敷の失火は不始末であり、そのうえの焼死などもってのほかの士道不覚悟であるとされて、初めて見る顔ばかりの国元の侍は、一路の顔を見ると、ぷいと顔を背けた。泊まるあてもない一路は城下の場末にある賭場が開かれているような木賃宿に泊まるしかなかった。しかも、一路には大任が迫っていたのである。
 小野寺の家は代々、参勤交代の道中のすべてを取り仕切る、御供頭という役職であった。
 数日後の12月3日に参勤道中の御発駕が決まっているというのに、急死した父からは己の家の役目について何ひとつ一路は聞いていなかった。一路の御殿様である西美濃田名部郡を領分とする三十九代蒔坂家当主十四代左京太夫は34歳。大名にあらず知行7千五百石の旗本ながらも、交代寄合表御礼参衆という参勤交代の義務を負う別格旗本であった。諸大名の交代はあらまし春秋の時節に定められているのに、どうしたわけか蒔坂家だけが師走の江戸見参なのは謎である。御供頭として参勤道中が迫っているために、失火の責任をとっての家禄召し上げが猶予されたのであって、いかに大身の大名よりは小粒の旅勢とはいえ参勤道中のことなど何一つ知らぬ一路が、中山道12日間に渡る厳しい旅の世話が出来るわけがなかった。屋敷の焼け跡から一冊の古文書が出てくるまでは・・・
 『元和辛酉歳蒔坂左京太夫様行軍録』と題されたこの小野寺家に伝わる古書は、今からニ百数十年前の元和七年(1621)にすでに御供頭であった小野寺家の祖先が書き残したものであった。
 大阪夏の陣から間を置かぬ、いわば参勤交代の原型である。本来なら行軍であった参勤道中の、平和な二百数十年の間に省かれ略されたものの本当の姿が記されていた。
 一路は何も知らないがゆえに、この行軍録にあるお手本通りに長い間に変わってしまったくさぐさを甦らせるのも一興である、と考えた。二百数十年の間に、おろそかにしてはならぬものばかりが消え、どうでもよいことばかりが残っているのではないか。世の中が揺らいでいるのは、そうした繰り返しの果てに武士の魂が失われ、中身のない形骸ばかりがまかり通っているのではないか。
 武者人形かと見紛うきらびやかな劈頭の士。東照権現様御賜の朱槍二筋。貧乏な蒔坂家には破格の百両の道中金と、五十人の徒士と三十人の中間小者、御殿様の替え馬二頭。
 会ったこともない許嫁が現れたり、父と竹馬の友だったという勘定方の協力があったり、父と同じように急死した御供頭添役の跡継ぎが助けてくれてたり、菩提寺の和尚が旅の先達をしてくれたりと、準備はあんがい順調に進む。
 しかし、それこそが落とし穴だった・・・のかもしれぬ!?
 お家乗っ取りの陰謀あり、百万石の姫の恋物語あり、大名旗本同士の本陣差し合い(宿屋が重なってしまうこと)あり、御発駕12月3日、江戸入りは14日、中山道12日間の蒔坂家珍道中、いや、真剣勝負の行軍が始まる!

 一番、ウルっときたのは在郷の神社で参勤道中の前に勝鬨をあげるところでしょうか。
 御殿様は供頭に誘われて殿の階に立った。目に下には八十の総勢が、中間小者に至るまで盃を手にしていた。無言で睥睨したとき、その家来どもが参勤道中に出るのではなく、いざ関ヶ原か大阪に向こうて出陣するような気がした。 御殿様は盃を一気に飲み干し、間髪入れずに地べたに叩きつけた。家来どもが倣った。盃の砕ける音がひとつに揃うた。
 このあと、御殿様は本身をただの一度も見たことのない家伝の太刀を抜き放ち、芝居でしか見たことがなかったエイエイオーの勝鬨を家来と唱和するのですが、読んでいてブルっときました。戦なんて二百年もないんだから、勝鬨なんてあげたことがない、でもやっているうちに御殿様の中にサムライの魂が甦ってくるのです。家来だって参勤道中の途中で忠義の心を思い出すのです。
 学校の歴史の時間では、参勤交代は大名の財務の疲弊を狙った徳川家の作戦であると習いましたが、参勤道中というのはやはり行軍なのですよ、戦いなのです。だから一所懸命に駆けなければならないのです。
 平和な時代には無用と省かれ略されたことでも、なんらかの意味は絶対にあるのですね。
 役者であり俳優である御殿様、十四代蒔坂左京太夫の“うつけ”な生き方もなるほどと思いました。
 宿場宿場でのネタの細切れも逆に、浅田流のお涙ちょうだいがいつもよりしつこくなくてほどよい、と云えるでしょう。


 
 
 

 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (94)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (15)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (15)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (27)
SF・FT・ホラー短編集 (14)
海外SF・FT・ホラー (18)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (32)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (33)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (20)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (13)
文学アンソロジー (55)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (153)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (38)
アンダーグラウンド (47)
事件・事故 (40)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (25)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示