「殺人鬼フジコの衝動」真梨幸子

 文庫本の奥付きはなんと13刷。
 メフィスト賞作家真梨幸子による2008年のベストセラー、今更に読みました。
 恐かった・・・(ー_ー)
 特に、「バレなきゃいいの、悪いことじゃないんだから」「今度こそ幸せになるからね、今度こそいい子になる」などのフジコの一言が、その時々で非常にコワいです。
 心理描写は格別に巧いとも云えませんが、辻村深月などの性善説に比較して性悪説のいい厭らしさがあります。
 前者がジメッとした粘質の性善説なら、こちらはカラッとした乾性の性悪説とでも云いましょうか。
 そして、プロットも単純でありながら巧妙に練り込まれていて、ラストの衝撃も効果的であると思いました。
 真犯人は誰なのか。
 別に特別な考察はありませんが、すべてがはっきり書かれていないだけに、憶測の交じる余地もあるでしょう。
 ひと通り読んだだけですが、今更ネタバレもないでしょうから、あからさまに見ていきたいと思います。

 まず、この小説の構成ですが、はしがきとあとがきは新進の作家で殺人鬼森沢藤子の次女である高峰美也子の手になり、本文(本章)は長女である上原早季子が書いたものであるとされています。なお、ふたりとも死亡。
 本作の大方のネタバレは、美也子の書いた「あとがき」によるものです。それが本当であるならね。
 本作の主人公は、少なくとも15人の人間を惨殺したされる「殺人鬼フジコ」と呼ばれた女です。
 本名は、森沢藤子。平成5年10月26日に逮捕された彼女は、平成15年に死刑が執行されました。
 この物語(本章)は、彼女が小学校5年生11歳のときから始まり、逮捕される前までの波乱の人生を綴っています。決して美人ではありませんが、清涼感あふれ健康的だった容姿は、指名手配犯用の似顔絵では美人だが恐ろしい鬼の形相に変わっていました。彼女の人生に何があったのでしょうか。

 小学校5年生のときの彼女は、頭もよくない、スポーツもできない、顔もよくない普通の女の子でした。
 このまま惰性で成長しても高が知れている人生、彼女は自分でそう思っていました。
 見栄っ張りで遊び人の両親は、金銭感覚が崩壊しており、給食費すら渡しませんでした。
 フジコと腹違いの妹は、体操着も笛も絵の具も共有していました。しぜん、学校では陰湿なイジメを受けます。
 家庭でも虐待されていた彼女は、「あたしは蝋人形、おがくず人形」と自分を痛みの感じない人形にたとえて心を逃していました。このことが、彼女を人形のような外側だけで中味のない人間に仕立てていったのです。
 彼女の人生が一変するのは、自分を除く両親と妹がマンションで惨殺されてからです。
 通称「高津区一家殺人事件」と呼ばれるこの事件は昭和46年10月26日に起こりました。
 家族をなくし、記憶の一部もなくしたフジコは高校を退学するまで、静岡県にある母の妹、茂子の家に引き取られます。
 この間、転校先の小学校では、クラス委員長の小坂恵美が何者かに殺害される事件が起きました。
 中学校の卒業式の答辞を読むまでにポジティブになった彼女は、中学校のときから6歳年上の大学生辻山裕也と付き合っていましたが、バイト先で出会った大月杏奈と三角関係になり、裕也と二人で杏奈を殺害します。
 ふたりは1週間かけて杏奈の遺体をバラバラにしてミンチにして捨てました。死体が見つからなければ事件そのものが発覚しないというのが、フジコの哲学です。
 また、小学校のときからフジコにつきまとっていた雑誌記者もバラバラ死体で発見されます。
 ともに秘密を背負ったフジコと裕也は結婚、フジコは女児を出産し、東京の裕也の実家に転がり込みますが、そこでまた悲惨な生活が待っていました。裕也の実家は聞いていたような資産家ではなく、元資産家であり手狭な市営住宅では口うるさくプライドだけは高い義父に職安に追い立てられる毎日が続きます。
 職安で生保レディの小野田静香にスカウトされたフジコは、裕也と娘の美波の3人でアパートに引越します。
 昼は生保の営業、夜はスナックで働きますが、夫である裕也は無職のままでヒモ化していました。
 はっきりと書かれていませんが、このとき美波は押入れで衰弱死し、裕也もついには殺してしまった可能性が高い。ゴミ袋4つ、という記述に深い意味があるのかどうかわかりませんが・・・
 整形して顔を完璧にした彼女は、銀座で売れっ子のホステスとなり、青年実業家と結婚、二女をもうけます。
 このあと、バブル崩壊により夫は没落、赤坂のマンションから踏切近くのマンションに格落ちし、贅沢な生活の癖が抜けないフジコは、かつての自分の母親そっくりの姿となり、付き合いのあった主婦を殺害、犯行を疑った夫も殺害し、ついに逮捕されるのです。
 印象的なのは、娘である早季子が少年Kに踏切付近で追いかけられるラスト。それは、フジコが小学校5年のときに体験した出来事とそっくりでした。カルマ。カルマからは逃れられない――

 フジコの初めての殺人は、小学校のとき小坂恵美を学校で殺害したことでしょう。
 一家殺人事件は、裏で糸を引いていたのは茂子叔母で、実行犯は茂子と同じ宗教団体に属し、化粧品のセールスをしていた小坂恵美の母親であると思われます。雑誌記者を殺害したのも、このコンビで間違いないでしょう。
 自分の娘を殺したのはフジコであると、恵美の母親は気づいていたフシもあります。コワイですね。
 早季子は自殺とのことですが、美也子もまたこのコンビに殺された可能性が高いです。
 わからないのは小野田静香の関わりですかね。赤坂のマンション時代に茂子がフジコを訪ねたとき、生保の話がでますが、それよりはるか前に一家殺人で保険料を受け取ったのはフジコの養い先である茂子であり、とっくに味をしめていたはずです。
 だからといってフジコは利用されていただけではありません。彼女はやはり正真正銘のサイコキラーです。
 フジコの母の妹である茂子は、フジコがどう成長するか知っていました。宗教にハマっている茂子は、カルマを強く肯定していたのです。闇のその向こうには、もうひとつ闇がある。そしてまた・・・
 光はどこにも見えてはきませんでした。


 
 
 
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